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環境守る技術、世界へ 自治体・企業・NGOとの協力できれいな水や空気などの保全を無視した経済成長は、人々の健康をむしばみ、成長の足かせにもなる。高度成長期に公害が多発した日本には、環境を守る知識、技術が蓄積されている。それは、苦い体験を糧に獲得した日本の「資産」である。途上国にもっと移転し、地球規模で公害防止、持続可能な発展に役立てる戦略が必要だ。 (編集委員・竹内敬二、社会部・井上道夫)
■北九州──公害対策、研修生に 1950年代半ばからの20年間の日本は、公害被害が全国で同時発生した。北九州市一帯も、そうした地域の一つだった。 製鉄所や、筑豊の石炭を使う重化学工業の町として発展した。60年代、大量のばいじんが降り、洞海湾は「水中の酸素量ゼロ」となって「大腸菌さえすめない海」と呼ばれた。大気汚染で小学校が閉鎖されるほどだった。 その北九州市では今、環境保全が自慢になっている。ひどい汚染に市民が立ち上がり、行政や企業に改善を求めた。北九州市は、公害監視センターの設置、排水規制の強化、企業と独自に公害防止協定を結ぶなど、他の自治体に先駆けて対策を実施した。 町の環境改善が進む中で、公害という失敗体験を国際的な教訓にしたいとの意識も強まった。今では、環境保全のノウハウを途上国に広める拠点となっている。
今年8月、同市内の八幡製鉄所を、中国の地方公務員9人が訪れた。環境対策の研修コースに参加した人たちだった。家庭からのプラスチックゴミを製鉄に利用する方法などの説明を熱心に聞いた。 受け入れたのは、財団法人・北九州国際技術協力協会(KITA)。新日鉄などが中心になり、北九州市も支援して80年にできた。最初は鉄鋼技術の普及が主眼だったが、90年代からは環境対策の研修への希望者が増えた。 年間250人の外国からの研修生のうち、6〜7割が大気や水汚染、ごみ処理などの環境コースに参加している。主に途上国の公務員が対象で、これまでにアジア、南アメリカ、アフリカなどから4000人以上を招いた。 悪臭の中で実際にゴミを計量する。工場の煙突にのぼって排煙を測定する。研修はいつも実践的だ。強みは公害対策を実体験してきた技術者らが地元にたくさんいることだ。企業や自治体、大学が連携して、これまで、延べ約2000人が講師をした。日本政府の途上国援助(ODA)の一翼を担う国際協力機構(JICA)もKITAの事業を支えてきた。 KITAは海外でも活動する。インドネシア第2の都市スラバヤ市で悩みの種になってきたのが、街に放置され、ゴミ処理場でも野積みにされて悪臭を放つ生ゴミだった。そこで、北九州市役所からKITAに出向した石田哲也さん(42)は、生ゴミを堆肥(たいひ)にして資源化するコンポスト容器を広めることを思いたった。 この容器は北九州市にある会社「ジェイペック若松環境研究所」の所長代理、高倉弘二さん(47)が開発し、市内で使われている。石田さんはこの技術を支援の柱にすえた。スラバヤ市の主婦たちは、コンポストを「魔法のバスケット」と呼び、おかげで「ハエやネズミが少なくなった」「不快なにおいが消え、街が衛生的になった」と語る。成功を喜んだスラバヤ市は今後、全50万世帯の3分の1に普及させる方針だ。また、生ゴミが多く出る市場の近くにコンポストセンターを作ることも決まっている。 ■NGO──安全な水 供給支援 公害の教訓を海外で生かす日本のNGO(非政府組織)もある。
バングラデシュ西部のジョソール県ドシュパキア村。ここで、ヒ素に汚染された井戸を閉め、きれいな水源づくりを技術指導しているのは、アジア砒素(ひそ)ネットワークだ。宮崎県・土呂久鉱山で産出されたヒ素はかんがい用水やばい煙に混じって、周辺住民にヒ素中毒被害をもたらした。同ネットは中毒患者を支援し、汚染調査でも経験を積み重ねてきたNGOだ。 バングラデシュでは、浅い地層の中に自然に存在するヒ素が地下水に溶け出すヒ素汚染が深刻だ。全国の井戸約1000万本の約半数を調査したところ、約30%の井戸水のヒ素濃度が同国の飲料水基準を超えていた。約3万8000人の中毒患者が確認されている。 JICAは同ネットに委託して、02〜04年までに約1億5000万円かけて、池の水の浄化装置や、湖の水をろかして飲む簡易水道などを設置して、約1万7500人に安全な水を供給してきた。昨年からは、新たに140程度の水源を作る援助を始めている。
活動を初めて間もない頃はいくつもの障害にぶつかった。ヒ素中毒の重症患者を病院に運ぼうとすると「病院で臓器を抜き取られ、売られてしまうに違いない」と誤解されたこともある。 だが時間をかけて村民と向き合い、環境調査などの技術を向上させることで次第に村に溶け込んでいった。土呂久での患者支援で信頼を得たときと同じ方法だった。 同ネットの現地責任者・対馬幸枝さん(62)は09年をめどに、仕事を現地スタッフに引き継がせることを目標にしている。その後、バングラデシュにヒ素センターを作り、そこを拠点にしてヒ素に苦しむ周辺の国々に手をさしのべることを考えている。 NGOの活動は多様だ。「あおぞら財団」(大阪市)は、大気汚染裁判の和解金の一部を基金にして96年に設立された。活動の一環として、弁護士が韓国の司法修習生に日本の公害訴訟について教えている。環境問題の学者らでつくる日本環境会議は、アジアの研究者と協力し、現地調査、政策提言をしているほか、「アジア環境白書」を発行している。 ◇ ◇ 途上国は「公害なき発展」を望んでいる。だが、現実には資源の非効率な利用やそれに伴う汚染の激化、急激な都市化にほんろうされる悪循環に陥っている。そうした国がもっとも必要とする上下水道、ゴミ処理、省エネなどの技術と管理方法は日本では自治体や企業、NGOが蓄積している。 日本には途上国の公害防止で活用できる知識、技術がまだたくさん眠っている。国の支援を充実させ、制度を整えれば、途上国への協力窓口はさらに広がる。 日本自身も環境保全での課題は多い。環境アセスメントの不備、ディーゼル車による大気汚染、湖沼など閉鎖水系における汚染の常態化などだ。こうした課題の解決策を見いだしていくとともに、日本での成果を「資産」として途上国の持続可能な発展に生かしていく。そうした視点を常に持ち続けていたい。 ■中国支援──円借款で働きかけ 環境問題への影響が大きいのは、資源を大量消費し、公害対策も遅れている中国の動向だ。 ODAには円借款や無償資金協力、技術協力がある。日本の中国への円借款の累計額はインドネシアに次ぐ2位。近年、中国への円借款は約6割が環境分野だ(図)。
内陸部の貴陽市は大連、重慶とともに日中環境モデル都市に指定され、援助が集中的に投入された。貴陽市の二酸化硫黄濃度は95年から03年までに5分の1になった。重慶も3分の1に減った。京都大学経済学部の研究者らが昨年調査を行い、「円借款は中国の環境汚染を軽減し、環境政策や制度を推進した」との評価報告をまとめた。 だが、中国全体では課題が多い。01〜05年の中国の第10次5カ年計画では、二酸化硫黄、水質汚濁物質の排出をともに10%減らす目標を立てた。だが、二酸化硫黄は28%増え、水質汚濁物資は2%減にとどまった。 中国への円借款を「08年の北京五輪までに終了する」。これが日本政府の方針だ。「1人当たり国内総生産」などで考えれば中国はまだ援助対象だが、「急成長する中国はもう大国」といった意見が自民党などで強まり、昨年決まった。 だが、環境対策への円借款は打ち切るべきではない。 8月2日、「中国環境円借款評価セミナー」が北京で開かれた。環境保護総局の王玉慶・副局長は「第4次円借款(96〜00年度)は中国の省レベルの環境改善に積極的な効果を発揮した」と述べた。今年から始まった中国の第11次5カ年計画でも環境分野に大量の資金が投じられるが、「国内資金だけでは不十分」(馬中・人民大学環境学院長)なのが実情だ。 中国は経済成長を持続させることを至上命題としているが、汚染や自然破壊を避けて発展できるかどうかの岐路に立つ。 日本の酸性雨は、中国発の二酸化硫黄が一因だ。砂漠化が進めば黄砂も増える。工業地帯や都市部からの排水による東シナ海の汚染も心配されている。中国の環境問題は、世界、そして日本の問題でもある。 現在ほど金利などで優遇する必要はないが、円借款を継続して中国を環境配慮型の経済へと引き寄せる。環境を守る多国間条約に積極的にかかわるように働きかける。日本はそうした長期的な戦略を練るべきである。
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