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存在感増すインド 政経両輪で関係強化を

 日本の「アジア政策」において、インドの存在感は薄かった。だがインドは経済的にも、政治・軍事面でも力をつけ、アジア、そして世界で影響力を持つ国になりつつある。核問題では大きく価値観が異なる日本とインドだが、ユーラシア大陸の繁栄と安定にとってこの二つの国の対話と協力は欠かせない。(編集委員・竹内幸史、社会部・築島稔)

日本の課題
・南アジアの経済発展・統合を支援する。先に統合が進む東アジアとのつながりも深めていく。
・シーレーンの安全確保で、インドと協力できる分野をさぐる。
・核問題ではインド自身の実験禁止を促し、地球規模の軍縮・不拡散の輪にも加わるよう求める。

南アジア経済──発展促す支援は日本の手札

 インド西部のムンバイに本社があるアイフレックス・ソリューションズは、92年から始めた銀行向けの情報処理システムづくりで急成長している。日本では新生銀行が採用し、大幅な導入コスト削減を実現した。

 英業界団体の調査では02年から4年連続でシステム納入数世界一だ。インドITは情報処理の受託など下請け的な事業が主流だが、独自商品でも伸び始めた。収益は93年の200倍にあたる約5000万ドル。最高執行責任者のラーマン氏は「サービス重視と低コストが強み。インドITの成長は今後も続く」と語る。

 業界団体によると、IT産業の従事者は過去1年で23万人増え、約130万人。IT産業の輸出額は毎年30%前後の伸びが続き、06年には236億ドルに達する見通しだ。

 「政冷経熱」だった日中関係に比べ、日印関係は「政界のインド熱」が先行してきた。インドは対日感情が良く、歴史認識の摩擦もない。森、小泉両首相が訪印し、安倍首相も自民党幹事長代理時代の05年に訪印した。

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 日本の経済界は、地理的にも心理的にも遠いインドとの関係拡大に及び腰だった。しかし、インドの国内総生産(GDP)はロシア、韓国を上回り、30年後には日本も超える勢い。「アジア」と言えば中国、韓国、東南アジアが主だった日本経済の視野に、インドも入り始めた。

 製造業では、2億人以上の中間層に目をつけ、日本の自動車業界が大幅な増産を決めた。鋼材の需要増で韓国や欧州の大手鉄鋼会社が各100億ドル前後の投資に動く。

 インドは経済成長の加速に向けて、地域協力にも精力的だ。昨年の東アジアサミットに参加し、タイやシンガポールと自由貿易協定を締結した。今年末に来日予定のシン首相は、日本とも貿易を自由化し、「東方政策」をさらに進める方針だ。

 南アジア地域協力連合(SAARC)は、加盟国の貿易総額に占める域内比率がまだ5%程度だが、インド最大の財閥タタがバングラデシュに鉄鋼、肥料などで総額25億ドルの投資を計画し、インドへの逆輸入も検討中だ。ITや医薬品、電力事業者も周辺国に進出しており、経済統合の触媒になる可能性もある。

 インドは、中央アジア諸国もエネルギー供給国、製品輸出先として重視する。カザフスタンでの石油採掘の入札は中国に敗れたが、今後とも中央アジアとの連携を強化する方針だ。インドは今年6月、初めて上海協力機構にオブザーバー参加した。中央アジアに、インドも深くかかわっていく意欲のあらわれだった。

 日本の対インド戦略はどうあるべきなのか。

 日本の政界には、日印連携で中国への対抗軸を築く思惑もある。だが、インドが日本の計算通りに動くとは考えにくい。むしろインドを、中国に集中し過ぎな投資や生産基地を多角化する候補地に位置づけるべきだ。

 南アジアの経済統合の進展も視野に入れ、東アジアと合わせた「大アジア経済圏」に動き出す戦略も必要だろう。

 日本が持つ手札は多い。貧困対策、人材育成から産業基盤づくりまで協力可能な分野は幅広い。南アジアの持続的な発展に向けた日本の支援への期待は大きい。対立するインド、パキスタンの共通の悩みである環境対策を手伝うことなどで、緊張緩和を促す役割も担えるだろう。

 来春のSAARC首脳会議には、日中がオブザーバー参加する予定だ。中国の参加表明を受け、インドが日本に参加を呼びかけた。南アジアとの関係を深め、競争で後れをとらない進取の気質が問われる。

シーレーンの安全──重しとなる国、協力必要

 日本の繁栄は、輸出製品や部品、輸入石油などを運ぶ海上交通路(シーレーン)の安全によるところが大きい。

 東南アジアから西アジアにかけての広大な海洋に面する地域は「不安定の弧」と呼ばれる。軍政のミャンマー(ビルマ)、内戦が再燃するスリランカ、独裁的体質、宗派対立が残る中東。その沿岸や近海にシーレーンが延びる。

 インドはその海域の真ん中に位置する。巨大な民主主義国として、不安定の弧やシーレーンの安定が揺らぐのを防ぐ「重し」になっている。

 インドの海軍や沿岸警備隊は、日本企業が運航した貨物船アロンドラ・レインボー号が99年、マラッカ海峡で海賊に襲われた時、摘発に貢献した。海軍は04年末のインド洋津波でも、インドネシアの被災地に艦船を急派した。米国などによるイラク戦争時には、マラッカ海峡で米艦船を護衛した。

 日本はシーレーンの安全確保で、インドとどのように協力すべきか。

 海洋問題のシンクタンク、海洋政策研究財団(会長=秋山昌広元防衛次官)は10月中旬、「日印海洋安全保障ダイアローグ」を東京で開いた。防衛庁や海上保安庁のOB、インド海軍元幹部や学識者が参加し、シーレーンにおける「親善共同演習、捜索救難、テロ対策、整備・補給などの交流」を提言した。

 日本側は軍事的協力には慎重なため、インド側は「多彩な海洋安全保障の情報を共有する仕組みづくりから取り組もう」(パンジャブ大のサンジャイ・チャトルベディ助教授)と提案している。

 シーレーンの安全をめぐる議論は日米協力が中心になりがちだ。インドとの協力のあり方、東南アジアとの連携の方法など、多角的にとらえ直すべき時期がきている。

隔たる核政策──実験禁止へ粘りの説得を

 日印間で最も隔たりが大きいのは、核問題だ。

 核不拡散条約(NPT)に未加盟のインドは98年に核実験した。パキスタンへの抑止が念頭にあったが、中国とのライバル意識はさらに大きい。インドは62年の中印国境紛争以降、中国と敵対してきた。経済重視の時代に入って対話が進むが、中国との差が気になる。

 米中央情報局(CIA)の報告では、核保有数は中国420に対し、インドは95。インドの国防研究分析所のウダイ・バスカル氏は「必ずしも核弾頭数の問題ではないが、最低限の信頼できる抑止力が必要だ。核の力で中印関係は安定してきた」と強調する。

 米国は、NPTに入らない国とは原子力協力をしないのが基本方針だ。ところがその米国が3月、インドを「例外扱い」にして協力することで合意した。民主主義国インドを経済的にも軍事的にも中国の競争相手に育てる狙いがある。

 だが、こうした「二重基準」には落とし穴がある。国際社会は、NPT加盟国イランに核開発疑惑があるとして、原子力利用を規制しようとしている。その最中に「インドは別」と言い切る米国の立場には無理がある。

 米印協力により、インドは発電用の核燃料が輸入でき、国産ウランは核兵器用に集中利用することも可能だ。インドの反核運動家、プラフル・ビドワイ氏は「核兵器生産の能力増強を容認するものだ」と心配する。

 このまま米印原子力協力が進んでは、世界の核軍縮・不拡散に悪影響を与えかねない。インドがすぐにNPTに入るのは無理にしても、少なくとも次のような行動が必要だろう。

 まず、「兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約」の実現への輪に加わることだ。中国の反対で条約交渉に入れない状態だが、インドが条約支持に回れば、交渉開始への圧力は強まる。インドが警戒する中国の核軍拡を抑える効果も持つ。米印合意にもこの条約での協力が盛り込まれており、インドは行動に移すべきだ。

 インドは「実験の自主的凍結」を宣言しているが、包括的核実験禁止条約(CTBT)には未署名だ。「CTBT批准を拒んだ米議会が再び批准に動けば、インドも考えざるを得ない」(デリー大のアチン・バナイク教授)との見方もあり、米国とインドへの説得を粘り強く続ける必要がある。インドが署名すればパキスタンも署名に動く可能性があり、北朝鮮の核実験停止にも圧力は強まる。

 現在のシン政権の与党・国民会議派は、98年のインド人民党政権による核実験を批判した。04年の政権発足時には「核軍縮と廃絶に指導的な役割を果たす」と公約した。

 言葉だけに終わらせないよう、日本は、インドに協力を強く働きかけるべきだ。今春から、日印間で軍縮・不拡散担当の局長級協議が始まった。さまざまな場で接点をさぐり、多国間協議にもつないでいきたい。

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