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〈日本の外交〉

魅力高めて 世界のヘルプキーに

20.ソフトパワー


■ほっとけない。もったいない。へこたれない。

・ハードパワーの競争だけでは、国益、国際公益の追求に限界がある

・「ほっとけない」「もったいない」「へこたれない」の精神を世界へ

・不毛なナショナリズムの悪循環を断たなくてはならない


 後世のメディアが21世紀初めの流行語を特集するとしたら、まちがいなく上位に来る言葉がある。米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授が20世紀末に言いだした「ソフトパワー」だ。

 世界は、ハードパワー(軍事力、経済力)だけでは動かない。文化、価値観、外交政策などの「魅力」によって望む結果を得る力、つまりソフトパワーがないと、ハードパワーも空回りに終わる。

 ナイ氏のこの考え方は、イラク戦争を見れば納得がいく。米国は多くの国の反対に耳を貸さずに戦争を始め、結果としてソフトパワーを損なった。

 日本もかつては、明治政府のスローガン「富国強兵」が象徴するように、ハードパワー偏重だった。しかし、敗戦後は軍事力に高い価値を置かず、といって経済力にもこのところかげりが見えてきた。どのようにソフトパワーを磨き、活用していくかが問われる時代となった。

 しかし、ソフトパワーを生む「魅力」は、あくまでよその国の人々に感じ取ってもらうしかない。押しつけ、独りよがりと思われたら、それだけで逆効果だ。日本の文化や価値観が「国際公共財」として広く国際社会で評価されるようになれば、「名誉ある地位」を占めることにつながるだろう。

 この社説21では、さまざまな日本の新戦略を提言してきた。その一つひとつを実現していくために、常にソフトパワーを意識し、魅力ある態度で理念や具体案を語っていかなくてはならない。

    ◇

 日本は何を考え、どう行動すればいいのか。日本文化の伝統に根ざす三つの日本語を思い出しておきたい。

 一つめは「ほっとけない」だ。

 最近はNGOが、貧困対策活動の標語にこの言葉を使ったが、幕末の時代には儒学者、横井小楠は開国後の日本は「強国」ではなく、「世界の世話やき」になるべきだと言った。東に病気の子がいれば、行って看病し……。これは、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の精神だ。

 病気、貧困、天災、戦災、人権侵害。世界のどこかに苦しんでいる人がいたら飛んでいって助ける。パソコンには、困った時に押すヘルプキーがあるが、そんな役割を日本が果たせばいい。日本に相談したら、何か、困りごとに対応する糸口を見つけてくれる。そんな「ヘルプキー国家」である。

 二つめは「もったいない」。

 物を粗末にせず、ゴミもなるべく出さない。自然環境を大切にする暮らしを日本人は長く続けてきた。石油ショックのあとは省エネにいそしみ、地球温暖化を防ぐ京都会議の議長もつとめた。そうした実績は世界も認めるところだ。

 三つめは「へこたれない」。

 日本語の「もったいない」を世界に広める運動をしているノーベル平和賞受賞者、ケニアのワンガリ・マータイさんは「へこたれない」という題名の日本語版自叙伝を出した。「ほっとけない」「もったいない」を力にするには、「へこたれない」ことが大事だ。

 核廃絶や環境問題など、いま地球が抱える難題の解決には、並々ならぬ知恵と労力を要する。それでも、あきらめるわけにはいかない。地球を守り、持続可能な発展の道を切り開くために、日本は経済力や技術力だけでなく、決してへこたれない粘り強さを示す必要がある。

 ソフトパワーを築くには歳月と手間がいるが、壊れる時は一瞬だということを忘れてはならない。こつこつと友好関係を積み上げたのに、他国の不信や憤りを買うような首相や政治家の言動で「魅力」をいっぺんに落としてしまう。そんなことは、それこそ「もったいない」。

    ◇

 国際社会でソフトパワーの比重が高まりつつあることは、日本にとって追い風と考えていい。強制(軍事)と競争(経済)に偏らず、共感・共生のソフトパワーを生かす。この流れの中で存在感を見せることが世界のためになり、そのことがまた日本の評価を高めていく。そんな好循環に持っていけるのではないか。

 英BBCなどの国際世論調査で、日本は世界に「良い影響」を与えている国として2年連続で最高の評価を得た。ただし、中国と韓国だけ日本の「悪い影響」が突出していた。歴史問題のとげが日本のソフトパワーを損なっている。

 だが実は、中・韓との関係こそ、ソフトパワー戦略が有効なはずだ。

 もともと日・中・韓は、文化の根っこを共有している。たとえば「徳」の概念は、ソフトパワーの考え方に近い。互いに信義を重んじ、胸を開いて対話する。その積み重ねで共通文化の基盤を確かなものにすれば、東アジアの安定感を高めるのに役立つだろう。

 首相の靖国神社参拝が中国や韓国の反日デモにつながり、それを見て日本で反中、反韓の感情が高まる。不毛なナショナリズムの連鎖を終わらせてこそ、日本のソフトパワーも強みを増す。

 日本に来る留学生は10万人を超え、その1位は中国、2位は韓国だ。観光客も増えている。来るだけでなく、また来たいと思う。あるいは、ずっと住みたいと思う。そんな魅力を放つ日本列島にしなくてはならない。

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