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「開かれた中国」後押し 「日本の考え」発信強化も

 環境エネルギー問題、食料不足、貧富の格差拡大──成長めざましい中国だが、発展の好機とともに、危機や内部矛盾を抱えているのも現実である。ただ、統治の手段としての「共産党独裁」は続く公算が大きい。日本としてはその想定のもとで、「開かれた中国」への動きを促し、アジアの安定を高めていく必要がある。(論説委員・五十川倫義、外報部・野嶋剛)

日本の課題
・成長する中国には、より開かれた国へと変わってもらう必要がある。
・その方法として、経済やエネルギーなどの諸問題で中国を国際基準の枠組みに引き寄せることが大切だ。
・日本の対中支援も、中国の民主化、法治主義の定着を後押しする事業に力を入れるべきである。

共産党──危機回避へ政治改革探る

 今年3月、北京郊外で、政府系の経済研究機関が会議を開いた。今後の改革の方向を考える非公開会議だったが、「議事録」がネットに流れた。

 「今は言えないが、我々には将来の目標がある。例えば多党制、報道の自由、真の個人の自由だ」「中国共産党が二つの派を形成することを望む」。出席者の発言が「議事録」に並ぶ。

 発言した著名な経済学者たちは、保守層から強い批判を受ける結果となった。「これは学術会議の幌(ほろ)をつけた政治会議ではないか」「放っておくと新たな天安門事件になる」。大きな政治問題にはならなかったが、この一件は西山会議事件とも呼ばれ、論争は続く。

 市場経済化によってめざましい経済発展を遂げた中国。次は政治改革だとの声が知識層の間に広がる。西山会議事件はそのあらわれとも見えるできごとだった。

 中国政府は、2020年までに国内総生産(GDP)を2000年の4倍にするという目標を掲げている。だが実際に、中国の今後はどうなっていくのだろうか。「2010年 ありうる中国の三つの姿」という報告書がある。北京大学の丁元竹教授が一昨年、98人の官民専門家の協力でまとめたもので、「2010年の前は危機の多発期」と結論づけた。指摘された「危機の根源」は貧富の格差、金融破綻(はたん)、腐敗など20を超えた。

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 ありうる三つの未来像は、(1)「ゆとりのある社会」に向かって前進する(2)この目標からそれる(3)目標に達しようがない。最悪のシナリオである(3)は、経済発展が壁にぶつかり、社会で衝突が起き、政治の安定にも影響する、と予測する。  米国の中国専門家、ジョージワシントン大のハリー・ハーディング教授はこう見る。「今後10年が非常に大切だ。紆余(うよ)曲折はあるが、何とか乗り切る可能性が最も高いだろう」

 中国社会科学院の陸学芸・元社会学研究所長は「この数年、中間層(中産階級)の比率が毎年平均で1%増えている。この勢いだと2020年には約38%前後になるだろう」と予測している。中間層が40%に達すれば、社会は現代化し、安定すると見ている。

 確かに、マイホームやマイカーを持ち始めた中間層には政治の激変を避けたい気分が漂っている。北京の中間層の男性は言う。「今の生活で満足できる。貧困層による革命が起きると我々が引きずりおろされる」

 緩やかながら、政治を変える試みが行われている。全国人民代表大会(国会)は昨年、所得税法の審議のため、初めて公聴会を開いた。「大衆が参加する公聴会を制度として確立させるべきだ」と蔡定剣・中国政法大学教授は語る。行政機関の影響を受けやすい司法の改革。統治から住民サービスへの政府の意識転換。一党独裁の範囲内で様々な提案が出ている。

 共産党はこれまで変身を繰り返してきた歴史がある。市場経済化を受け入れ、私営企業家も党内に迎えた。北京在住の馬玲・香港誌「広角鏡」主筆はこう見る。「来年の第17回党大会後、胡錦涛政権は経済と社会を揺るがさないゆるやかなやり方で政治改革を始めるだろう。中国の政治改革は西洋型でもロシア型でもなく、中国にふさわしい第3の道を歩む」

 足元の「危機の根源」をにらみつつの試行錯誤になる。

国際社会──共通ルールで変化誘う

 中国の将来には未知数の部分が大きいが、より透明化し、法治主義が進むことを国際社会は望んでいる。そのための有力な方法となるのが、国際的な共通ルールに引き寄せることだ。

 01年に世界貿易機関(WTO)に加盟した際の合意で、中国では来年から金融の自由化が本格化する。中国の銀行は外資系銀行との競争にさらされるため、経営体質の強化を急いでいる。公的資金の投入で不良債権を処理する一方、外資の導入を進める。香港や上海の証券取引所への上場が相次ぎ、中国最大の銀行である中国工商銀行も10月末に上場した。

 上場によって各銀行は経営情報を公表せねばならない。表面化させたくない情報を抱える銀行もあるが、競争に生き残るためには、経営の透明化へ踏み出さざるをえなくなった。

 国境を越える伝染病対策の協調も重要で、新型肺炎SARSの大被害を契機に世界保健機関(WHO)と中国の協力は進んだ。鳥インフルエンザなどでももっと積極的に情報提供をしてほしいと、WHOは中国に求めている。

 経済協力開発機構(OECD)の国際エネルギー機関(IEA)では、先進諸国が石油備蓄を緊急時に放出する戦略を練っている。中国はOECDに入っていないが、緊急時の中国との連携をはかろうと、中国への働きかけが続いている。

 OECDにはDAC(開発援助委員会)があり、ODA(政府の途上国援助)の指針をもつ。人権問題が指摘される国々への中国のODAが懸念を招いているため、先進諸国はDACの援助基準に近づけるよう中国に呼びかけている。

 中国の利害に合致しない場合には、簡単に国際基準に合わせてくる公算は小さいが、国際社会で存在感が大きくなる中国に共通ルールの尊重を求め、それを通じて中国自身の政策の軌道修正を促す戦略は欠かせない。

 地域でも工夫できる。国際交流基金の支援で05年から続く「日・ASEAN(東南アジア諸国連合)フォーラム」では、政治家や研究者らが毎年、「中国問題」を話し合う。ASEAN諸国は「日中双方と良好な関係でいたいとの思いが強い」(世話人の竹田いさみ・独協大教授)。知的対話の中から、経済、環境、エネルギー問題でのアジアにおける行動規範を提言し、政策づくりの基礎としていくべきだろう。

日本の役割──法治主義の浸透促せ

 中国の改革を側面支援する、日本独自の試みも始まっている。中国国家環境保護総局は今年2月、環境アセスメントで「住民参加」を認める法律を公布した。大規模な公共事業などでは計画段階で住民の意見を10日間聴取しなければならない。来年にも導入されるが、下支えは日本の知識と経験だ。

 国際協力機構(JICA)は、日本の住民参加制度の研究者らを中国に派遣し、各地でセミナーを開いた。環境当局に住民参加の意義を説き、実施のルールづくりにも携わった。必要性は認めるが、不安を感じる中国側の理解を深めた。

 中国の公共工事では、立ち退きなどが一方的に通知され、早々と実施されることが多い。それだけに環境アセスで住民参加の導入は大きなインパクトを与える。JICAの幹部は「住民が(行政への参加に)目覚める助けにもなれば」と語る。

 弁護士の日中協力も動き始めた。日本の3法律事務所は中間法人「日中法務交流・協力日本機構」を立ち上げた。日本人と中国人との間の離婚や借金、交通事故などを中国側と共同で受任するほか、相互訪問や意見交換なども活発に行う。

 今年8月には青島(山東省)の弁護士と契約し、北京、大連(遼寧省)、上海など13都市とネットワークを築く。名古屋第一法律事務所の加藤洪太郎弁護士は「仕事や交流を通じて中国に法治や在野精神を広げることも日本側の役割」と話す。

 迂遠(うえん)にも見えるが、幅広い人的交流によって日本や日本人の考え方を伝えること自体が、中国での改革の刺激となる。

 中国でも交流拡大の声が上がっている。上海社会科学院の楊剣・世界経済政治研究院弁公室主任は多様な分野に交流を広げる「全民外交」を訴える。「これが拡大すれば、国家間が緊張した時でも、相手国への極端な政策はとりえない」

 情報発信の強化も重要だ。例えば、中国には、現在の日本をいまも軍国主義と思っている人が多く、そうした誤解が残ったままでは、交流自体が広まらない。

 井出敬二・駐中国公使は中国メディアに向けた大使館の発信を強めている。「正しい情報を提供し、対日認識を良くしたい」と、中国メディアの取材を基本的にすべて受け、歴史問題などを丁寧に説明する。けんか腰の記者の態度が変わることもある。就任2年半で地元メディアに100回以上登場した。中国のメディアも販売競争の中で独自性を見せ出し、日本への反発をあおるものがある一方、積極的に日本の立場や声を紹介するものも増えている。

 日本にある多様な考え方を中国の人々に伝えるために、民間機関による発信強化も考える必要があるだろう。

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