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〈グローバル化とアジア・イスラム〉

グローバリゼーションを活用する

10.東アジア共同体


■開かれた統合にし、アメリカとも連携する

・二国間、地域間の経済統合は、果実が多いので推進する

・東アジアの統合は貿易、環境など、分野ごとの連携から

・米国との自由貿易も進め、東アジアを閉鎖的「砦」にしない


 日本政府は90年代末に通商政策を転換した。世界中の国々とともに自由貿易を推進していく立場にこだわらず、特定の国や地域との連携も強める。二正面作戦に切り替えたのだ。資源小国の日本は貿易を通じて豊かな生活を築いてきたが、潮流の変化に乗り遅れてはいけない。そんな焦りが背中を押した。

 世界貿易機関(WTO)の多国間交渉は、途上国の不満や「ノーモアWTO」を掲げる反グローバリゼーション運動の高まりで低迷が続いていた。それを横目に、欧州連合(EU)や北米自由貿易協定(NAFTA)といった地域の経済統合が着々と成果をあげていた。

 戦後世界の理想がグローバルな多国間貿易の拡大だとするなら、地域統合はそれを促進するステップなのか、それとも戦前の誤りを繰り返してしまう「躓(つまず)きの石」なのか。議論はともかく、参加しないことのデメリットが大きすぎる。

 そんな思惑から、二国間や地域間で自由貿易協定(FTA)を結ぶ動きはとどまるところを知らない。

日本のFTA(EPA)
発効済みまたは署名済み シンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイ
大筋で合意 インドネシア、ブルネイ
交渉中または交渉開始で合意 ASEAN全体、インド、豪州、スイス、ベトナム、湾岸協力会議(GCC)、韓国
07年4月現在

 先行した欧米に追いつこうと連携のネットワークが乱立するのが東アジアである。とりわけ97年の経済危機をきっかけに東南アジア諸国連合(ASEAN)+日中韓の首脳会議が発足し、「東アジア共同体」構想を探るまでになった。

 この地域のいっそうの経済発展をはかり、ともに成長するために日本は何をするべきなのか。いま問われているのはそのことである=資料4

    ◇

 東アジアは、EUのように初めから統合の意思をもって結ばれたのではない。日本の積極的な投資が呼び水となってASEANや中国が経済発展を始め、地域経済のまとまりができあがってきた。

 貿易、投資に限らず、地球環境保護やエネルギー協力、感染症対策といったそれぞれの分野で、着実に協力の網の目をつくっていく。日本は市場開放や技術の移転、人材育成などで、その先頭に立たなければならない。

 ネットワークの空白地帯になっている日中韓の経済連携も急がなければならない。中国を地域にしっかりと組み込み、東アジア全体の繁栄の土台にするためにそれが欠かせない。

 地域の経済協力に関心が高まっているのは、経済面の利害ばかりでない。地域の政治的なリーダーシップと切り離せない関係があるからだ。

 06年秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、ブッシュ米大統領が南米やロシアも加え21カ国全域のFTAを提唱したのは、それを物語る。中国と日本も別々の構想を打ち上げている。

 大事なのは仲間以外は排除する「砦(とりで)」をつくらないことだ。そのためにも日本は、同盟国・米国との経済対話を深める必要がある。

 日米間の自由貿易を含む経済連携協定(EPA)の構想は、両国の経済界が待望している。難しいのは、コメなど日本の農産物市場の開放だ。しかし、米韓のFTA交渉が韓国のコメ問題を棚上げして妥結したのだから、日米も交渉に入らなければいけない。

 日米の経済連携は、互いの欠点を指摘し合い、制度や慣行を調和させることによって、ともに競争力を高めていくことが主眼だ。東アジアの地域主義を世界に開かれた経済統合につなぐため、太平洋を越えて貿易と投資を広げていきたい。

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