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〈日本の外交〉

魅力高めて 世界のヘルプキーに

21.外交力


■世界への発信力を鍛えていく

・高い政策提言力を持つシンクタンクをつくる

・国会での政策審議力を向上させるため、国会図書館の機能強化を

・NGOの潜在力を伸ばし、条約づくりなどで協働していく


 腕力は弱そうだけど、よくものを考えていて、的確なコメントをする。相手に殴り込むようなケンカはしないが、いざとなると、タイミング良く一番必要なものを提供する。信頼を置かれ、相談事には必ずあずかる。そんな国のあり方が、日本にはふさわしい。

 ここまで20本の社説で提言してきたことは、まさにそういう日本になるための知恵とは何かということである。最後に、そうした知恵を生かすために、国際社会への発信力を高めることを考えなければならない。

 国際会議の日本人の姿が、サイレント(沈黙)、スマイル(微笑)、スリープ(居眠り)の「3S」と言われて久しいが、どれだけ改善されただろうか。

 たとえば、世界の識者の知の競演である世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)などをみても、インド、中国などの発信力が年々高まるのと対照的に、日本の存在感は希薄だ。

 日本政府が「世界の中の日米同盟」というスローガンを唱えても、肝心の政治家が「日本に何を期待するか」といった御用聞き外交を展開していては、内実が伴わない。まだまだ日本は知恵の出し方が足りないのだ。

    ◇

 ではどうやってその知恵を磨くか。知の発信力を考えると、政策議論を深める民間の頭脳集団、シンクタンクの著しい立ち遅れが深刻だ。

 同時多発テロを受けた米国では、ブルッキングズ研究所や戦略国際問題研究所(CSIS)といった名だたるシンクタンクがすみやかに、米国が取るべき総合的な対策について詳細なリポートを作り上げ、発表した。

 テロ直後には政権批判を許さないような、言論を萎縮(いしゅく)させる空気があったが、米外交評議会の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」などでは、中東における米国の孤立ぶりや、米国がなぜ憎まれるのかを鋭く分析する記事を載せた。

 いずれの組織も、日本では考えられない規模の基金で運営されており、政府からの独立が保証されている。官だけではなく、民の世界に強靱(きょうじん)さがある。かたや日本のシンクタンクは、外務省系の日本国際問題研究所、防衛省系の平和・安全保障研究所など、政府色が強く、しかも財政的に不安定だ。

 日本では、政策情報のほとんどが官僚に独占されている。幅広い選択肢から深い議論をするには、実はシンクタンクのような知的インフラが欠かせない。米国防長官や世界銀行総裁を務めたロバート・マクナマラ氏は以前から、シンクタンクの必要性を強調している。「主要な政策課題について、米国民が政府から独立した考え方を持てるのはシンクタンクのおかげだ」

 そういったシンクタンクを育てるには、税制上の優遇策など、自主的な運営を支える制度の整備が必要だが、国会や政党の側からのイニシアチブも欠かせない。柔軟な発想でシンクタンクから提言された対案を吸収したり、鋭い批判を刺激に政策力を鍛えたりしていかなければならない。

 米国の連邦議会図書館にある議会調査局(CRS)も、ワシントンでの政策論議を高める役割を果たしている。

 政策や法案に関する資料や、質問への回答、独自の調査研究まで幅広い知的サービスを連邦議会の委員会や議員、スタッフらに提供している。外交や安全保障といった専門性の高い問題についてCRSが党派を超えて知的貢献をし、多くの政治家が議論できる基盤を支えている。

 日本の衆参両院の調査部局や国会図書館も、調査・情報面で国会議員を補佐することが大切な仕事である。だが、官僚に情報が集中し、CRSのように深く、幅広く政策分析や情報提供ができていないのが現実だ。

 国権の最高機関たる国会が外交、安全保障で議論を深め、識見を発揮していくために日本版CRSを整備すべきだ。海外で学位を取得した日本人を積極的に採用し、国際的視野を広げていきたい。

    ◇

 国際舞台で活躍するNGO(非政府組織)をどう育てていくかも、大きな課題だ。現場経験や高い専門性を足場に、情報を発信したり政策を提言したりするのは、国際NGOの持ち味だ。人道や軍縮、貧困、開発などの分野では、NGOといくつかの政府が協働して新政策や条約をつくる手法が定着しつつある。

 そこでは欧米のNGOに加えて、アジアや中南米など、途上国のNGOの活躍も目立つ。日本のNGOは残念ながら、日本という国の大きさに比して活動規模が小さい。

 新しい外交で日本が置き去りにされないために、NGOの底力を引き出す施策と、活動を支える社会基盤を確立していくことが急務である。

 最後に、そもそも論を記しておきたい。発信力のある外交を可能にするには、日本の社会内部で専門の識見に基づいた自由闊達(かったつ)な議論が行われなければならない。学校や会社でそれが確保されているだろうか。異論を封じる、内向きの論理だけが横行していないか。価値観の違う人と議論し、説得する準備、訓練ができているだろうか。

 日本がとるべき戦略を考える試みは、最終的には、足元の日本社会に行き着く。日本の民主主義が内発的に自分たちを鍛えていけるかどうかに、外交の成功もかかっている。

主な執筆者
 連載企画「新戦略を求めて」と社説特集「提言 日本の新戦略」の主な執筆者は以下の通り。

【新戦略を求めて】 青田秀樹▽安東建▽石合力▽五十川倫義▽井田香奈子▽井上道夫▽上田俊英▽加藤洋一▽川上泰徳▽木村伊量▽隈元信一▽小菅幸一▽駒木明義▽定森大治▽外岡秀俊▽高成田享▽竹内敬二▽竹内幸史▽立野純二▽谷田邦一▽築島稔▽冨永格▽長岡昇▽永持裕紀▽西崎香▽根本清樹▽野嶋剛▽能登智彦▽本田優▽牧野愛博▽水野孝昭▽宮田謙一▽安井孝之▽山浦一人▽山本晴美▽山脇岳志▽豊秀一▽吉田文彦▽若宮啓文▽脇阪紀行▽渡辺知二

【提言 日本の新戦略】 五十川倫義▽遠藤健▽大軒由敬▽尾関章▽川上泰徳▽隈元信一▽小菅幸一▽定森大治▽高成田享▽三浦俊章▽宮田謙一▽吉田文彦▽若宮啓文▽脇阪紀行
 紙面編集 伊藤卓郎▽神谷素生▽西宮公

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