ここから本文エリア 現在位置:asahi.com > 提言 日本の新戦略 ![]() 〈グローバル化とアジア・イスラム〉
|
・西洋と異なる日本の発展を参考に、宗教と経済的発展の両立を ・テロ対策などで、宗教指導者との連携を密にする ・イスラム研究の態勢を強め、相互理解、人材育成を進める |
イスラム世界の人口は現在、約13億だ。それが2025年に20億近くになる。世界人口のほぼ4人にひとりがイスラムというわけだ。その割に、日本の針路や戦略を語る時に、その存在はほとんど視野に入っていない。
石油資源が集中する中東だけではない。インドネシア、マレーシア、パキスタン、中央アジアなどでもイスラムが主要な宗教である。アジアとの関係強化もイスラム抜きには語れないのだ。
イスラムの影響は経済分野でも広まりつつある。イスラムの戒律に基づく金融がその一例だ。コーランの教えが利息を禁じているため、銀行が投資家と共同で新規事業に資金を投じ、「収益」を分け合う。貿易・流通では、豚やアルコールの成分を食料品などから除くハラール認証制度が導入されている。
イスラム世界では今、反米欧意識が広がっている。イラクやアフガニスタンへの攻撃に対する反発からだ。逆に、欧米では9.11テロ以来、イスラム脅威論が強まっている。この意識のすれ違いは、時に「文明の対立」の様相さえ見せる。
◇
日本はどう付き合っていけばいいのか。西洋とは異なる文化の下で発展してきた歴史を生かせば、より間口の広い戦略が描けるはずだ。
日本の資産は、中東・イスラム世界が日本に抱く親近感と好意である。宗教的なぶつかり合いがなく、独自の近代化を達成したモデルとして、あこがれや敬意を向けてくれる。それは日本のソフトパワーに他ならない。
イスラム世界では、いわゆる西欧化とは違う、独自の発展モデルを求める空気が強い。イスラム独特の価値観や伝統への回帰志向が背景にある。一方で、民主化の遅れ、政治腐敗、貧富の差の拡大、失業問題、女性の社会参加の遅れ、人権侵害など様々な問題を抱える。
だからこそ、日本の出番だ。技術移転や人材育成などの協力を通じて、産業化の基盤となる内発的な改革を助言し、支援するパートナーとなりたい。
テロに走る過激派を支持する温床になっているのは、貧困や失業などの社会問題だ。イスラム社会の近代化を手助けしてそうした根を断っていくのは、テロとの戦いで日本が果たしうる重要な役割だろう。
その時には、民衆に影響力を持つ穏健な宗教者とのつながりを重視したい。日本の支援をより生きたものにする。
◇
日本が期待されているのは、非軍事の分野での協力である。日本がイラク開戦を支持し、自衛隊を派遣したことで、中東・イスラム世界の民衆に日本への不信感が広まった。対米配慮からイスラム世界への多国籍軍に自衛隊を出すのは、人道目的であってもマイナスが大きいことを認識すべきだ。
その分、外交面での努力を強めたい。イスラム過激派の政権が誕生したパレスチナ、反米テロが激化するイラク、核開発疑惑を抱えるイランなど、いずれもイスラムと欧米の対立が底流で絡んでいる。日本が間に入って、打開策を引き出すような外交ができないか、真剣に模索すべきだ。
それには外務省の態勢を見直す必要があるのではないか。日本の中東外交は対米外交の延長と揶揄(やゆ)されることがある。そんな評判をはねかえし、独自の国益判断を追求できる態勢を整備したい。
現在、日本はパレスチナ自治政府への対応を在イスラエル日本大使館に担当させている。米国や主な欧州諸国はパレスチナ人が住む東エルサレムに領事部を置く。微妙な地域なのだから、日本も現地外交窓口を設置するなどきちんとした配慮を見せるべきだろう。
イスラム世界との結び目を増やすには、日本国内で情報を集積し、研究する態勢を整えることが必要だ。イスラム研究の拠点となる国立研究所を設置することも一案ではないか。
イスラム理解を国際化教育の柱のひとつとし、積極的にイスラム世界とつながれる人材を育てていくことも、未来への投資となる。