ここから本文エリア 現在位置:asahi.com > 提言 日本の新戦略 ![]() 〈グローバル化とアジア・イスラム〉
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・グローバル化に適した金融・通貨の安定化戦略を練る ・アジア通貨危機の再来を防ぐ地域協力を発展させる ・ユーロにならい、アジア共通通貨の創設を将来目標にする |
グローバルな経済拡大をおびやかす最大の要因は通貨と金融の危機である。
巨額の資金が、短期間での利益を求めて世界中の市場を大移動している。世界的なカネあまりや金融の自由化、情報技術革命によって、その資金量は急拡大し、飛び回る速度も激しさを増した。機関投資家や富裕層のカネを集めたヘッジファンドはその代表だ。
資金がなだれをうって逃げ出したら、その国の市場も経済もマヒしてしまう。混乱を防ぐ仕組みをつくらなければならない。10年前の危機を教訓に、アジアでその取り組みが始まっている。
97年にタイが震源地となった通貨危機はインドネシア、韓国、マレーシアなどアジア5カ国に波及し、翌98年にかけ全世界を金融不安に陥れた。
タイは通貨バーツを米ドルに連動させて為替変動のリスクを避けつつ、海外から資本を取り込んで輸出産業を育て経済発展をはかっていた。ところが、景気過熱で発生したバブルが崩壊して、銀行が大量の不良債権を抱え込んだ。
運用していたお金が危ないとみた海外投資家が、いっせいに資金を引き揚げたのだ。バーツ相場も株式も暴落し、生産も落ち込んで経済危機に発展した。
安全網づくりは日本が中心となって始まった。「チェンマイ・イニシアチブ」がそれである。
東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日本、中国、韓国が00年に合意したもので、危機のときには二国間でお互いの通貨を融通しあい、自国通貨を買い支える市場介入の資金にする。これまでは二国間の協定を重ねてきたが、これを発展させ、多国間であらかじめ資金を出し合ってプールしておく仕組みづくりをいま進めている。
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プール資金を管理運営する組織を整備すれば、これはもう国際通貨基金(IMF)のアジア版といえる。アジア通貨基金構想は10年前の危機直後にもあったが、米国などの反対で挫折した。今回こそは実現させたい。
以上は危機が起きてしまったときの沈静化策だが、アジアの為替相場を安定させて危機を起こさせないことはいっそう重要だ。域内での貿易や投資をさらに伸ばし経済を発展させるには、安定した為替レートが基盤となる。
安定策のひとつがアジア通貨単位(ACU)である。ASEANと日中韓の財務大臣会合で06年、ACUづくりを研究することが決まった。
各国の通貨を経済規模や貿易量を考慮して加重平均した仮想の通貨で、各国の為替変動を測る指標となる。各国の為替レートをこれに連動させると、域内の為替変動がなくなっていく。欧州連合(EU)はこうしたやり方をへて、ついに単一通貨ユーロを誕生させた。米ドルの一極支配は崩れつつある。
アジアでは、中国のようにまだ資本が自由化されていない国がある。各国の経済発展の差も大きい。各国通貨の比重を決めるのは、政治的なメンツがからんで難航することだろう。
だが、焦ることはない。欧州では戦後に共同体づくりを始めてからユーロ誕生まで、半世紀かかっている。アジアにもユーロのような通貨が誕生するとして、数十年先の話だろう。
遠い将来の目標は、いわば羅針盤だ。それをにらみながら連携を一歩ずつ進め、国際的に開かれた金融市場・為替市場を整備していくことが大切だ。