ここから本文エリア 現在位置:asahi.com > 提言 日本の新戦略 ![]() 〈地球と人間〉
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・省エネは最良のエネルギー安全保障対策である ・産油国への投資と交流を広げ、結びつきを強くする ・石油、天然ガスを備蓄し、緊急時にアジアで融通し合う制度を整える |
波乱含みの中東情勢、原油価格の高騰、石油の権益確保に走る中国、資源大国として影響力を強めるロシア――。世界のエネルギー情勢を見渡すと、不安をかき立てられる動きが少なくない。
石油供給の9割を中東地域に依存する日本は大丈夫なのか。石油資源の開発競争に後れをとってはならぬ。そんな議論もかまびすしい。
エネルギー源をどのようにして確保していくか、長期的に考えるのは大事なことだ。だが、このところの世界の動きにいたずらに不安を募らせるのは得策ではない。
たとえば、急成長する中国やインドの需要増が原油価格の高騰をもたらしたという見方がある。実際はどうか。国際エネルギー機関(IEA)などの統計を見ると、ここ5年ぐらいで世界の石油需要が急に増え始めたという状況はない。
投機的な資金が流れ込んだことが高騰を招いたと見るべきだろう。必要以上にあおられてはいけない。
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将来の石油危機を避ける最良の戦略がある。省エネを徹底して、消費量を抑えていくことだ。省エネで節約すれば、その分の油田を日本で掘り当てたのと同じようなものだ。70年代のオイルショック後、日本経済は世界でもトップクラスの省エネ構造に転換したが、さらに挑戦を続ける必要がある。
石油への依存を少なくすれば、それだけ危機に強くなる。日本発で省エネが世界に広がれば、全体のエネルギー需要を抑えられるし、温暖化防止にも役立つ。
危機に備えて、日本が独自に石油を採掘する自主開発を増やそうという声が高まっている。「日の丸油田」の象徴だった国策会社のアラビア石油が00年以降、中東での採掘権を相次いで失ったことも背景にあってのことだ。
そうした供給源を持つことに意味はあるけれど、それほどの量が期待できるわけではない。それに危機が起きた時、遠く中東やアフリカ沖、カスピ海などから実際に「日の丸原油」が日本まで届くという保証はない。
ここは自主開発の発想を変えて考えていきたい。日本の資金で石油を掘るという狭い意味にとらわれず、産油国への投資、交流の拡大と広く位置づけるのだ。
省エネや石化プラントの共同事業、人材開発支援など、油田開発以外にも協力の分野はたくさんある。日本の資本と技術を、現地の経済や労働力、そして石油に強く結びつけていく。
産油国側にも感謝されるし、そうした結びつきを通じて、いざという時に頼りにできる関係を築いておく。油が出るか出ないか分からないプロジェクトに、次々と国家資金を投入するのは無駄が多すぎる。費用対効果をきちんと吟味しなければならない。
日本には現在、政府と民間施設を合わせて半年分ほどの備蓄がある。中東から石油を運ぶタンカーの大半は、ペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡を通過するが、これまでの紛争でも数カ月以上に及ぶ輸送の中断はなかった。
これをさらに発展させて、中国や韓国などアジアの消費国にも備蓄を促し、足りなくなった時には融通し合う仕組みを整備すべきだ。
共存共助の仕組みづくりは、地域協力を広げる格好の舞台になる。東シナ海での中国との権益争いなども、そんな取り組みのなかで解決策を見いだしていく。
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天然ガスをもっと使うようにすべきだ。石油より環境への影響が小さいし、供給国も地理的に偏っていないので、特定地域に依存するというデメリットが少なくてすむ。
ここでも、アジア諸国と協力できる。日本は液化天然ガス(LNG)の技術が得意だから、それをテコにたとえば多国間でLNG備蓄基地をつくり、互いに融通する。石油と同様に、アジアの安定と地域協力、日本の国益に役立つ。
欧州のように、ガス・パイプライン網を張り巡らせることで相互依存を強めれば、多国間のエネルギー安保にもつながるだろう。
経済発展の著しいアジアでは、将来のエネルギー不足が深刻になるのではないかと心配されている。それを逆に利用して地域の連携を強め、安定と発展の土台を固める。そうした協議の場づくりを日本がリードしたい。
消費国側が協調すればその分、産出国側に石油、天然ガスの価格、供給量の決定権を握られるリスクを減らせる。その戦略的視点も忘れてはならない。この地域のエネルギー大国であるロシアにも、建設的な参加を促していくべきだ。