2010年6月28日
相手を思いやることが、お中元選びのポイント。そこに気づいたら、社会人としても一歩成長できる
感謝を込めた小さなプレゼントも、お中元のひとつ
お中元は、相手への気持ちのあらわれといえます。実践編で、お中元のヒントを得た愛子。ようやくはじめてのお中元を贈ることができた愛子の中で、何かが変わり始めます――。お中元も仕事も基本は同じ。相手を思い、感謝すること。大切なことに気がついた愛子に、去年とは違う夏がやってきます。
◇ ◇ ◇
はじめてのお中元は、いともあっさり贈ることができた。むしろ簡単すぎて拍子抜けしたくらいだったが、その影響はジワジワと愛子を変化させていた。
それはある日、突然訪れた。
松本部長に誘われて、会社近くの喫茶店でランチをしていたときのことだった。
「昨日、家に帰ると君からお中元が届いていてびっくりしたよ。あんなに立派なフルーツ。本当にありがとう」
「いえ。選んでいた私も楽しかったです」
まずは喜んでもらえたようで何よりだ。すると部長がかばんから手紙を取り出した。
「これはうちの奥さんから」
小花柄の便せんを開くと、そこにはきれいな字で書かれたお礼のメッセージ。
「いただいたフルーツでタルトを作る予定なので、ぜひ遊びにきてください」
うれしくて、ほっとした。伝えたかった感謝の気持ちが、しっかりと相手の胸に届いたことを実感したのだ。
「ハーブティーだっけ?うちの奥さんはずいぶんあれを喜んでいたよ」
そう、愛子は今回フルーツだけでなく、ハーブティーも一緒に贈ったのだ。さっぱりとしていてクセがなく、甘酸っぱいフルーツタルトにピッタリのハーブティーを。
◇
お中元で悩みながら、愛子は気づいたのだ。大切なのは、「相手の趣味」が8割。それに自分の好みを2割ほどプラスすること。本当に人に喜んでもらおうと思ったら、贈りものであれ何であれ、これは鉄則だ。
仕事も同様。お中元の一件以来、愛子は社内で交わされる些細な会話や、ちょっとした行動に気をつけるようになった。この人は私にどうしてほしいのだろう、この人の仕事がうまく回るようにするにはどうすればいいのだろう、と想像するようになったのだ。そのせいか社内での評価が高まった気がする。鈴木先輩からも「ずいぶんと仕事がしやすくなった」と言ってもらえたところだ。
同時に、なぜ自分がお客様のところに連れて行ってもらえないのかもわかるようになった。以前の私ではきっと自分の好みばかりを押しつけて、お客様を困らせたに違いない。きっと部長はそれがわかっていたのだろう。相手の立場に立って、相手の考える喜びや快適を優先できるようになること。これこそが部長や先輩の言う「成長」だったのだと思う。そのことをお中元が気づかせてくれたのだ。
◇
席から立ち上がるとき、部長が伝票をつかみながら愛子を見てこう言った。
「午後から一緒にお客様のところに行こう。身だしなみ、ちゃんとしておけよ!」
店を出た愛子の目に映るのは、青い空と白い雲。この輝き方はもうすっかり夏だ。
「夏が来たなぁ。お中元が届くと毎年そう感じるよ」
部長がふともらす。なるほど。季節の行事は、忙しい社会人たちが季節を見逃さないためにあるのかもしれない。
愛子はどこかワクワクしている自分を感じて、ヒールの靴で走り出した。
■森山愛子さんインタビュー
私が所属している演歌の世界は非常に礼儀を重んじます。そのため、先輩方の中にはお中元を贈っている方もいらっしゃいます。私自身は等身大のプレゼントとして、仕事での顔合わせの際などに、お菓子や小物の手土産を持っていくことが多いですね。感謝を込める意味では、それもお中元の一つと言えるかもしれません。
1985年1月27日 栃木県宇都宮市出身。演歌歌手。2004年に「おんな節」で東芝EMIよりデビュー。明るく親しまれやすいキャラクターとは裏腹に、確かな歌唱力を持つ若手実力派として知られている。本業の歌手以外にも情報番組のレポーターなど、多様な場で活躍中。「第37回日本有線大賞」新人賞、「第46回日本レコード大賞」新人賞を受賞。ティアンドケイ・ミュージック所属。