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〈グローバル化とアジア・イスラム〉

歴史に謙虚であること。アジアにかかわる原点

12.隣の巨人


■「開かれた中国」へ、法治と透明化を

・「法の支配」の浸透を側面支援し、民主性が広がる機会とする

・さまざまな国際ルールへの参加を求め、情報公開を促していく

・公害病の対策で協力し、大勢の生命を救うことで信頼を深める


 アジアの安定のため、日本が先進国、民主主義国の立場から担うべき役割がある。そのひとつは、中国を開かれた国へと促し、相互信頼と協調を土台とする安定した地域秩序をつくることである。

 中国は中長期的に年平均で7%程度の経済成長を目指すが、その陰で貧富の格差や頻発する騒乱など多くの問題を抱えている。民主化を求める声もある。だが、それらが政治にどのような影響を与えるかは見通しにくい。当分は現体制が続くと想定するのが現実的だろう。

 日本にとっては、中国が混乱なく着実に民主化することが望ましい。紛争や内乱状態となって、改革開放が後退したり、軍の発言力が強まったりすると、地域が緊張する。

    ◇

 日本の戦略はどうあるべきか。中国は急速に変わりつつある一方で、なかなか変わらない部分もある。過大な期待や決めつけを排し、ねばり強くかかわっていく。これが基本である。

 具体的にはまず、中国が開かれた国になるよう「法治主義」「透明化」「国際ルールへの参加」を後押しすることだ。法の支配が浸透することや透明化が進むことで、徐々に民主主義の根が広がる。参加する国際ルールの分野が増えれば、世界との協調も深まることになる。

 たとえば、国際協力機構(JICA)が、大開発をめぐる環境アセスメントに住民の声を反映させる制度を中国側に働きかけ、法制化された。定着するには時間が必要だろうが、政策に住民がかかわるという意識変革につながろう。

 透明化を働きかけたい第一の分野は軍事である。日本はもちろんだが、周辺諸国や欧米が疑心を持ち続ければ、国際社会が安定しない。それは中国にとっても利益ではない。隣国として日本が、信頼醸成を絡めつつ説得していきたい。

 さらに、感染症についての情報公開も急務だ。鳥インフルエンザが変異して、人同士で感染する新型インフルエンザが出てくることが心配されている。アジアで発生する可能性が高いという。

 新型肺炎SARS流行の際に中国は情報を隠し、対応の遅れを招いた。これを繰り返させてはならない。世界保健機関(WHO)や近隣国と連携して、中国の情報開示を確実なものにすべきだ。

 中国は資源獲得の目的もあってか、スーダンなどの独裁政権にも開発援助を供与し、てこ入れする結果になっている。独裁国家への援助を控える国際ルールを尊重してもらわねば困る。日本など各国がせっかく圧力をかけても、中国が抜け穴になってしまうからだ。

 こうした国際ルールへの参加を、さまざまな分野で働きかけていくべきだ。

    ◇

 だが、日本がこのような対中外交戦略を展開していくには、両国関係の安定が大前提になる。首脳の相互訪問や閣僚同士の対話を積み重ね、政治レベルで信頼感を高めなければならない。

 日中間には、歴史認識など国民感情に火がつきやすい微妙な問題がいくつもある。互いに言い分はあるにせよ、両国関係を安定させることの戦略的重要性を常に踏まえる必要がある。

 環境やエネルギー対策が日中協力の柱となりつつあるが、相互理解を深める努力の一環として、公害病についての協力を提案したい。環境汚染が深刻な中国には大勢の公害病患者がいる。「公害先進国」でもある日本は人道的立場からも、現状調査や治療に協力すべきだ。

 協働作業で被害者の命を守る姿が中国できちんと報道されれば、戦争に根ざす心の溝を埋める力ともなるだろう。

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