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情報・カネ・脅威、国境溶かす 国際協調へ日本もシフト

 これまでは当たり前と考えられてきたことが、当たり前ではなくなってしまう。21世紀に入り、数年を経過した世界は、そうした様々な変化を目の当たりにしている。(編集委員・根本清樹)

グラフ

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変わる世界

 「『グーグル・アース』は戦略的な脅威だ」

 インターネット検索最大手、米グーグルの衛星写真情報サービスに対し、インド陸軍首脳が懸念を表明したと、4月4日付のインディアン・エクスプレス紙が伝えた。

 誰でもアクセスできる画像には、軍事機密の戦略拠点も含まれており、「敵に有利になる」というわけだ。

 同紙は、「我々も敵を見ることができるのだから、おあいこだ」という空軍首脳のコメントも紹介しているが、昨年のサービス開始以来、安全保障がらみのこうした議論が絶えない。

 国境を越えるネットの拡大は急速だ。アクセスメディア・インターナショナルの予測では、00年に3億人弱だったネット利用者は、06年末には10億人に達する。

 天安門事件や民主化、台湾独立など、中国政治の機微に触れる事柄を扱うサイトの閲覧禁止は、是か非か。米ネット企業や米中政府、米議会を巻き込んだ最近の論争も、新しい環境の下での国境の揺らぎを如実に示す。

 情報に限らず、ヒト、モノ、カネ、あらゆる分野でのグローバル化が、国境の壁を低くする。

 巨大化する金融資本の自由な移動、エイズウイルス(HIV)や鳥インフルエンザといった様々な感染症の拡大、地球環境汚染、内戦や地域紛争による難民の流出……。

 伝統的な「主権」国家が自己完結的にコントロールできる領域は、確実に狭まりつつある。

■   □


 国境の安全をおびやかす脅威として、他国の正規軍による侵略のみを考えていればいい時代は、とうに終わった。

 その変化を、なにより目に見える形で世界の人々に思い知らせたのが、9・11同時多発テロだ。

 国家間の古典的な「戦争」と、大量殺人のような「犯罪」との区別が、あいまいになった。

 そこには、「力の分布」をめぐる決定的な変化があったと、藤原帰一・東大教授(国際政治)は指摘する。

 国内政治では暴力は独占され(警察)、国際政治では暴力は分散している(各国軍隊の対峙(たいじ))。こんな伝統的な図式は、ソ連崩壊、冷戦終結で一変した。

 内戦や民族紛争、「破綻(はたん)国家」に見られるように、国内政治において暴力の集中が崩れる例は、枚挙に暇(いとま)がない。

 逆に、国際政治では、軍事力は米国による独占とまではいかなくても、ほとんど「一極集中」の状態である。

 しかし、「世界の警察官」米国といえども、「脱国家的」な新たな脅威に対して万能ではない。

 アフガニスタンではタリバーン政権を倒したが、各勢力が群雄割拠する状況が続く。イラクでも旧フセイン政権は倒したものの、シーア派とスンニ派の対立が激化し、武装勢力のテロも続いている。

 「今日、脅威は『仮想敵国』から来るのではない。むしろ国家が機能しないことから来る暴力、テロリストのような私人の暴力による脅威こそ、最も深刻な問題なのに、どう取り組んでいいか、世界はいまだ答えを見いだせていない」と、藤原教授は言う。

 国家間の戦争でない、「対テロ戦争」という新しい概念を、米国は編み出した。米国の唱えた「正義の戦争」の是非をめぐる論争は続き、国際法秩序を揺るがせている。国連の実効性も低下している。

 唯一の超大国が主導する「力の秩序」と、国際社会における「法の支配」との距離は、遠い。

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 その米一極体制も、永続的な支配を謳歌(おうか)できるかどうかは危うい。

 国際社会で主要国といえば、長く日米欧のG7のことだった。しかし、その配役が遠からず入れ替わるのではないかという展望も、現実味を増しつつある。

 新勢力として想定されているのは、ブラジル、ロシア、インド、中国。4カ国の頭文字をとって、米ゴールドマン・サックス社が03年にBRICsと名づけ、注目された。

 経済面での台頭がこのまま順調にいくならば、国際社会は政治的にも再編期を迎えることになるかもしれない。

 とりわけ隣国である中国の著しい成長は、日本の重大な関心事だ。

 内閣府が昨年まとめた「日本21世紀ビジョン」は、世界の名目GDP(国内総生産)に占める中国の割合について、04年の5.5%から、2030年には31%に増え、米国と肩を並べると見込んでいる。日本は、15.6%から9%に下がるという予測だ。

 慣れ親しんだ「世界第2の経済大国」という役柄と決別しなければならない時が、迫りつつある。

変わる国家

 国際社会の変化は国家のあり方に変化を迫る。

 4月19日、首相官邸。経済財政諮問会議の民間議員が、5月中にまとめる「グローバル戦略」の中間報告をした。

 「我が国はグローバル化の現実に対応できないでいる」と警鐘を鳴らす文書は、「外国人の受け入れ拡大」や、それを前提にした「多文化共生社会の構築」を提案した。

 これに先立ち経産省が独自にまとめた「グローバル経済戦略」は、国家の役割を再定義する。

 新たな国家の役割は、「経済の国境を広げていくこと」であり、その課題は、「国際的なルール作りに影響力を行使し、グローバルな企業活動の基盤を支えること」だ。

 国内産業を国際競争の荒波から「保護」するための、防壁としての国家。国民を囲い込んで、「国民経済」を増進することに励む守護神。そんな伝統的国家像は、もう面影がない。

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 むしろ、日本は変化に気づくのが遅かったのかもしれない。

 「国家戦略スタッフの創設」

 この一項目を含む公務員制度改革大綱が閣議決定されたのは、01年末のことだ。首相に直属し、「国家的重要政策の企画立案」を行うと位置づけられたが、そういう名称のスタッフは実際にはまだ任用されていない。

 当時、経産省で制度改革にかかわり、いま国政を目指している後藤祐一氏が振り返る。

 「欧米のキャッチアップが終わり、自前の国家戦略を構築する必要があったのに、日本はバブル経済に浮かれ、その後始末に追われ、大きく出遅れてしまった」

 国家戦略を大きくモデルチェンジする潮流が、世界的に始まっていた。

 「福祉国家」から、「市場国家」へ。1970年代の米英両国が着手した大がかりな転換は、冷戦終結を受けて加速し、世界に波及した。

 高度成長期の終わりに伴う台所事情の悪化が、ケインズ主義的な財政出動、所得再分配、完全雇用といった政策を続けるゆとりを、各国から奪ったことは間違いない。

 ただ、その背景に、各国の「国家目標」の変化があったということも見逃すことはできない。

 福祉国家は、歴史的には総力戦体制への国民の動員や、冷戦下での共産主義陣営への対抗という動機と表裏の関係にあった。

 冷戦後の軍事技術の高度化は、国民動員の必要性を減らした。ソ連というライバルも退場した。福祉国家の重い荷物を、程度の差はあれ軽量化しようという流れが生じるのは、一面で必然だったともいえる。

 あらかじめ意図したことかどうかはともかく、「市場国家」化は、巨大な国際金融市場を産み落とした。資本の奔流は、逆に国家をのみ込むようにすらなった。

 国家はもう、緊密な国際協調なしに市場の大海を泳いでいくことは望めなくなった。

□   ■


 自己完結的で閉じた国益から、「開かれた国益」へ。自国の利益は、国際公益への貢献や、国際的なシステムづくり、ルールづくりへの寄与をないがしろにしては実現しにくい時代だ。

 しかし、一方で、軍事的な安全保障が差し迫った課題になってくれば、「みんな国家に戻ってくる。国家に安全を求める」(藤原教授)という事情も変わらない。

 単純な割り切りを許さない困難な状況の中で、日本の戦略を総合的に、バランスよく描く知恵が求められている。

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