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歴史と政情を反映 各国の国家戦略

 国際社会では、「国家戦略」について、どのように理解されているのだろうか。また、自国の理念や目標を実現する指針や方策として、どんな戦略をもっているのだろうか。歴史や政情の異なる米国、中国、ドイツの3カ国を例にとりながら、それぞれの考え方の違いや類似点などを比較してみよう。(編集委員・谷田邦一)

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米国──基本に世界秩序づくり

 「戦略」(strategy)という言葉は古くから、敵の弱点をついて戦争を有利に運ぶための知恵を意味する軍事用語だった。やがて軍事的な分野以外でも使われるようになり、今では企業戦略、投資戦略など多様な場面で用いられている。

 国家戦略も代表的な用例のひとつだ。自国にあるさまざまな「国力」を活用して、どのような「国益」を追い求め、その目標をなし遂げるのか。国家間の激しい競争で負けないために欧米の研究家たちが体系化した方策が、国家戦略(大戦略)と呼ばれるようになったとみられている。

 専門家によりその定義は多少違うが、一般に「国力」とは政治・外交、経済、軍事などの分野で国がもつ資源や力のことをさす。「国益」とは国家の生存にとって重要な利益を意味することが多い。主要国はその国力を生かして最大限に国益を追求するために、独自の国家戦略を編み出してきた。

 米国の最大の特徴は、グローバルパワーであることだ。これまで、自ら主導して世界秩序を築き、豊富な国力を使い国益の実現をめざしてきた。公的文書に明確な国益優先が書き込まれることも少なくない。その実現の手段として、軍事力の役割を重んじるのも特徴だ。攻撃力や抑止力などを使いわけ、自国の外交を有利に展開する後ろ盾にしてきた。

 米国の政府機関は、いろんな戦略を報告書の形で公表している。安全保障分野ではホワイトハウスが外交軍事政策の指針として、「国家安全保障戦略」を出している。これを受ける形で国防総省が「国防報告」を、軍の統合参謀本部が「国家軍事戦略」を議会などに提出し、全体の骨組みを明らかにしている。

 国家戦略に詳しい米ブランダイズ大のロバート・アート教授(安全保障論)は同時多発テロ後の米国の主な国益を六つあげ、3ランクに分類している。

 (1)死活的に重要=「国土安全保障」

 (2)非常に重要=「ユーラシア大陸の大国間の安定」「中東の石油の安定供給」

 (3)重要=「国際経済の開放」「民主主義や人権の拡大」「気候変動の回避」

 ブッシュ政権が02年に出した国家安全保障戦略では同時多発テロを防げなかった反省から、テロ組織や大量破壊兵器をもつ敵対勢力を先制攻撃する可能性が表明された。必要なら単独でも行動する強い意思を示し、イラク戦争の下地をつくった。

 テロの広がりを警戒した米国が「国土安全保障」という国益を過剰なまでに追求したことがイラク戦争の背景にあった。「中東の石油の安定供給」や「民主主義や人権の拡大」という国益をにらんだ戦争だったともいえるだろう。

■   □


中国──共産体制維持が根底に

 台頭が著しい中国の場合はどうか。明確な国家戦略は公式文書として出されておらず、中国政治にくわしい村井友秀防衛大教授は「全国人民代表大会などの各種報告、刊行物、高官発言などを総合分析して読み取るしかない」と話す。

 しかし、中国がはっきりした戦略をもつことは明らかだ。

 専門家の多くは、中国は改革・開放政策によって国民生活を豊かにするとともに、富国強兵路線を推し進めて「強い中国」をめざしていると見ている。ただし、ほかの社会主義国が政治面の改革を伴いつつ市場経済への転換を図ったのとちがい、中国は共産党による統治体制の堅持そのものを戦略の根底にすえているとされる。

 今年3月の全人代では、年平均7・5%の成長目標を掲げる第11次5カ年計画(06〜10年)が採択された。10年までに1人あたりの国内総生産(GDP)を倍増させる内容だ。

 急速な経済成長を遂げたことでは、戦略は一定の成果を収めつつあるように映る。

 だが、共産主義体制と開放経済をどう両立させるかなどについては、戦略がはっきりしない部分もある。安全保障分野でも不透明感が強く、急速な軍備増強で地域的な覇権をねらっているのではないかとの憶測も生んでいる。

■   □


ドイツ──周辺国との協調を優先

二つの世界大戦に敗れたうえ、ナチスによる侵略の歴史を引きずるドイツにも、国家戦略をはっきり定めた政府文書は見あたらない。安全保障専門家のオトフリート・ナッサウアー氏は、そのわけを「野心的な印象を与えるとして、タブー視されてきたから」と話す。

 しかし、専門家らはドイツの戦略の根幹には「欧州各国との協調を通して自国の繁栄を図るという発想がある」と考えている。

 戦後、ドイツは北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)などの国際機構のなかで、軍事だけでなく経済、環境など多角的な協力関係を重んじてきた。旧ユーゴスラビア紛争へのNATOの介入にあたり、憲法裁判所は94年、域外へのドイツ連邦軍派兵を合憲と認めた。

 その後、平和維持活動に進んで参加するようになったが、多国間の枠組みへのこだわりは強い。03年に発表された「国防政策指針」は、あくまでも国際的な枠組みのなかで活動することを前提に、連邦軍をそっくり国際治安部隊に衣替えする方針に切り替えた。

 国家戦略は、その国の歴史や現在を背負っている。国家戦略について米国、ドイツ、中国が大きく異なるのはその表れともいえる。

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