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朝日新聞シンポジウム「がんに負けない、あきらめないコツ」
鎌田氏、樹木氏の対談(3)

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鎌田實氏

●病気を通じて夫婦の心が通じるように

 鎌田 なるほど。もう1つ最後にお聞きしたいのは、今はむしろ多くの女性が乳房の温存手術を望むのに、主治医の先生から「どうしましょう」と聞かれた時に「全摘でお願いします」って言いましたよね。

 樹木 はい。

 鎌田 それは?

 樹木 変におっぱいが下がってブラブラしているよりは、いいからです。やっぱり年とると下がって下のほうにあるわけですよ。それで、Tシャツなんかを着ると格好悪いんですよ。昔からブラジャーが嫌いなもんですから。締めつけられるのが嫌なんです。だから、まあ、いいなと思って。

 その時、私もバカだなと思ったけど「ついでにこっちもとってもらえませんか」って言いそうになっちゃったんです。でも、言わなくてよかったですよ。片っぽだけでもえらい。

 そして、手術したその日の夜に、携帯からじゃなくて病院にある電話機から「今、目が覚めたから」ってかけられたんだからすごい。

 鎌田 手術の日にね。

 樹木 当日に。

 鎌田 すごいですね。

 樹木 だから、今の医療のそういうハードなところはすごいなと思いました。

 鎌田 なるほど。

 樹木 それと、先生、もう見せる人がいないっていうのも、これもラッキーだったんですよ。(笑)あきらめがついたっていうか。

 鎌田 いや、ここで見せるって言うのかと思って、僕はびっくりしましたよ。(笑)

 樹木 いやいや、ほんとに。

 鎌田 なるほど。でも、ほんとに不思議ですよね。がんが見つかってなかったらプーケットにいたかもしれないんですもんね、12月26日に。

 樹木 いたかもじゃなくて、いました。

 鎌田 いましたね。

 樹木 もう間違いなく予約してあったんだから。

 鎌田 すごいですよね。

 樹木 ええ。

 鎌田 じゃあ、病気をしたことがもしかしたらよかったかもしれないな。

 樹木 というふうに考えないと、後が続かないんですよね。

 鎌田 その間に何か遺書、遺言の書き直しをしたとか。

 樹木 あの人は憎たらしいから、あの人にあれあげようと思ったけど、やめとくわとか。(笑)

 鎌田 毎年書き直している。

 樹木 そりゃ、書き直しますよ。物件だって、物価が上がるといろいろ変動しますから、それは書き直します。

 鎌田 書くということによって、自分が生きていることとか、もしかしたら、死ぬかもしれないなって思う。それは毎年書くことで新鮮な感じはするんですか。

 樹木 うん。この本の中で、地球年齢というのが30億年……。

 鎌田 36億年プラス。

 樹木 36億年。で、私は、その中の63年なんですよね。それで「ああ、そんなに大したことじゃないな」って思ったのと、それから、がんになった時に、要するに、死ぬかもしれないんじゃなくて、死ぬと思ったんですね。

 だから、今私が一番やっとかなきゃなんないことは何かっていうと、夫にわびるということだったんですよ。離婚裁判までやった夫婦ですから、離婚するなんていうのは両方が悪いわけで、私だけが悪いわけじゃないとは思いますけれども、やはりこういうすっとんきょうな人間と出会っちゃった夫も気の毒だなと思って。

 それと、夫にがんだって話をした時の、あの驚き。「ああ、いい人だな」と思った時に「あ、これは、この人との関係は修復しとかなきゃいけない。そうすれば、もう完璧に大丈夫だな、死ねるな」と思った。そこから「私はもう死ぬんだから、いままでのことはすべて自分悪い」と思ってみたんです。それまでは「そうは言ってもねえ」っていうようなのが常にあったんですけれども。

 鎌田 なるほどね。

 樹木 ええ、そのとおりです。「ああ、そうだわね。それは辛かったわね。そちらも辛かったわね」って、すべてそういうふうになってきたら、夫との関係がもうまさしくよくなりましてね。

 もうずっと別居しているんです。ですけれども、人が言うんですよ。「おたくは仮面夫婦じゃなくて、逆仮面夫婦だ」って。仮面夫婦を装っているんだって言われたぐらい、非常に気持ちが通じるようになったんですね。それで、お互いの気持ちが通じるようになった時に、初めて「ああ、これは相手の心を癒やすだけじゃなく、自分が癒やされたな」っていうのを実感したわけです。

 鎌田 なるほどね。それもやっぱり病気を少し通しながら、夫婦関係が変わり出している。

 樹木 ええ、変わりましたね。また、向こうも病気しましたし。とにかく、乳がんになるからには、やっぱりホルモンのバランスがおかしいんだろうと思うんですよ。ですから、夫に「悪いけど、背中かしてくれない」って言いました。

 昔、私の好きな作家夫婦がいまして、中野重治さんという素敵な作家なんですけど、奥さんがつらいことがあって帰ってくると、「あなたっ」て中野さんの大きな背中で泣くのね。いいなあ、ああいうのって。でも、私には、ずっと背中がなかったから。背中かしてっていうような、そんな感じで非常にいい感じになってきましたね。

 だって、まだ結婚して3カ月ぐらいしか住んでないで三十何年別居しているんですけど、もう相対死って、刺し違えて死ぬぐらい憎たらしかったんですよ。だから、今いろんな事件ありますね、夫を殺したとか妻を殺したとか。ああいう事件を見るたびに、私の姿だなって思うような、実は恥ずかしながら夫婦だったんですが、今もう、あの時のことは何だったんだろうと思う。それは病気をして。

 鎌田 なるほどね。

 樹木 そして、先ほど言いましたように、たまたま今回、こういう顔をした人間として生まれてきているなっていう実感だから、これをなるべく浄化して、浄化して浄化して、次に生まれてくるとか、そんな期待は何もないですけれども、浄化して、納得して死にたいなっていうふうに思います。

 ですから、私の本当の気持ちとしては、がんになるというか死を意識する病気になるということは、心の浄化が起こるのだと思います。地球の浄化のために私が選ばれたんだな。だって、そういうふうにならなければ、こんなふうにはものを考えない。

 この本にあるように、松村尚美さんのように、ああいうふうに浄化していくという人がやっぱり増えていく。今、地球上でがんがこれだけ多いということは、そういうお掃除をするための旗手として選ばれたんだなっていうような感じがして、どれだけ自分が無垢になれるのかを楽しみにしている状態です。

 しゃべらない、しゃべらないと言ってしゃべったわね。(笑)

 鎌田 あと2、3分ですね。

 樹木 はい。

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樹木希林氏

●病気との闘いにも「俯瞰」が役立つ

 鎌田 今の36億年の話というのは、地球が生まれて、地球には生物がいなかった時期があった。偶然、太陽との距離がちょうどいい距離、ほどほどの距離があって、水が地球にあって、その水の中から生命、単細胞の生物が生まれた。36億年前に。

 それが徐々に徐々に進化を遂げて、水の中で生きていた生き物が陸に上がるわけですよね。その陸に上がったものから、また何千年も経て人間が生まれてくるわけです。

 僕たちはその36億年の歴史をしょいながら、命をいただいて、そして、たった70年か80年か、うんと生きた人でも百数年ですよね、そういう時代の中でまた地球に戻っていく。そういうことを尚美さんと僕はお手紙でやり合った。そのところを希林さんは言ってくださった。

 最後に、希林さんが書かれているもので「俯瞰」。きっとこの人は生き抜くだろうなと思った幾つかのヒントの最後になるんですけど、「俯瞰」という言葉を書かれている。本当は薬剤師になりたかったらしいんですね。その時、骨折をしてしまって、骨折が治って動けるようになったら、もう4月で試験は終わっていたっていうんで、試験が残っていたのは劇団の試験しかなくて。

 樹木 そうです。それで、受けるところはそこっきりなくて、それで役者になっちゃった。でも、別に薬剤師というものに目覚めてなろうとしたんじゃなくて、父親が「おまえみたいな人間は、夫がいつ死ぬかわからないから、自分で生計を立てられるように。医者は難しいから薬剤師ぐらいなら食えるだろう」って。

 鎌田 演劇を始めた時に、その仕事を始めた時に、俯瞰するというね。

 樹木 そうです。

 鎌田 上のほうから自分を見ている自分を発見して、それで、生き残れるっていうふうに思ったって書いてあるんですね。

 樹木 役者って、陶酔しちゃダメなんですよ。それはものをつくる人間もそうなんだろうと思う。常に客の目というか、第3者の目で自分を見てないと。男を好きになるシーンがあると、本気でその人を好きになっちゃうんじゃなくて、好きになった芝居をすることをちゃんと見ている。

 或いは、喧嘩するシーンを自分で見ていないと、ただワーワー陶酔しているだけで、お客が見てられないということになる。私は、たまたまた美人女優じゃなかったためにほかにテクニックがなかったわけですね。

 そうこうしているうちに、俯瞰でものを見ていると、人が描けていくわけですよね。今はもうボケちゃってせりふも全然あんまり覚えられないですけれども、それでも、こうやって仕事が来るっていうことは、やっぱり俯瞰で見て演じたものが、きっとお客の共感を呼ぶ立場になっていたんだろうなと思います。

 鎌田 これが多分、がんや病気と闘う上で大切なのかもしれません。俯瞰して客観的に上のほうから、病気と闘っている自分をもう1回見たり、あるいは、例えば胃がんがある人は、胃の中を想像しながらがん細胞と闘っているイメージをつくっていくことで、もしかしたら何か不思議な力が出るんじゃないか。希林さんは芸能界というか芝居の世界で、その俯瞰の技術を使って生き抜いたとすれば、病気との闘いもこの俯瞰の技術って役に立つんじゃないかなって僕は思ったね。

 樹木 そうは言っても、へこたれる時もあるんですよ。本当にハアっていうような。それは皆さんもそうだと思います。

 私が1番へこたれたのは、がんよりもむしろ肺炎になって息もできなかったこと。或いは、網膜剥離になって片目が見えなくなった時に「もう片方もなるよ」って言われて「これでずっと生きなきゃなんない」って、あの絶望感が先でした。だから、むしろがんのほうが、死ねるっていうところへ行けちゃったから、楽は楽でしたね。はい。

 鎌田 随分、笑っていただいて。

 樹木 いやいや。

 鎌田 皆さんの免疫力も上がったかなというふうに思います。

 樹木 そんな簡単に上がりませんよね、もうほんとに。軽い、軽い。先生、自分ががんじゃないから。(笑)

 鎌田 負けました。どうもありがとうございました。(拍手)

 司会 鎌田さん、樹木さん、ありがとうございました。どうぞ大きな拍手でお送りくださいませ。(拍手)


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