ここから本文エリア 現在位置:asahi.com > 提言 日本の新戦略 ![]() 〈グローバル化とアジア・イスラム〉
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・「6者協議」を発展させ、北東アジア安定に向けた枠組みを ・韓国、ASEANなどと連携し、大国の独断・独走に歯止めを ・歴史和解を確かなものにすることは、日本の安全保障問題だ |
「世界の成長センター」と呼ばれ続けるアジアはまた、多くの難問が集積している地域でもある。
最も関心が向かうのは中国だ。生産工場として脚光を浴びてきたが、いまや巨大市場としての魅力も輝いている。その一方で一党独裁の危うさは消えないし、台湾問題もくすぶる。
インドが台頭し、東南アジア諸国連合(ASEAN)も結束を強めながら存在感を増そうと狙っている。ダイナミックに変貌(へんぼう)するアジアにあって、日本はどんな針路をとるべきだろうか。
戦略的に重要なのは、近い将来に国内総生産(GDP)で世界の上位3カ国となる日米中が、これからどのような三角関係を描くかである。
最近の大きな変化は、米中関係の深化だ。クリントン前大統領の時代、両国はかなり親密度を増した。ブッシュ時代に入って、いったん距離が開いたが、再び接近してきたという図式だ。
それぞれの国益判断や政権の思惑があっての揺れではあるが、経済の結びつきは一貫して強まっている。政治や軍事の面で今後も曲折はあろうけれど、この土台を壊すのは双方にとってあまりに影響が大きすぎる。日本や東南アジアも大波をかぶることになる。
米中の軸が太くなっていくのは、少なくとも長期的には間違いないだろう。
これまで日本は、米中が対立すれば不安になり、接近すればしたで置いていかれることを心配した。米国は日中接近を警戒し、中国は日米同盟の強化に心穏やかではない。
日米中の三角形を、そうした牽制(けんせい)の構図から、相互に依存し公正に競争し合う安定した構造に変えていきたい。
たとえば、日米中が地域についてのビジョンを示し合い、率直に意見交換するために、3カ国の首脳、閣僚の会談を定例化していくべきだ。誤解を避ける装置になるし、中国が敏感に反応する台湾問題を先鋭化させないことにも役立つ。
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中国は上海協力機構などを通じて、ロシアやインド、中央アジアとの関係を強めている。米国はインドに近づく。日本もインド、オーストラリア、中央アジアなどとの協力関係を広げようと動く。
さまざまな模索があるのは当然だ。大事なのは孤立化や対抗、封じ込めといった対立の要素を持ち込まないことだ。そうでなければ地域の発展のダイナミズムは損なわれる。そこで日米中3首脳の定例会談が極めて有用になる。
その際、日本は韓国やASEAN、オーストラリアなどのミドルパワーと同じ目線の高さを持ったほうがいい。
大国は時に覇権的になり、独善に走る。米中、そして台頭するインドが大国として身勝手に振る舞うことがあれば、日本はミドルパワー諸国の思いを体して意見し、代案を示す。ミドルパワーの応援を背に動いてこそ、日米中において日本の発言力は強まり、国益とも重なる。
米国との同盟は不可欠の翼だ。同時にミドルパワー諸国との連携も、日本がアジアで羽ばたくための大切な翼である。
こうしてアジアの未来を見るとき、とりわけ韓国との信頼を固めることが大切だ。隣国であり、同じ民主主義国であり、経済力もある。米国の同盟国でもある。共通するところの多い両国が協力しない手はない。日韓を絆(きずな)と呼ぶにふさわしいつながりに進化させていこう。
朝鮮半島の平和と安定に向けた戦略も欠かすことはできない。
北朝鮮の金正日総書記は、外に対する猜疑心(さいぎしん)に固まり、体制維持にきゅうきゅうとしている。そのための核でありミサイルである。外国人を拉致して身勝手な目的に利用してきた国でもある。
だが、強引に体制を変える手だてがあるわけではない。まずは暴発を防ぎ、6者協議で核問題の解決に道を開く。拉致問題はその過程で、国交正常化などとも絡めながら解決していくしかあるまい。
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同時に、6者協議という装置を北東アジアの安全保障を考える機構に発展させていくべきだ。地域的な安全保障機構がない北東アジアの空白を埋めたい。
経済ばかりに目を奪われがちなアジアだが、安全保障はやはり重要だ。経済連携の広がりは相互依存を高めるけれど、交流が深まれば摩擦も増え、利害衝突も起きてくる。
いまある枠組みでは、安保問題を話し合うASEAN地域フォーラム(ARF)を、予防外交や紛争解決の場に成長させていく知恵が必要だろう。
ASEANが作った東南アジア非核地帯条約には、核使用禁止を盛った付属議定書がある。日本も一役買って、米中など核保有5大国の議定書署名を実現できれば、地域の安心感もそれだけ増す。
通商国家として目を向けるべき安保上の課題もある。マラッカ海峡の安全のため、沿岸諸国と日本の海上保安庁などが協力し、海賊対策を進める。不審船を識別するシステムをシーレーンの要所に日本の援助で配置し、情報を共有すれば、「国際公共財」として歓迎されよう。
アジア諸国は国連の平和維持活動(PKO)に積極的に参加している。「PKOセンター」をつくって共同訓練をし、実際の派遣でも協力を深めたい。その点では経験が豊かなカナダとの連携を図っていくことを考えてもいい。
そうした地道な活動の積み重ねこそ、「信頼の制度化」につながる。また東アジア共同体の構想を育ててもいく。
日本がアジアで積極的に活動するには、近隣国から信頼されることが前提だ。「過去」で足をすくわれては、未来に向けた戦略は成り立たない。その意味で「歴史問題」を抱え続けることは大変な安全保障問題でもある。近隣国との和解を戦略の真ん中に据えるべきだ。