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揺れる中東 複雑化する利害対立の構図

 高騰する石油価格、力を強める石油生産国・ロシア、台頭する消費国・中国――。世界のエネルギー情勢は大きな転機に入っているが、世界の原油埋蔵量の約6割が集中する中東でも、変化の風が強まっている。

グラフ

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 大油田地帯を抱えるこの地域は、イスラエルとアラブ諸国、イランとイラクの対立など、常に危機にさらされてきた。この30年余りを見ても、グラフのように中東での混乱が油価変動の引き金となってきた。

 その中東で今、利害対立の構図が一段と複雑になっている。中東での紛争防止、石油の安定供給の鍵を握る米国の戦略がいくつもの壁にぶち当たり、石油市場にも影を落としている。

イラン──米を悩ます「ゲリラ戦」

地図

ホルムズ海峡 イランとオマーンに挟まれた海峡。ペルシャ湾の入り口で、日本の輸入原油の8割以上がこの海峡を経て運搬される。イランは過去にイラン革命や、イラン・イラク戦争時に機雷をしかけて、石油価格の上昇につながった。

 まずは、イラン問題がある。仮にイランが核保有したとする。イスラエルだけでなく、サウジアラビアなどのアラブ諸国も強く反発し、一気に中東での緊張が高まる。そんな事態を避けたい米国は、イランの核開発疑惑の解消に向け、経済制裁論を強く主張する。

 だが、その限界の一端をホルムズ海峡に見た。

 多くの石油タンカーが往来するホルムズ海峡。そこに面したオマーン北端に、小さな港町ハッサブがある。毎朝8時過ぎ、対岸のイランから200隻以上の「密輸」ボートが到着する。羊やヤギを50頭ほど積み、日本製の船外機を付け猛スピードで港に入る。イランよりも3倍の高値で売れるため、タンカー航路を横切って突進してくる。

 ハッサブで積み荷を下ろした後は、アラブ首長国連邦(UAE)経由で運ばれた中国製の衣料品や靴を満載し、無灯火で横列隊を組んでイランに戻っていく。イラン人が多く住むオマーンやUAEとの間で長く続いている光景で、オマーン当局も見て見ぬふりだ。

写真

ホルムズ海峡をヤギや羊を積んで渡ってくるイランからの小舟=オマーン・ハッサブ港で、葛谷晋吾撮影

 ハッサブ港で「密貿易」をながめていたイラン出身のオマーン人港湾係官はこうつぶやいた。「イランにとってホルムズ海峡は、これまでも制裁破りの生命線だった。米国がいくら、対イラン制裁を厳しくしても、ここでは通じない」

 小型ボートは「密輸」の手段だけでなく、軍事的な脅威になることもある。80年代のイラン・イラク戦争時、「密輸」に使われるのと同じようなボートが小型ミサイルで武装し、米艦攻撃を企てた。00年にイエメンで米駆逐艦が自爆テロの攻撃で大破した時にはゴムボートが使われた。

 軍事力がいくら圧倒的でも「ゲリラ戦」で勝てる保証はなく、米国の対応のむずかしさを浮き彫りにしている。

サウジ──米とすき間 中国重視

 中東石油の安定供給の要は、米国と世界最大の石油輸出国であるサウジの友好関係に支えられる部分が大きかった。だが、「ワシントン・リヤド枢軸」とも言われた固いきずなにも、微妙な変化が見え始めた。

 転機は9・11テロ。実行犯19人のうち、15人がサウジ出身だった。米国内で「テロ組織へのサウジ政府の対策は甘い」という不満が強まった。

 一方のサウジは、独自の石油外交にも踏み出した。有望な消費市場である中国への接近だ。

 サウジのアブドラ国王が今年1月、中国を訪問した。国王就任後、最初の訪問先として、関係の深い米国ではなく中国を選んだのは、石油地政学の新時代を象徴するものだった。4月には中国の胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席がリヤドを訪問し、サウジでの天然ガス開発や中国での製油所建設を共同で進めることを協議したと伝えられる。

 今年1月にUAEのドバイで開かれたエネルギー安全保障セミナーの合言葉は、「ルック・イースト」、つまりアジア重視の姿勢だった。お目当ては中国だ。出席したサウジアラビアの研究者は、「われわれの嫌米意識と、急成長を続ける中国市場の魅力が、うまく一致する。政治制度の違いなど関係ない」と言い切った。

 サウジが一気に米国離れに走ることはないが、両国間のすき間風が石油供給の未来にどのような影響を与えるのか。かつてはなかった疑問符が中東に加わった。

イラク──政情不安定で産油量低迷

 イラクの混迷も米国には痛手だ。

 戦争はすぐに終わり、安定した新政権ができれば、イラクの産油量は3年以内に湾岸戦争(91年)以前の水準である日量350万バレルへ回復する。戦争前、ブッシュ政権はこう予測していた。

 だが、イラクの治安回復はままならず、産油量は開戦後3年以上たったいまも、石油のパイプラインへのテロなどのため、百数十万バレルあたりで低迷している。

 対テロ戦争の一環として「中東民主化」を掲げたことも裏目に出た。民主化が進めば、社会的不満からテロに共感する人は減り、親米的な政権が誕生する。そんな目算は崩れ、独裁色の強いアラブ諸国で反米、嫌米姿勢がいっそう目立つようになった。パレスチナでの民主的な選挙では、皮肉にも米国が敵視するイスラム過激派組織ハマスが第1党になった。

 中東の安定、石油供給の確保には米国の存在が欠かせないが、次第に米国の「手綱」が弱まる現実――大油田が集中する中東はかつてないほど、先が読みにくい時代に入っている。(編集委員・定森大治、外報部・石合力、野嶋剛)

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