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武器使用で日本は独自に制約

 自衛隊による「武力の行使」や「武器の使用」には、憲法上の判断から数々の歯止めや制約が設けられている。軍事力への抑制的な姿勢は日本の特徴だが、国連などの集団安全保障措置が重視されるようになると、活動への積極的な参加に立ちはだかる壁にもなっている。日本の基準は他国とどのように違うのか。なぜそうなったのか。(編集委員・谷田邦一、豊秀一)

日本の基準――「隊員の生命守るため、必要最小限」なら容認

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 「警察権を行使する場合などの例外を除き、軍隊の実力行使を『武力行使』と『武器使用』とに区別する国は、日本だけ」

 海上自衛隊出身の安保(あぼ)公人・拓殖大教授(国際法)は、そう指摘する。

 日本国憲法が武力行使を認めるのは、日本が武力攻撃を受けた場合に限られる。しかし、自衛隊が海外に出て活動をする場合、自らの安全を確保するために武器を使う必要が生じることは大いにありうる。

 それを、どういう理屈で認めるのか。

 政府は91年、国連平和維持活動(PKO)協力法の審議の際、「自己保存のための自然権的権利」という独自の根拠を編み出した。

 そのうえで、「隊員個人の生命・身体を守るための必要最小限の武器使用は、憲法の禁じる武力行使にはあたらない」という統一見解を示した。

 個人の自然権をよりどころに、海外での武器使用を認めた格好になる。

 その内容は当然、抑制的になる。武器を使用して相手に危害を加えていいのは、正当防衛・緊急避難の場合に限られる。

 武器を使って防護できる対象も、当初は自分や一緒に活動する隊員だけだった。01年のPKO法改正で「自己の管理下に入った者の生命、身体の防護」にも拡大したが、それでも他国の軍隊や自分の管理下にない人々は、今も守ることができない。

 同じ理屈はPKO協力法のほか、テロ特別措置法(01年)やイラク復興支援特別措置法(03年)などの武器使用の根拠にも使われている。

今後の課題――外国は任務への妨害排除可能
自民内に警護権限求める声

 これに対し、国連や諸外国では「武器使用も武力行使も同じ『use of force』で、その根拠を国際法や国連が認める基準においている」と安保教授は話す。

 国連が各国部隊に示すPKOの実力行使の規則「交戦規定(ROE)」では、自分や部隊のほか、国連要員や保護下にある者(NGOメンバーなど)などを守れる。

 そのほかにも、任務遂行に対する妨害を排除するための武器使用ができるのが一般的だ。

 日本はここでも他国に見られない区別をしている。

 国連の武器使用規則について、内閣法制局は「要員の生命などを防護する場合(A型)」と「任務の遂行を実力で妨害する企てに対する抵抗の場合(B型)」の二つに大別する。

 B型は「状況によっては武力行使にあたる恐れがある」として、現在はA型しか認めていない。

 政府は国際協力を積極的に推進しようと01年、凍結されていたPKO協力法の国際平和維持軍(PKF)本体業務を解除した。形の上では、停戦監視や緩衝地帯の巡回なども可能になった。しかし、要員を派遣する防衛省は「現状では本体業務に自衛隊は出せない」と消極的だ。

 B型の武器使用ができないからだ。「各国並みの権限が与えられなければ、実施は無理。せめて威嚇射撃くらいできないと」(同省幹部)というのが本音だ。

 政府は05年、スーダンのPKOで初めて自衛隊による本体業務の実施を検討した。しかし、森勉・前陸幕長は派遣できない理由を、記者会見で「任務遂行のための武器使用が認められなければ難しい」と述べた。

 武器使用基準が抑制的であるため、実際の現場で隊員が行動の制約を受けたり、生命や身体の危険にさらされたりした事例もある。

 カンボジアPKOでは93年、日本人の選挙監視要員の安全を確保するため、自衛隊員は「情報収集」を名目に巡回を実施した。もし監視要員が襲撃されても、駆けつけて直接の反撃はできない。そこで彼らの前に立ちはだかって自分への攻撃と見なし、正当防衛を根拠に反撃する形をとることにしていた。

 またイラクの復興支援では、近くの地域で一緒に活動する多国籍軍が武装勢力に襲撃されたとしても、駆けつけて防護できないことをめぐり、国会でも論議が交わされた。

 こうした実情を踏まえ、最近では、権限や防護対象を見直すべきだという提言などが示されるようになった。

 官房長官の私的諮問機関「国際平和協力懇談会」(座長・明石康・元国連事務次長)は02年、PKOの任務や権限に「警護任務」や「任務遂行を妨害する試みに対する武器使用」を加えるよう提言した。

 また自民党の小委員会は昨年8月にまとめた「国際平和協力法案」で、自衛隊の海外任務に「治安維持」や「警護」などを加えたうえ、今の基準を緩和して民間人への「駆けつけ警護」もできるようにしている。

 内閣法制局の大森政輔・元長官は、B型を「全面的に否定する憲法上の制約はない」と言う。

 そのうえで、「A型に限定することで支障が出ているのなら、武力行使にあたることを防ぐ制度的な手当てを講じた上で法律上、B型の武器使用を認めることはありうる」と話す。

自衛隊が認められている「武器使用」と「武力行使」
 武器使用武力行使
目的 自分や同じ現場にいる隊員、自分の管理下の者、武器などの防護 領土の保全、政治的独立の確保など
主体 職務を命じられた隊員 防衛出動を命じられた部隊など
武器の種類 個人装備火器が中心
部隊装備火器の一部
個人装備火器と部隊装備火器
武器の使用限度 法令で定める限度 国際法で禁止・制限されない限度 総合的な判断
適否の判断 国内の司法機関 国連安保理 国家間

武力行使――攻撃受けた場合の自衛権
武器使用――PKO機に海外にも拡大

 「武器の使用」と「武力の行使」の違いは何か。ともに自衛隊の実力行使をさす概念だが、両者は自衛隊の発足当初から明確に区別されてきた。

 91年の政府統一見解によると、武力の行使とは「国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為」をさす。

 ただ憲法9条は国際紛争を解決する手段としての武力行使を禁じている。

 政府はこれを「自衛権まで否定するものではない」と解釈。日本が武力攻撃された際にのみ、防衛出動時の自衛権行使として、限定的な武力行使を認めている。

 そこには何重にも制限が加えられている。「急迫不正の侵害」の場合など厳格な発動の3要件を設け、首相が防衛出動を命じなければならない。発動後も無制限に許されるわけでなく、戦時国際法の順守や事態に応じた合理的判断などが求められる。

 領土保全や政治的独立の確保などを目的とし、使われる武器は小銃などの個人装備からミサイルや航空機、大砲などの部隊装備まで幅広い。

 一方、武器使用は「火器、火薬類、刀剣類その他人を殺傷する道具などを用いること」(同政府見解)をさす。

 自衛隊法ができた54年当時は、治安出動と海上警備行動、武器等防護の3任務に限り、警察官職務執行法を準用した警察活動として認められていた。

 国連平和維持活動(PKO)協力法をきっかけに、自衛隊の活動が国外にも拡大したため、政府は安全確保のための海外での武器使用を可能にした。

 武器使用の目的は隊員や部隊、装備品などの防護で、PKOや人道支援活動などでは小銃や拳銃など個人装備の小型火器に限られている。

 ただし武器の大きさや種類にはあまり関係がなく、海上自衛隊がインド洋の補給活動などで武装勢力の攻撃を受けた際に艦砲射撃をすることなども武器使用に含まれる。

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元国連事務局長 明石 康さん

日本のPKO「1周遅れ」
多国籍軍への参加考慮を

 私が国連の責任者として従事したカンボジアPKOから十数年が過ぎた。その後の自衛隊の国際協力に十分に満足しているかと言えば残念ながらそうではない。歩み方は遅々としている。

 当時、同じスタートラインにいたドイツと中国をみても、水をあけられた感が深い。ドイツはアフガンなど多国籍軍に積極的に参加し、中国も国連安保理常任理事国5カ国のなかで国連PKOに最大の人員を拠出する国になった。

 一方、我が国はカンボジア以降はゴラン高原や東ティモールに参加した程度で、現在PKOの大半が展開するアフリカでも自衛隊の姿がないのは常任理事国入りを目指す国としては寂しい。

 国内的に法律的な制約や戦後日本の平和主義にも絡む問題もあるが、例えば国連決議のもとでの多国籍軍への参加も国連主義を旗印とする我が国が参加していけないことはないと思う。

 武器使用については、国連は、「スポイラー」と呼ばれる任務を妨害する勢力、民兵や犯罪分子などに対して、現地司令官の判断で任務の遂行に必要な最小限の使用を認めている。最近は、時には武装ヘリや戦車の使用もやむを得ないという方向に変わってきている。高い軍事能力を持つ先進国はよりリスクの高い任務に関与する最近の流れのなか、日本は一周遅れになってしまっている。(聞き手・野嶋剛)

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