その昔。アーノルド・パーマー(米)は攻撃的に突き進み、たとえフェアウエーやグリーンを外しても、見事なリカバリーで観衆を沸かせた。一方、ジャック・ニクラス(米)は正確にフェアウエーやグリーンを捉える着実なゴルフ。2人の偉人のプレースタイルは対照的だった。
米ツアーのメモリアル・トーナメントはニクラスがホストを務める大会。戦いの舞台となるミュアフィールドビレッジGCはニクラスの設計。それゆえ、ニクラスのような正確性の高いゴルフが求められる仕掛けが随所に施されている。
同大会に初出場した石川遼は、それまでミュアフィールドビレッジをテレビでしか見たことがなかった。それならば、ニクラスのプレースタイルも知らないのではないか。そう思って尋ねてみたら、案の定、「さすがに僕はわからない」。
タイガー・ウッズ(米)のゴルフは知っているけど偉人たちの往年のプレーは見たことがない。石川はそういう世代だ。「パーマーとニクラスは正反対で……」と説明すると、「なるほど。みんな自分の得意なプレーができるコースを作るんですね」と納得顔。そして彼は、こう付け加えた。
「両方のスタイルができる人が強いんですよね」
それができる人――明らかにウッズを指していた。アーノルド・パーマー招待が開催されるベイヒルとニクラス設計のミュアフィールドビレッジの両方を得意コースとしているウッズは「パーマーのゴルフ」と「ニクラスのゴルフ」のいいとこ取り。石川はとっさにそう思ったのだろう。
実際、ミュアフィールドビレッジを制したのはウッズだった。恐れを知らぬ攻めのショット、ピンを捉える正確なショット、奇跡のようなリカバリー。バラエティーに富む技のすべてが高度に完成されていた。
「ウッズのゴルフ」を背後に感じながら最終日をプレーした石川は9位に踏みとどまる大健闘。夕暮れの中、再びプレースタイルの話になり、「石川選手のゴルフは、どんなゴルフ?」と尋ねた。「それが全然わからない。全部普通? 全部下手? これだけは負けないというものを僕は持ってない」
5年、10年、それとも20年後? 世界中で「イシカワのゴルフ」が語られる日は到来するのだろうか。歴史に名を刻むとは、きっと、そういうことだ。(在米ゴルフジャーナリスト)