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知恵集めてモノ作り 国際的ネットワークで競争力を

 日本の産業競争力の優位性は中国や韓国などアジアの新興国の追い上げで揺らいでいる。持続的に成長するには、他の国、企業よりもいち早く付加価値の高いモノやサービスを生み続ける競争戦略が欠かせない。国内の匠(たくみ)と知恵を生かすとともに、海外の頭脳との連携も拡大して、ナンバーワン、オンリーワンの分野を増やしていきたい。(編集委員・安井孝之)

日本の課題
・付加価値の高いモノ作りのために、製造現場の力を鍛え、伸ばす。
・世界的な知のネットワークを広げ、高水準の技術革新を維持する。
・知的財産の保護制度の確立や、技術の国際標準づくりに向けて、日本が主導的な役割を果たす。

技術力──現場の創意生かせ

 三重県亀山市にあるシャープの亀山第2工場で、新たな挑戦が始まった。今月に入って、40型や50型の大型液晶テレビ向けの液晶パネルをつくる「マザーガラス」が運び込まれた。ガラス(縦2・16メートル、横2・46メートル)の面積は従来の約2倍で液晶パネルの材料としては世界最大となる。

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 シャープは世界で初めて73年に液晶表示の電卓を商品化し、液晶技術では最先端を走る。その基幹工場が亀山工場だ。1日から稼働した第2工場は、生産にかかわるごく少数の作業員しか入れない「ブラックボックス」状態。製造ノウハウが盗まれるのを防ぐためだ。

 例えば、マザーガラスが大きくなれば、たわみが生じやすくなり、不良品の原因となる。たわみを最小限に抑えれば不良品が減り、生産効率の向上につながる。そんなきめ細かな工夫が工場内に詰まっている。

 「専門家がみれば工夫が分かってしまう。特許にはならないような製造現場での工夫が競争力を決定づける」と、シャープの太田賢司専務は語る。日本メーカーや韓国、中国などのメーカーがしのぎを削るハイテク家電商品の分野では、製造現場での一つ一つの工夫の集積が大きな武器になる。

 日本の産業は80年代後半には「ジャパン・アズ・No.1」と呼ばれ、自動車や電機産業は世界一の水準に躍り出た。世界の半導体メーカーの売上高ランキングで90年代初頭にはベスト10に日本企業が6社も入った。

 しかし、バブル崩壊後の低迷と、米国の巻き返し、中国、韓国の台頭で、日本の製造業は自動車などを除くと一気に失速した。05年の半導体世界ランキングは韓国のサムスンが米インテルに次ぐ不動の2位、日本勢はベスト10に3社が入るだけだ。

 スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)の国際競争力ランキングで、日本は90年代初頭までトップだったが、その後、02年に27位まで落ち込んだ。06年には17位へと順位を上げているが、背後には中国、インド、韓国が控えている。

 製造現場でのほんのちょっとしたアイデアも含めた知的財産が、競争力を左右する。日本が得意とする「現場の力」で差をつける戦略が、持続的成長に欠かせない。 新たな商品、より進んだ製品を生み出すための基本的な技術開発力も競争力を決定づける。

 ニューヨークのマンハッタンに7月末、日本の編み物機メーカー、島精機製作所(本社・和歌山市)のデザインセンターがオープンした。同社の編み機を使った試作品を展示し、優れものぶりを知ってもらう試みだ。

 セーターやTシャツなどを作る際、従来の方法だと平面の前後2枚の身頃と袖などを編んだうえで縫い合わせる。手間がかかるし、縫い目の部分は伸びず、フィット感が足らない。ところが「ホールガーメント(無縫製ニット)」と呼ばれる島精機の編み機を使うと、縫い目のないニット衣料がきれいに編める。

 95年に商品化したときには欧米のアパレルメーカーが「産業革命に匹敵する発明」と評価し、エルメスやグッチなど海外ブランドが同社製の編み機を導入した。これまで4000台売れ、うち2800台が欧米市場だ。1200台が国内で稼働中だが、国内アパレル業者の動きはまだ鈍い。

 この編み機のもとになったのは、縫い目なく編み上げる「軍手」の製造技術だった。フィット感のある「軍手」づくりが、高級ブランド衣料に革命をもたらしたのだ。島正博社長は「世界にないオンリーワンを作ることにこだわり続けたことから生まれた」と話す。日本人のモノ作りの力に確信を持ち、その潜在力を最大限に生かして市場を開拓する。そうしたチャレンジ精神を絶やさず、技術革新を持続させる必要がある。

産学連携──国内外に輪広げよ

 国際的な知恵のネットワークも、競争力の未来を決める。

 日立製作所はグループ全体で約30の研究所を持ち、約6000人の研究者を抱える。だが、中村道治副社長は「スピードと研究分野の広がりを考えれば、研究者はとても足りない」とみる。

 知恵の輪を国際的に広げ、米国のほか英国ケンブリッジ大学の中にも研究所を持ち、次世代のコンピューター、半導体を作るための量子エレクトロニクスという基礎研究に取り組んでいる。ケンブリッジの研究所の隣にはマイクロソフトのコンピューター研究所があり、最先端の刺激を受ける環境にある。

 05年には中国に研究所を独立した法人として設立、80人の中国人研究者が働いている。中村副社長は「世界的な事業に中国の研究成果を活用したい。将来必要なのは研究組織に多様性を持たせることだ」と言い切る。

 バイオ企業のタカラバイオ(本社・大津市)も、国際的なネットワークを重んじる。遺伝子治療に使う、同社が開発した遺伝子導入法に関して39機関と共同研究中だ。うち35は海外の大学や研究機関。米国の大学での研究経験がある加藤郁之進社長は「欧米人や中国人などが交じり、格闘しながら研究するところから最先端の成果が生まれている」と語る。

 国内に閉じこもらず、開かれた知恵のネットワークを築く。日本が取り組まなければならない戦略的な課題である。

 もちろん国内の大学との連携が成果をあげるケースも少なくはない。日立は国内の大学との産学連携の規模を10年前に比べ2倍以上に増やした。最先端の磁気ディスクを作るための垂直磁気記録という分野では東北大学との連携が成果を生んだ。

 だが、「国内の大学のバイオ研究にみるべきものは少ない」(加藤社長)などの厳しい目があるのも事実だ。日本の有名大学は自校出身者の教授が多い「純血主義」が依然強い。海外を含めた人材の流動化を一層進めて、大学でいろんな知恵がぶつかり合う風土を作り上げなくてはならない。

 大学の基礎研究力と日本企業の応用力を組み合わせ、相乗効果を生み出せば、アジアを始め、諸外国の企業が日本との連携を望むようになる。それが新たな刺激となって日本総体としての競争力が高まる。そうした好循環をつくり出すためにも、知の国際的ネットワークが必要である。

知的財産──国際標準へ連携を

 競争力の源泉になるのが特許やノウハウなどの知的財産である。政府は97年以降、「プロパテント(特許重視)政策」を推進した。首相を議長とした知的財産戦略本部を03年に設置し、知財保護の姿勢を強く打ち出した。これは、米国が産業競争力が低下した危機感から80年代に進めたプロパテント政策を参考にしたものだった。

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北京市内で売られている高級腕時計などのコピー商品。模倣天国の中国だが、次世代の知的財産戦略を練っている=6月、時津剛撮影

 だが、日本の生み出した知的財産を世界市場で守ろうとする意識はまだ低い。欧米が自国での特許申請だけでなく、他国でも特許申請するグローバル特許比率は40〜60%にのぼる。日本は20%にとどまり、グローバルな視点はまだ乏しい。

 ブランド品を始め、ハイテク商品の模倣品も横行する中国。日本ばかりか欧米も中国の知的財産保護の改善を求めている。その中国が実は、次世代の知財戦略を着々と練っている。キヤノンの特許部長を長く務め、現在は同社顧問の丸島儀一氏(弁理士)は「中国が巨大な市場を背景に国際的な技術の規格化・標準化で主導権を取ろうとしている」と指摘する。

 中国政府が現在検討中の国家知的財産戦略の柱の一つにも規格化・標準化戦略が掲げられている。戦略づくりにかかわっている張平・北京大学教授は「巨大な市場を持つ中国で、ムダのない生産、販売システムをつくるには規格化・標準化が重要だ」と話す。

 例えば、携帯電話の充電器はメーカーごとに異なり、機種ごとに別なものが必要になっている。これを統一すれば利便性は向上するという考え方だ。

 中国が13億人という巨大市場を背景に、ハイテク商品の国内規格を定めれば、多くのメーカーは追随せざるを得ない。いくら日本企業が独自技術を開発しても、中国市場では「規格外」となり、日本企業の開発努力が水泡と消えかねない。

 自らの知的財産を守るだけでは足りない。日本の持つ知的財産を国際標準にする戦略を併せ持ち、巨大市場の中国を含めたライバルと競争したり、連携したりする戦略が不可欠になる。

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