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役割変わる日米同盟 世界の秩序維持・構築へシフトを

 日本にとって米国との同盟は本当に必要なのか――日本の外交・安全保障戦略を考えるうえで根本的な問題だが、国会でも「日米同盟は我が国外交の要」(安倍首相、1月の施政方針演説)といった決まり文句で片づけられることが多い。日本にはほかにどんな戦略的な選択肢があるのか、その長所、短所は何かを考えてみる。一方、日米同盟の役割は、単なる「日本の防衛」から、アジア太平洋さらには世界の秩序維持・構築へと重心が移ってきている。それにともなって浮上している新たな課題も点検する。(アメリカ総局長・加藤洋一)

4つの選択肢──代わりうる安保戦略見つからず

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 日本が取りうる安全保障政策の選択肢を整理したのが図1だ。軍事力を政策手段として持つことに対し、どこまで規制をかけるか、さらに米国への依存度をどうするかをそれぞれ横軸、縦軸にとって考えると、四つの選択肢が見えてくる。

 「軍事力に対する規制」とは、集団的自衛権の行使や海外での武力行使は認めないといった抑制的な政策方針のことだ。自衛隊の創設以来、一貫して緩和の傾向にある。

その1「非対称な日米同盟」
武力制限で役割拡大に限界

 「軍事力への規制」、「米国への依存」ともに維持するもので、現状がこれに当たる。

 核抑止力や攻撃的な軍事力の行使は米国に依存する一方で、日本は国土の防衛と米軍への基地提供に専念する。役割分担が明確なうえ、日本は米国防衛の義務を負わないため、「非対称」な同盟関係と呼ばれる。

 問題は、役割を拡大しようとしても限界があることだ。図2のように、憲法に基づいて海外での武力行使を自己規制している日本は、外交・安全保障政策の実施で一定の限界がある。さらに、図3に示すような「劣位の同盟国」としてのジレンマから脱却できないため、日本だけでなく米国側にも不満が募りやすいということもある。

その2「対称な日米同盟」
集団的自衛権の行使必要に

 そうした限界と不満を解消しようというのが、この選択肢だ。米国依存は維持しつつも、日本が自らの軍事力に対する自己規制を解除して、米国との能力、役割の違いをできるだけ解消しようというものだ。現在の日米両政府の政策がこれに当たる。

 しかし、この実現のためには集団的自衛権の行使を認めて、日本も米側を守れるようにしなければならない。憲法解釈の変更か、憲法そのものの改正が必要となる。米国は望まないが、究極的には核武装も当然、視野に入ってくる。

その3「武装中立」
政治的、軍事的に地域不安定化

 軍事力への規制解除に加え、米国への依存も解消していけば、武装中立(非同盟)か、米国以外の国との「対称な同盟」という選択肢が浮かび上がる。

 「武装中立」であれば、通常兵力の大幅な増強に加え、現在米国に頼っている核抑止力を独自に持つことも考えなければならない。

 日米安保条約の改定か廃棄、さらに核不拡散条約(NPT)からの脱退も必要になるので、中国、韓国をはじめとする地域諸国だけなく米国の反発も予想される。地域の政治的、軍事的緊張が高まり、不安定化することが目に見えている。

 米国以外の核武装国と同盟関係を新たに構築し、その国の核抑止力に依存することも考えられるが、パートナーとして考えられるのは、アジアの核保有国ということであれば、中国、ロシアだ。しかし、共産党の一党独裁が続く中国や、領土問題を抱え平和条約を結んでいないロシアと同盟関係が結べるかと考えればおのずから限界があることは明らかだ。

その4「軽武装中立」
国土防衛できないリスクも

 最後の選択肢が、軍事力への規制は維持・強化し、米国への依存は減らすもので、軽武装あるいは非武装の中立となる。当然、核兵器、通常兵器の両面で抑止力が低下する。抑止が破れ、実際に軍事紛争が起きた場合には、国土防衛が十分にできないかもしれないというリスクと不安がつきまとう。米国以外と同盟を結んで弱点を補うことも考えられるが、実際のパートナー探しは、(3)でみたように容易ではない。

 もちろん、一国に頼るのではなく、ASEAN地域フォーラム(ARF)など、多国間の枠組みに足りないところを依存するという考え方も当然ある。しかし、アジア太平洋地域に今ある多国間の枠組みはいずれも、安全保障面で果たせる役割は信頼醸成がせいぜいだ。紛争の抑止やましてその処理まではとてもあてにできない。

 そう考えていくと、日本にとって米国との同盟に代わりうる戦略的選択肢はなかなか見つからないということが分かる。あとはいかにして、基地問題など「同盟のコスト」を小さくして、日本の国益により良く沿った形で運用するか、ということになる。

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自衛隊の海外活動――アジアでの「肩代わり」豪も期待
「地域化」「世界化」要求に積極対応

 2月21日、米海軍横須賀基地内にある在日米海軍司令部の会議室。日本を訪問中のチェイニー副大統領を左右から挟むように、日米の将官が4人ずつ並んだ。米側の筆頭はライト在日米軍司令官(空軍中将)、日本側は斎藤隆統合幕僚長(海将)だった=写真。

 米国の政治指導者のもとに米軍と自衛隊のトップが顔をそろえるのは異例のことだった。日本側の出席者は、海上自衛隊のインド洋派遣、陸上、航空自衛隊のイラク派遣にかかわった将官たちで、テロとの戦いをめぐる日米の連携ぶりを強調するのが狙いだったことが明らかだ。

 この会合から約3週間たった今月13日、今度はハワード豪州首相が日本を訪れ、安倍首相とともに日豪安保共同宣言を発表した。「繁栄し、開かれ、安全なアジア太平洋地域」をつくることが目標として掲げられた。

 チェイニー訪日とハワード訪日は底流でつながっている。アジア太平洋の秩序維持・形成に日本がより深くかかわるよう求める米豪両国の思惑だ。

 米側関係者によると、これより前に、ブッシュ大統領とハワード首相は、日本の役割拡大が両国と地域の利益に合致するということを確認していたという。豪州側には、テロとの戦いに加え、東ティモールでの平和維持活動など、軍の海外派遣が相次いでいるため、日本に一部を肩代わりしてほしいという思いがあるという。

 米政府当局者も「戦闘を念頭においているわけではないが、災害救援などで3カ国の軍が迅速に協力できる態勢がつくれればよい。それが地域の安定化につながる」と説明する。

 こうした日米同盟の「地域化」「世界化」の要請に、日本側は積極的に応じている。

 防衛庁の「省」への昇格や、自衛隊の各種海外活動を本来任務とした法改正を踏まえ、安倍首相は今年1月、ベルギーの北大西洋条約機構(NATO)本部で行った演説で「今や日本人は国際的な平和と安定のためであれば、自衛隊が海外での活動を行うことをためらいません」と踏みこんだ。

 「国土防衛」から「世界とアジアのための同盟」(首相)へ――。日米同盟の重心移動はすでに実施段階に入り、日本の取り組みが注目されている。

 問題は、質的変化をとげた同盟を使って一体何を達成するかだ。

 米側の考えははっきりしている。ある関係者は、(1)中国を抑止し、冒険主義に走らせないようにすること(2)民主主義、自由、人権などの価値をアジア太平洋地域に定着させることだ、と説明する。その根底には中国の台頭に「関与」と「均衡」で対処しようという対中戦略がある。

 日本政府も基本的には同じような立場だが、どういう地域秩序をどのようなコストを払ってつくるかについて、明確な考えを示していない。このため、例えば台湾海峡で危機が起きた場合、日本は米国を支援して台湾防衛に踏み出すに違いない、という「理解」が海峡の両岸で独り歩きしている。

 中東についても同様である。米国が戦端を開いたイラクではスンニ、シーア両派の血みどろの対立が続いている。その中で日本は、イスラエルの安全保障を最も重要視する米国に配慮する形で、自衛隊派遣を続けている。

 同盟管理としては有効であったとしても、アラブ産油国からの原油輸入に大きく依存する日本の国益に反しないのかどうか。首相は「中東地域の平和と安定は不可欠であり、我が国の国益にも直結します」(施政方針演説)というだけだ。

 自衛隊の海外活動を本来任務に格上げした以上、それを実現するための人的資源や予算の配分、新たな装備の整備が必要となるが、それもまだこれからだ。米側では予算不足を見越して、日本の防衛費の増額を求める声が出始めている。

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