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〈地球と人間〉

争奪戦にはしない。その前に知恵と手だて、いくらでも

7.アフリカ支援


■置き去りにすれば、問題が世界に拡散する

・ODAを思い切ってふり向ける

・熱帯農業支援では東南アジアの力を借りて「三角協力」を進める

・将来の投資機会を見込んで、産業育成を支援する


表

資料2

 驚くような数字がいくつもある。

 アフリカで暮らす約9億人のうち、1日1ドル未満のお金で暮らす人が全体の46%を占める=資料2。平均寿命は46歳。日本なら働き盛りの世代だ。世界のエイズウイルス感染者の66%が集中する。

 内戦や紛争が絶えず、国連の平和維持活動(PKO)経費の7割強がアフリカ向けだ。世界の難民・避難民の4分の1がこの大陸に暮らす。

 この未曽有の人道危機に、もっと目を向けるべきだ。同時に、アフリカで持続可能な平和や開発を定着させないと、どんな地球規模の問題も解決がおぼつかないことを忘れてはならない。

 感染症の防止、生態系の保全、小型武器の規制、テロ防止策などなど。どれをとってみても、アフリカを置き去りにすれば、やがてアフリカから問題が世界に拡散する。

 国連や主要国首脳会議などでも、アフリカ支援はいつも最優先課題の一つに位置づけられる。アフリカの苦難は、かつての欧州などによる植民地支配と無縁ではないだろう。だが、内戦や独裁などで国家が破綻(はたん)し、人道危機が広まったのはそんなに古い話ではない。「同時代の危機」という認識を共有したい。

    ◇

 日本は、平和の定着、人間中心の開発、経済成長を通じた貧困削減の3本柱を中心に、国連機関とも協力しながら、アフリカ支援を進めてきた。93年以来、5年ごとに東京にアフリカ首脳を招くアフリカ開発会議がその象徴である。

 問題なのは、政府の途上国援助(ODA)がしぼんできたことだ。とくに開発の遅れているサハラ砂漠以南のアフリカをみると、00年には7カ国で日本が最大の援助国だったが、04年にはどの国でも2位以下になった。

 国連安保理の常任理事国入りを目指す日本が、ODAを口実に「票集め」をしているのではないか、との疑念が聞かれる。常任理事国入りが頓挫したあと、援助が減ったとなれば相手の信頼を得ることはできない。

 今後、アジアではODA対象国から卒業する国が増えていく。日本はそこも見越して、アフリカへのODAの比重を思い切って高めるべきだ。

 援助の工夫も進めたい。農業支援では、日本の国際協力機構(JICA)が、タイ政府の農業専門家と一緒にアフリカで技術協力を進めた経験がある。東南アジア諸国の方が熱帯農業を熟知し、人材も多い。日本の援助資金でアジアの経験をアフリカで生かす「三角協力」も、有効な手段となる。

    ◇

 アフリカは将来、大きな市場になる可能性を秘めている。なのにアフリカ向けの世界の総投資額のうち、日本はわずか1%を占めるのみだ。

 平和が定着し、成長しはじめた国も少なくない。アフリカの経済成長率は04年以降は5%前後で推移している。こうした安定と成長の芽を伸ばすために、日本は得意とする産業の育成支援で持ち味を発揮すべきだ。

 中国はエネルギー資源戦略の一環として、アフリカ諸国との関係を強めようとしている。しかし、強権体制を助けるような援助や武器供与は真の発展にはつながらない。日本はこんなことで競うべきではない。農業や産業インフラの整備、医療・保健などの分野での支援こそが役立つと確信して進むべきだ。

 地元や日本、さらには他の援助国のNGOとの協働作業も欠かせない。地味ではあっても、アフリカの地で効果をあげ、人々の信頼を得るために、援助の王道を歩みたい。

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