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日・伊シンポジウム「人類の文化遺産 国際協力で守る」
【討論】(5)

●離れた地域の架け橋になる

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マリオ・ミケーリ氏

 ミケーリ 最後の考察ですが、国際協力というのは、直接恩恵を受ける人たちだけを念頭に置くものではありません。直接恩恵者とは、専門用語なのですが、特定の活動によって直接生活の向上という恩恵を受ける人々です。

 例えば、修復家を育成します。能力を向上させ、専門家になる人たちは直接恩恵を受けたわけです。一方で、間接的な恩恵者もいるのです。アンコールワットもそうです。住民が朝、日本の修復団が遺跡で何をするのか、興味を持って見に来るとおっしゃいました。ここでは、副次的な、しかし同様に重要な文化的な活動がなされたことになります。

 もちろん、直接恩恵者も大切です。中国全土から集まってきた67名の生徒たちのことは忘れることができません。900万キロ平米の広大な国土です。ヨーロッパは、中国よりちょっと小さい位の面積しかないのですが、広大な中国で、連携をしていく必要があります。彼らは中国で、今、クラブのようなものをつくっています。異民族がたくさんいる国ですが、自主的にネットワークをつくって、人的交流を強めようとしている動きが見られるのです。

 研修のコースを通じて知り合った人たちが、お互いの人的ネットワークを国内でつくっていく、膨大な人口を持つ広大な土地で、そのようなネットワークをつくろうと自主的に考える人が増えていくことこそ、まさに私たちが行った行為、貢献が役に立ったと言うことができるのではないでしょうか。

 2月18日、ローマで起こったことをお知らせしましょう。アフリカ文化遺産大学の理事長が、北京の修復センター長と会って、ローマで協力協定に署名しました。ローマが、この2つの離れた地域の架け橋になったのです。彼らは丸一日、熱っぽく話し合いました。私もオブザーバーとして参加していたのですが、彼らの話し合っている内容を聞いていて涙をおさえることができませんでした。

 さまざまな協力を話し合うなかで、お互いに南(発展途上地域の意)と南を結びつけ協力活動をしていくこと、交換留学生を受け入れること、人材育成を共同で実施することなども話し合っていました。 アフリカと中国が、私たちの活動を通じて結びついたのです。このような形態をつくっていくことも、国際協力活動における重要な展望なのではないでしょうか。

 青柳 ありがとうございました。先ほど青木先生には、アフガニスタンのバーミヤンでのことなども少し紹介していただきましたので、今のような、現在抱えている状況、あるいは、困難なことというような観点から何かコメントをいただけますでしょうか。

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青木繁夫氏

 青木 今の人材養成のことも含めてですが、一つは現実問題として人材養成をします時にさまざまな問題がございます。それはバックグラウンドの違いということがまず一つ、文化的なバックグラウンドも含めてですが。それから具体的な話に入ってしまいますが、それぞれの国によって修復材料などを選ぶ時に、工業的バックグラウンドでなかなか手に入らないとか、そういったさまざまな苦労がございます。

 日本でも、多分この4月以降ですが、中国と人材養成の交流を、中国文物研究所と開始します。その内容について、今、交渉中ですが、いろいろな議論の中で、どの程度の人を育てるのか、それを長期的にどの程度するのか、将来的にそれを両国の交流の中でどういうふうに位置づけるかなど、やっぱり、なかなか合意に至らない部分がございます。そういうものは、もしかしたら、いずれ実際の仕事の中で解決していく問題かもしれないと思いまして、4月から仕事を始めようと考えております。

 青柳 ありがとうございました。

 おそらく、こういう世界の文化遺産を、イタリアや日本、あるいは先進国が、さまざまな形で協力していくというのは、世界の平和のために、どうしても協力していかなければいけないということです。やはり、その場所場所で、国や地域のそれぞれの属性というか、それぞれの伝統というものを大切にしながらやっていかなければいけない。将来、その地域が独自に文化遺産を守っていけるようなシステムを定着させることが何よりも重要であるということが、これまでのお話の中で明らかになってきたのではないかと思います。

 そういう観点から、ミケーリ先生にお聞きしたいんですが、これまでの長い中国の経験で、そういうセルフビルディングというんですか、そういうことがかなりうまくいっているのかどうか、そのあたりをお教えくださればと思います。

●文化財を未来へ継承する

 ミケーリ システムを構築することですが、さまざまな経験を生かすことによって改善されていきます。これらの経験をその国において広めていくことも必要でしょうし、国際的にこのようなノウハウを流布することも必要です。このシンポジウムもその一つの形です。

 先ほどの青木先生のお話とも関連してきますが、私たちは中国でお互いに手を携えて共同で仕事をしていけるのではないでしょうか。一つの問題に対して、開かれた状態を保ち、多くの専門家たちに同じような問題を提起していくことが大事です。また、世界遺産のリストに登録されているような考古学遺跡での大掛かりな修復事業の戦略を共有することも大事です。

 私たちは、常にあらゆるものを改善していくことができます。修復の技術も、非常に発展してきています。文化遺跡を保護していく上で、修復技術は重要な基本です。デカーロさんもおっしゃっていましたように、修復事業は、ある時代、ある国が主体となって進められていくものです。先ほどのお話にもありましたが、過去の発掘でも過剰な発掘をし過ぎたために問題が起きたケースもありました。ただ、批判をする場合でも、発掘が行われた時代背景を考慮する必要があるでしょう。

 さまざまな失敗もありましたが、私たちは今、倫理的コンセプトを基本にして発掘を進めております。チェーザレ・ブランディという人が修復の理論を提唱した本を書き、最近、日本語訳もされています(『修復の理論』三元社2005年7月発行)。彼の修復に関するコンセプトは、強い倫理的メッセージを含んでいます。それは、「文化財を未来へ継承する」というものです。ですから、これが私たちにとっても最終的な目的なのです。私たちは、物理的な作業、つまり戦略的プログラム、修復技術、より効率的なマネージメントを通して、さまざまな方法でさまざまな倫理的な支援をしていくことができるのです。

 この目的は、国際的な提携のなかでこそ達成されると思います。国境は文化財に利益をもたらしたことはありません。国境がなくなれば、それだけ私たちの活動も管理しやすくなります。トータルな品質管理(TQC:total quality control)のコンセプトは近代的なものですが、近代的な修復技術と近代的な保護の考え方は、国際的な視点を導入することで確保していけるのではないでしょうか。

 青柳 文化財があまりにも多く豊かであるイタリアで、すべてのものを守っていくというのはなかなか難しいことじゃないか。そうすると、何らかの優先順位とか、あるいは、どういうものから保存・修復の手当てをしていくかというようなこと、つまり、順序づけが必要になってきます。 その辺の状況をお教えいただきたいんですけれども。

●「リスクマップ作成」と「国家的イベントの利用」

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ステファノ・デカーロ氏

 デカーロ 非常に微妙な問題ですね。もちろん、この分野にも2つの側面が大きな影響を与えています。

 1つは、保存に対する科学的かつ方法論的アプローチの問題で、イタリアでは、私ども中央修復研究所で研究されております。その一つの方法がリスクマップの作成です。軍隊と同じように、それぞれの管轄地域を区分けし、敵とみなすべき要因を特定し、防御体制を編成、人の配置をします。敵は、文化財劣化の原因要素です。人材、財源、使用するツール、技法も考慮しなくてはなりません。

 この戦略は「リスクマップ作成法」と呼び、私どもの中央修復研究所ではすでに確立した方法です。まず地理的な位置を示す地図をつくり、文化財が存在する場所を明示し、その情報を書きます。次にリスク度を分析して記入します。何年経っているか、保存状況、人的要因、来場者がある場所かどうか、地質学的特徴、物理的生物学的要因、観光客の数などを書いていきます。

 その後、プログラムをつくっていきます。何年おきに修復をすればいいのか。一番最近行われた修復は何年前なのか、自然災害の有無など、さまざまな側面をすべて書き残します。また気象的、気候的な条件も明示します。これらをパラメーターにして、修復保存計画を作成します。

 これがイタリアで通常行っている方法です。国レベルで、すべてこのリスクマップをつくって保守をしています。私どもがローマの中央修復研究所でつくった方法を、全国の関係部署、州などに広げています。イタリアは中央集権単独支配国家ではありません。欧州同様、イタリアも今、分権連邦制を目指しています。ですから、観光事業や、観光資源の活用と保護も州に権限を委託しております。教会、記念物、宮殿、都市、歴史地区など膨大な文化資源が州政府の管轄になっています。当然、かれらにも賛同してもらい、リスクマップをつくり保守計画を作成する方法に従ってもらわなければなりません。たくさんの州が私たちのこのメソッドに賛意を表明してくれて、同じことをしてくれています。非常に体系的なメソッドでありシステムだと言えるでしょう。

 そして、もう一つ政治的なアプローチというのがあります。多くの国際イベントがあります。トリノのオリンピックや2000年のローマの大聖年も国家的イベントです。国家が一丸となって行うこういった国際的イベントを利用し、通常のリスク度とは別に、イベント開催都市に国民や世界の関心を集め、美化するわけです。

 文化財リスクとは関係ない政治力を使うアプローチは、一見存在していないように見せかけていますが、いつの世にもありましたし、この中に戦略も政治的広報システムも組み込まれているのです。ローマ帝国の皇帝の時代から、凱旋門やコロシアムをつくることで、国民の煽動や広報活動が行われていましたし、どの国でも行われてきて、今は、現代のコミュニケーション戦略の一部になっています。つまり、権力のマネージメントです。

 この2つの側面をうまく組み合わせ、政治力を科学的なアプローチとミックスして使う、文化財の保護と活用の方法を考えなければいけません。非常に複雑な問題ですし、これをそのまま、海外に移転することはできません。それぞれの場所の固有の状況や特徴を踏まえて実施すべきでしょう。

 ミケーリさんが先ほどおっしゃっていたエジプトのサッカラでも、やはりイタリアの方法が踏襲されて、リスクマップが作成されました。エジプトのピラミッドを、今後、将来的にどのように保守していくか、将来にわたる計画がつくられました。これも、国際協力のあるべき姿ではないでしょうか。

 ともかく、私どもの、リスクマップに基づいて修復計画をつくる方策は、非常に役に立つと自負しています。


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