現在位置 : asahi.com > 新戦略を求めて ここから本文エリア

「国家戦略」とは何か 日英の専門家2氏に聞く

写真

ロンドン大キングズ・カレッジ副校長
 英国の安全保障問題の権威。ロンドン大キングズ・カレッジの戦争研究学部長を経て現職に。核戦略研究で知られる。

米英関係を適用するのは危険──ローレンス・フリードマン氏

 ――国家戦略とは何でしょうか。

 「国際社会の中で自国をどう位置づけるかという考え方だ。軍事の視点とともに政治、経済、文化の視点も入れて。同盟相手や国際機関に対しどんな姿勢で臨むのか。誰が敵になりそうで、誰が問題を引き起こしそうかも考える」

 「しかし、最近は各国とも国家戦略についての考えがそれほど明確ではなくなってきた。かつては大国の動向が国家戦略の焦点だったが、現在では重要性が減っている。特にアジアよりも欧州にその傾向がある。小国や破綻(はたん)国家のような問題が多く起き、以前とすっかり様相が変わったためだ」

 ――冷戦後の米国戦略をどう見ますか。

 「はっきりした戦略をもっていないと思う。米国はグローバルパワーだが、国際社会への関与に積極的ではない。アフガニスタンやイラクは例外だ。テロリズムには明確で強硬なアプローチを持っているように見える。人権や民主主義の推進という課題を掲げるのはいいが、それでどこまでも突き進むわけにはいかない。どこかで妥協が必要だからだ。米国は迷っているのではないか。イラクでも明らかにダメージを受けている」

 ――「先制攻撃戦略」についてはどうですか。

 「誰かに攻撃されようとしているという証拠を持っており、それに対して何かするという場合が『先制』だ。この概念に厳密であるなら、誰かに攻撃されようとしているという明確な理由が必要だ。イラク戦争で起きたのは『先制』ではなく、『予防』だ」

 ――米国にはアーミテージ前国務副長官のように、日米同盟を米英同盟のように深化させようという考えがあります。

 「ブレア英首相が米国と一緒にやろうと努力してきたのは、国際政治や貧困、環境問題などで、その政策に影響を及ぼすためだ。中東で失敗してほしくないという面もあった。米国との同盟でジュニア・パートナーであるならば、必然的に米国内で議論が割れている時しか、影響力を及ぼせない。米国では今、対外政策をめぐって大きな議論が起きている。だから影響力を行使できるのだ」

 「その点で英国はいくつかの利点がある。英米同盟の歴史は古く、言葉や歴史など共有するものが多い。日本の政治家にとってワシントンで大きな役割を演じるのは難しいだろうし、日米関係は経済問題の影響も受ける。英米関係をそのまま他に適用しようとするのは危険だ」

 ――日本の戦略で大切なことは何でしょう。

 「日本は今とても興味深い時期にある。依然として経済大国であり、軍事的にも多くのことをしている。中国はうまくやっているが、構造的な問題を抱え、ハンドリングに困難を感じるようになるだろう。軍事的な作戦に発展するとは思わないが、他国を懸念させる可能性はある。中国をどう考えるか。日本にとって差し迫った外交課題で、まずここから考えてはどうか」

 (聞き手・谷田邦一)

◇   ◇


写真

駐米公使
 東大卒、外務省に入り、国連代表部参事官、条約局法規課長、総政局企画課長、北米局日米安保課長を経て現職。

生存・繁栄・価値を3大目標に──兼原信克氏

 ――ワシントンの国防大学で毎年、日本の国家戦略についてスピーチをしているそうですね。国家戦略とは何ですか。

 「国としての一番大事な目標を定めて、それを実現するにはどうしたらいいか、という方策を組み合わせて考えることでしょう」

 ――今それが必要だと。

 「必要だと思います。かつて軍事力過信に陥り、外交が破綻(はたん)して、国が滅んだ後、日本人は生まれ変わるということに力を割いて、軍事面以外の分野でもう一度国際社会の尊敬を得ようと努力してきた。それが実って、今度は、経済大国から、もう少し本当に尊敬される政治大国になりたいというところに、国民は来ていると思う。受け身の平和主義から、能動的な平和主義に変わりつつある。自衛隊をどう使うのが正しいか。自分で定義しなければいけない」

 「冷戦が終わって、国際関係の構造が変わった。各国の外交の自由度が上がり、自分で考えて自分で動く時代。ここで戦略がないということはあり得ないと思う」

 ――戦略を立てるうえで重要な点は何だと考えますか。

 「国家目標、外交戦略目標を決めないといけない。生存、繁栄、価値観が3大目標です」

 「戦後の日本の生存、繁栄がなぜ可能だったか。米国が日本だけでなくその周辺の韓国や台湾の面倒も見つつ、共産圏からの重圧に耐えて守りきったから、戦略バランスが崩れなかった。さらにシーレーンが開放され、人、金、物が自由に流れる国際社会があったから、日本は原料を輸入して優秀な製品をつくって、繁栄できた。この秩序を支えてきたのは米国。日本はそれに依存してきた」

 ――かなりの親米派ですね。

 「日本は米国のつくった20世紀後半の国際社会の中で大輪の花を咲かせた。その国際的な枠組みを守り、利益を分かち合う国同士が手を結ぶのは当然です。これからは、日米同盟を基盤として、アジア太平洋地域の平和と繁栄と安定を支えていく必要がある。ただ乗りは、この秩序を劣化させるから、日本の国益に反します」

 ――価値観は。

 「日本の戦後民主主義は『私は軍国主義者ではありません』という消極的なアイデンティティーだったと思う。それをはいでいくと、欧州列強の時代にできた明治のアイデンティティー『富国強兵』が出てくる。これを超えなければいけない。明治の解体です」

 「そして、グローバリゼーションの現代に通用する国家像を求める。すると、アジアで最古の民主主義、アジアを代表する自由の国ということになるのではないか。日本人は、万葉集に出てくるように、本来、自由の民ですし、19世紀の自由民権の時代から、近代化と民主化をめざして苦しみながらここまできたのですから」

 ――戦前、戦中の歴史に向き合わなければいけませんね。

 「過去をきちんと見据えることのできる世代になっている。『特殊な日本』ではなく、どこでも通用する『普遍的な日本』がキーワードです」

 (聞き手・本田優)

ここから広告です
広告終わり

マイタウン(地域情報)

∧このページのトップに戻る
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。 Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.