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〈憲法9条と平和・安全保障〉

日米同盟を使いこなす。しなやかな発想

16.人間の安全保障


■憲法前文にぴったりの活躍を

・国連・平和構築委員会の中軸国となる

・「法の支配」定着への支援をお家芸にする

・ODAを大幅に増やす


 一人ひとりの生命や生活を守る責務は本来、国家にある。しかし、紛争や経済危機に見舞われた国々の政府は国民を守る力を失う。そこで、外からの支援を通じて暴力や人権弾圧などの「恐怖」を絶ち、貧困に由来する食料や水、教育、医療の「欠乏」をなくしていく。

 こうして人間の生命、生活、人権を守っていく理念は「人間の安全保障」と呼ばれている。

 世界の人々の平和的生存権を重視した憲法前文にぴったり合致する理念だ。21世紀の安全保障の柱になる考え方であり、地球貢献国家ニッポンとして「地球環境」と並ぶ二枚看板に据えたい。

 人間の安全保障において、「平和構築」は避けて通れない課題だ。自衛隊の海外派遣についての社説15で記したように、平和構築は世界の弱点をなくしていくために不可欠な政策である。

 この面で日本がとるべき第一の戦略は、国連改革で新設された平和構築委員会(31カ国で構成)の主軸となることである。紛争から脱したばかりの国が再び内戦に逆戻りするのを防ぐために、必要な措置を国連安全保障理事会に助言するのが主な仕事だ。手始めにシエラレオネとブルンジへの支援策の検討を始めた。

 平和構築で軍隊が必要なのは、息の長い支援プロセスでの一時期であり、全体としては民政支援が中心となる。まさに日本向きであり、日本が平和構築委のまとめ役で力を発揮していけば、安保理に一定の発言権を確保することも可能だ。ここで実績を積むことで、日本は「常任理事国」でなくても、いつも安保理に必要とされ、頼られる国になれるだろう。そこを足場に、将来の安保理改革を唱えればいい。

 第二の戦略は、民生分野での独自の支援策を広げることだ。とくに法律を整備する支援や警察・裁判所の再建など、「法の支配」の分野での支援に力を入れたい。

 カンボジアでは91年の和平合意後、法律制度の整備が始まり、日本は検察官や裁判官、弁護士を派遣してきた。対話を重視する日本流の手法はカンボジア側の評価も高い。「法の支配」の再建は日本に頼もうとの希望が続出するくらいに、日本の得意技に育て、他にも広げたい。

 選挙監視や民族間の和解支援などでも日本は実績を重ねてきた。外務省は平和構築の専門家養成のための「寺子屋」をつくり、アジアからの参加者も受け入れる計画だ。日本の貢献が現地で見えるような人材育成制度にしていくべきだ。

 人間の安全保障では、人道主義を定着させていく努力も必須だ。人道に反する行為や武器を禁じたり、違反者を公正に裁いたりすることで再発を抑止していく必要がある。

 そのためにはオランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の存在は重要だ。集団殺害や捕虜虐待など、紛争地で起きる非人道的な犯罪に目を光らせ、犯罪人を裁く。今秋に加盟する予定の日本は裁判官や検察官を含め、できるだけ多くの人材を派遣していきたい。

 ミドルパワーと呼ばれる欧州諸国やカナダは、国際的なNGOのネットワークと連携して、人道主義に基づく条約づくりを進めてきた。対人地雷禁止条約も、ICC設立条約もその成果だ。

 今はクラスター爆弾の禁止条約づくりも動いている。ミドルパワーとNGOのコンビは、大国主導では実現しない国際公益の達成、それを具体化する条約づくりの原動力となっており、日本もより積極的にこうした新たな力と連携していくべきだ。

 紛争がもたらす「恐怖」の克服に加え、貧困に由来する「欠乏」を絶やすことも人間の安全保障の要諦(ようてい)だ。

 日本は政府の途上国援助(ODA)を続け、国連活動を支援してきたが、近年は内向き志向が強まり、ODAや国連への拠出金を減らしている。

 貧困が放置されれば、目先の利益のために環境破壊が進んだり、医療の崩壊から感染症が爆発的に拡大したりする。何よりも「法の支配」への信頼が崩れる。貧困で苦しむ人たちを見て見ぬふりをすれば、私たちの良心も危機に陥る。

 それでいいはずがない。ODAを増やし、世界を良くする努力の先頭に立つ。人間の安全保障を通じて、そんな日本の行動する姿を示していきたい。

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