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〈憲法9条と平和・安全保障〉

9条、平和ブランドを 捨て去る理由はない

17.9条の歴史的意義


■日本社会がつくりあげた資産

・9条は、戦後の平和と繁栄の基盤である

・歴史を反省する、強いメッセージでもある

・軍事力での問題解決には限界があり、9条の価値を発展させるべきだ


 憲法9条に立つ戦後の平和主義は、最初からひとつのかたちに定まったものではなかった。焼け跡から日本を再建し、国際社会に復帰し、経済大国となる道を進む中で、私たち日本人がつくりあげ、定着させてきたものである。

 憲法が施行された60年前、日本は米国を中心とする連合国軍に占領されていた。かつての帝国陸海軍はもはや存在しない。その意味では、9条は実質的には「敵国」日本の武装解除でもあり、現に軍隊が存在しないことの追認でもあったと言えよう。

 また、今日多くの歴史学者の研究が明らかにしているように、昭和天皇の戦犯訴追を免れるためにも、軍国主義復活の可能性を封じる9条を盛り込んだ憲法を急いでつくる政治的必要性があった。

 なるほど憲法9条の出発点では、このように様々な思惑や駆け引きがあった。だが、その後の日本社会の歩みを通じて、この9条を軸にして平和主義という新たな資産を作り上げてきたのである。

 9条を今日の視点でみると、大きく言えば四つの歴史的意義がある。

 第一に、日本が再び戦争に直接かかわるのを防いだことだ。むろん、日本を巻き込むような大戦争が起きなかった幸運があってのことだが、自衛隊が韓国軍のようにベトナム戦争へ派遣されることもなかったし、防衛費の規模も抑え気味にできた。

 60年の間、この原則が貫かれたことで「戦争には加わらない国」「軍事力で何かを押しつけることはしない国」という、ユニークな平和ブランドを国際的に築くこともできた。

 第二に、9条のおかげで戦後社会から軍国主義がすみやかに姿を消したことだ。戦前のような軍事優先の価値観ははっきりと否定された。徴兵制もなければ、秘密の軍事裁判もなくなった。

 それは戦後社会における批判の自由の支えにもなった。「軍事」が幅をきかせた戦前・戦中の日本では、法案を審議中の国会で、説明員の軍幹部が議員を「黙れ」と一喝したり、軍を批判した議員が除名されたりしたことがあった。

 9条は「戦後日本の安全弁」である、と憲法学者の樋口陽一さんは言う。

 第三に、侵略戦争と植民地支配という負の歴史への、反省のメッセージとして9条は国際社会に受け止められた。あの過ちを繰り返さないという、国民の真摯(しんし)な思いが読み取れたからこそ、戦後の日本と日本人への信頼を取り戻すことができた。

 まだ過去の傷の癒えない人々が近隣諸国にいる。戦争や植民地を経験しなかった世代にも、記憶や歴史は引き継がれていく。9条でメッセージを発し続ける意味は今も失われない。

 第四に、国民に「非軍事」の持つ潜在力を考えさせる視点を提供した。

 20世紀までの国際社会では、軍事力の持つパワーは圧倒的だった。しかし21世紀に入るあたりから、そのパワーにはっきりと陰りが見え始めた。

 9・11同時テロを思い起こしてほしい。カッターナイフだけを持った少数の実行犯がジェット機を乗っ取り、あれほどの大事件を引き起こした。国と国との争いに重点を置いた、伝統的な軍事力の考え方では対応できない事態だ。

 いま、米国の強大な軍事力をもってしてもイラクを治められない現実が、なによりもその限界を象徴している。

 テロや大量破壊兵器の拡散、感染症、地球環境問題などのように、軍事力では手に負えない課題が増えている。

 では、どうすればいいのか。

 軍事力の出番がなくなったわけでは決してないが、それだけでは解決できない。結局は、多様な外交手段を使い、対話や国際協調、多国間の約束などの枠組みの中で、ねばり強く解決を探っていくしかないのだ。

 9条が前文とともに打ち出した平和主義の理念は、21世紀の今日を見通したような底力を持つ。

 私たちが提言した「地球貢献国家」も、そうした考え方に基づく。武力では対応できない脅威にどう立ち向かうか。そこで汗をかくことこそ憲法の理念を生かすことであり、21世紀の日本が果たすべき役割なのではないか。

 社説15と社説16で国連の平和活動、「人間の安全保障」への積極的な参加を提言した。国連PKOにおいて、実力部隊として自衛隊が担う役割は小さくはない。だが、日本の主眼はあくまで非軍事の活動に置き、NGOや民間を含めた幅広いものにしていく。なぜなら、そこに時代の要請があると考えるからだ。

 軍事力の効用に限界が見えた世界で「国際公益の世話役」となり、地球と人間の現在、未来に貢献していく。そうした日本になるために、9条の理念は新しい力を与えてくれるに違いない。捨て去る理由はまったく見あたらない。

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