選手の胸の内は、聞いてみないとわからないものだ。
最終日の派手なオレンジ色の上下がトレードマークのリッキー・ファウラー(米)は、1番ティーでスターターのアナウンスを聞くたびに悔しさを押し殺してきた。「フィル・ミケルソンは『米ツアー40勝』と紹介される。2、3勝の選手はどこどこで勝ったチャンピオンの誰々。でも僕は名前だけだ」
2009年秋に米ツアーにデビューし、初戦で7位、2戦目でプレーオフに絡んで2位。「初優勝は間近」と言われながら、惜敗を繰り返すこと2年半以上。紹介アナウンスの頭に付けるタイトルは皆無だった。
同じ23歳のロリー・マキロイ(英)としばしば比較されてきた。「未勝利の君がメジャーチャンプのマキロイと並べられるのは、なぜ?」と問われると、ファウラーは「オレンジ色が目立つから」と答えるしかなかった。
「ファッションで個性を確立したい」。デビュー当時から願いを聞き入れてくれた契約メーカーにファウラーは感謝している。が、「リッキーは永遠に勝てない」なんて揶揄(やゆ)を耳にするたびに、道化師にだけはなりたくないと唇をかんだ。
今年のマスターズでバンド仲間のブバ・ワトソン(米)の優勝シーンを間近に眺め、強い刺激を受けた。「僕もあそこに立ちたい」。高まった戦意がファウラーをウェルズ・ファーゴ選手権で、ついに初優勝へと導いた。
マキロイら3人によるプレーオフの1ホール目でファウラーは見事な第2打を放ち、バーディーで勝利。待ちに待った初優勝の瞬間なのに右手を握りしめただけの小さなガッツポーズにとどめた理由は追悼の意。幼少時代からの唯一のコーチ(75)が心臓発作で逝去してから、もうすぐ1年になる。「気持ちに歯止めがきかなくなりそうだったから、コーチのことはあえて口にしないようにしてきた。天国のコーチに見守られながらの優勝は最高だ」
悔しさや悲しみを覆い隠してきたオレンジ色のベールは、勝利の瞬間だけ透明になり、ファウラーの胸の内をのぞかせてくれた。
これからも彼は「オレンジ色のファウラー」。けれど、これからは「チャンピオン」のタイトルが付く。もう、戸惑うことは何もなく、彼のオレンジはより一層、色鮮やかになる。(在米ゴルフジャーナリスト)