ここから本文エリア 現在位置:asahi.com > 提言 日本の新戦略 ![]() 〈憲法9条と平和・安全保障〉
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・米国との同盟と自衛隊で日本を守る ・9条との組み合わせこそが、政治の現実的な知恵である ・同盟の信頼関係をアジアの安定に役立てていく |
日本と米国との結びつきは、多くの人にとって空気のようなものかもしれない。存在して当たり前。その意味をあえて問うこともない。
米国の文化は広く日本に浸透しているし、人間の交流も極めて厚い。貿易や金融、商業などでも、結びつきは強い。さまざまな利害の衝突はあるにせよ、米国と良好な関係が存在することが大前提になっている。
この日米関係を支える重要な柱が安保条約、日米同盟である。
冷戦時代、米国が率いる西側陣営の一員として日本がいたのもこの同盟が基礎にある。サミットができると、日本はメンバー国として招かれた。米国の主要同盟国の集まりでもあったのだ。
同盟の効用は言うまでもない。いざという時に日本を一緒に守ってもらう。冷戦は終わったが、脅威がなくなったわけではない。攻撃に備えて、単独で軍備を整えるには法外な費用がかかる。そこを埋めてくれるのが米国だ。
米軍がいるがゆえに、日本は過大な軍拡に走らない。周辺国にはそんな安心材料になっている面もある。
日本は米国防衛の義務を負っていないが、それを「片務的」と呼んで批判するのは単純すぎる。日本はその代わりに多数の軍事基地や空域を米国に提供し、巨額の駐留経費を負担している。
在日米軍や基地施設は、中東までにらんだ米国のアジア太平洋戦略にとって要石の重要性を持つ。地理的な条件や社会の安定度などを考えれば、日本以外の国でこれだけ貢献できるところはない。米国のメリットは計り知れないものがある。
日本経済には米国市場へのアクセスは欠かせない。さらに、世界第1位と2位の経済大国が連携していることで、経済だけでなく、政治や外交面でも世界の安定感を高めているのは間違いない。日本の歴代政権が対米関係に最大級の優先順位を置いたのは、理解できることだ。
しかし、悩みもある。米国のように圧倒的な軍事力、経済力を持つ国を同盟の相手に持つ場合、寄り添いすぎると相手に引きずられ、直接には関係のない紛争に巻き込まれる危険性がある。逆に距離を取りすぎると、いざという時に守ってもらえないという心配が出てくる。
その微妙な間合いをとるのに役立ったのが憲法9条だった。「安保ただ乗り」との批判を浴びたこともあったが、憲法9条と日米安保、自衛隊の組み合わせによる成功戦略だったと言えよう。
9・11同時テロを受けて、米国の戦略は従来型の国家対国家の戦争への備えから、テロも念頭に置いたものへと幅が広がりつつある。その結果、米国が同盟国に求める役割も大きくなっている。
その要請に、日本はどう応えるべきなのか。問題を整理しておきたい。
わが国の防衛のためには米国に加勢してもらうし、周辺事態では後方支援で日本は米国に協力する。だが、軍事面での同盟は基本的にはここまでである。
それを超える活動、地域については、あくまでも国連安保理の決議による国際安全保障の枠組みでのみ、自衛隊は参加する。9条に基づく基本原則によることは言うまでもない。
政治、外交の面で日米協力が持つ意味は極めて大きい。アジアの平和と安定のため、あるいは核不拡散やテロ対策などで米国の政策と共同歩調をとることは、国際社会を望ましい方向に導くことになるし、日本の影響力を高めもする。
国際公益を高めるような米国の政策には、積極的に応じるべきだし、日本側から協力を求めることももっとあっていい。そうした意味で日米戦略対話は現在より緊密にしていきたい。
同時に、同盟国であってもすべての国益が一致するとは限らない。目的は同じでも、取るべき手段で意見が異なる場合もある。米国の要請にどう応えるかを考える時には、そうしたリアリズムを大切にしたい。
過去の例をみても、必ずしも米国の政策が地球規模の安全保障につながるわけではない。時に、近視眼的な判断にとらわれることもある。同盟国だからこそ苦言を呈すべき局面もあるはずだ。
いつでもイエスマンでなければ同盟が維持できないと思いこむのは、思考停止ではないか。そんな態度は、かえって同盟に対する日本国民の不信を招く。
日本の国益を守り、国際公益を広めるために日米同盟を使いこなす。その方が日米にとって同盟の価値が高まる。自主性のある、したたかで、しなやかな発想を持つべきだ。
資料5 憲法第9条 |
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憲法第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 |