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徹底討論「ジャーナリズムの復興をめざして」
立花隆氏の基調講演(4)

●新聞ジャーナリズムの問題点

 さっきの「新聞を読まない人の増加」プラス「インターネットパワーによって起きつつある経営問題」というのが、新聞ジャーナリズムの危機として、今一番大きな問題なんです。

 新聞ジャーナリズムの問題点というのをもうちょっと幅広く、深い視点からいうと、まず日本の新聞ジャーナリズムというのは、ものすごく大きな問題を抱えていまして、随分前に、小泉改革の初めのころ盛んに言われたのは、日本の経済構造を抜本的に変えなきゃいけないというものでした。日本の経済構造は基本的に「1940年体制」の上に乗っていたわけです。戦争を遂行するための総力戦体制の中でできたのが日本の経済の一番の特徴であって、そこに日本の経済の不合理な面が集中的に現れているから、そこを変えなきゃならない、それが小泉改革時代の経済改革の基本にあった考えなんですね。

 その「40年体制」の問題というのは、経済構造の問題だけじゃなくて、それ以上に日本のメディアの問題、報道の問題、それにものすごく現れているわけです。

 日本のジャーナリズムの世界で常識だと思われていることが、実は日本独特の性格をたくさん持っているんです。それはどういうところから来ているかというと、新聞が「40年体制」なので、それは「総動員体制」であり「大政翼賛体制」であり、「大本営発表体制」というか、そういう仕掛けがそのまま、今日ただいまのメディアの基本構造の中に埋め込まれているんですね。

 それが与えた最も大きな日本のジャーナリズムのネガティブな性格は何かというと、「上からのタレ流しをそのまま使える、発表ジャーナリズム体制」といいますか、そういうところにあるわけです。

 それをもう一つ具体的に言うと、いわゆる「記者クラブ問題」なんですね。日本のメディアの問題で最大の問題は、この「記者クラブの問題」であるということは、何度もいろんな形で言われていることなんですが、おそらく、一般社会の人には、それが何を意味するのかよくわからないわけですね。それは記者クラブを通じての上からの官製の情報のディストリビューション体制が、あまりにも日本人の常識の中にまで入り込んじゃって、それが普通だと思っているからなんですね。

 ところが、世界のメディア、ジャーナリズム体制の中で、それはものすごく異常な仕掛けなわけです。それで、結局これはみんな共通のことなんですが、上に立つものが情報を管理する、メディア全体を管理しちゃう、それに対応して、下からは上に立つものにゴマをする、それから、下のほうでは、お互いに相互監視・相互管理体制というか、そういうものを記者クラブを通じてお互いにやっちゃう。抜け駆けなし協定なんですね。つまり、基本的に報道機関というものはこうあるべしという西欧社会の常識に属する部分が、実は日本のジャーナリズムの世界では欠けている、そういうことがあるわけです。

 そういう体制の中で、先ほど言いましたように、メディアにとって一番大切なのは、「権力のチェック機構/三権分立では足りない/権力が健全であるためには第4権力が必要」ですね。これが本当に果たされているかどうかという問題があるわけです。

 現実に、権力のチェックがどれだけ本当に日本のメディアにできているかどうか、そして、もともと暴走しやすい性格を持っている権力の暴走をとめる、それを果たしているのかどうかという問題なんですね。

 要するに、あの戦争がなぜあんな形で、あれほどばかげた感じで起きてしまったのかというのは、非常に重要なことは、あるべきメディアのその機能が全く働いていなかった、ということがあるわけです。それは、権力に対するチェックだけじゃなくて、世論なんです。あの戦争の時代に何が起きたのかというと、政府が暴走したという以上に、国全体の一般の世論といいますか、国民の感情がそういうふうに暴走したわけです。あの戦争はみんな国民全体で夢中になってやってたんですよ。ずっと後になって、あれは権力者の一部がやったんだ、軍人の一部が暴走したんだみたいな、そういうことが盛んに言われていますが、現実はそうじゃないんです。現実はそうじゃなくて、日本の国民全体が暴走してたんです。

 そういう暴走に対して、あの時代のメディアは、そういうことを防止する力が全くなかったんです。だから、「戦争時代の反省はあるか」というのは、まさにそのことなのです。

 そして、今まさに「それ的な暴走状態」というのが起きつつあるんじゃないかと、僕は思っているわけですね。

写真

会場風景

●反省すべき問題点

 現実の問題として、この近過去の日本のメディアの世界において、やっぱり一番大きな問題というのは、「小泉報道」と「イラク報道」の問題だと思うわけです。

 小泉報道の問題というのは何かというと、あの一連の小泉の実に見事なメディアを使う能力によって、ほとんどあの時代、あの時代といいますのは、あの戦争の直前の時代の近衛(文麿)が全国民の英雄にあがめられて、日中戦争からあの戦争の時代にどんどん入っていった時代です。あそこは僕は近衛の責任というのは相当あると思うんですが、あの時代の近衛というのは、まさに小泉時代の小泉と同じように、もうこの世の混乱の時代を救ってくれるのはこの指導者だという感じです。

 要するに、彼の影響力のもとに、先ほどの戦前の「総動員、大政翼賛、大本営」は太平洋戦争が始まってからですけれども、その一連の体制というのがばっとできて、本当にメディアが一挙に変わっていくというのはその時代なんですね。

 だから、これほど小泉人気が大きくなったのはおかしい。あれは基本的におかしいんです。健全な言論人であれば、これは危ないということに気がつかなきゃいけないんです。あの時代を経ていればこそです。あの時代の近衛に対する熱狂と同じような感じが、今度の小泉に対してあったわけですね。

 小泉はほとんど意のままにメディアを操ったということが、僕は言えると思うんですね。それに関しては、なぜこれほど見事に小泉が好きなようにできて、しかも、いかにも立派なことをやったかのごとく今でも思われているのはなぜかという問題、それが今、最も大きな「小泉報道の問題」だと思うんですね。

 もう一つの「イラク報道の問題」というのは、今はもうアメリカでははっきりあのイラク戦争に大義はないと、あれは基本的に間違いだというのが、世論調査をやっても圧倒的な多数になってるわけです。ところが、日本で今、イラク戦争にあのようにコミットしたのは間違いであったという人たち、もちろん、いますけれども、それが圧倒的なマジョリティーになってますか。なってないでしょう。あのイラク戦争に対するあの日本のコミットの仕方を、本当に伝えてますか。メディアというのは、ジャーナリズムというのは、まさにその日その場で起きてることを、次々、その現実を伝えていかねばならないはずなのに、現実にイラクに行った自衛隊が何をやったか、ほとんど戦争の時代の従軍記者以上に、やってることがご立派ということしか伝えてないんです。

 現実にイラクに行ったあの連中は、ほとんど意味がないことをやってたんですね。それで、そのことをきちんと伝えてないんです。それはテレビが、実は何度かやっています。どれほど無意味なことをやってるかということを、幾つかの民放テレビが、割と短いコマですが、きちんと伝えています。あの無意味さ、なぜあれほど無意味なことをやったか、それを今に至ってもまだ、ついこの間帰ってきた(2006年7月17日 陸上自衛隊サマワから撤収完了)から、立派なことをやりましたみたいな拍手喝采の、そういう報道しかなされてないわけですね。

 そういう意味で、僕はこれほど日本のジャーナリズムが危ない姿を露呈したことは近代ないと思っているわけです。先ほど言いましたように、まさにあの戦争がなぜあんなふうに起きたのかというその背景をきちんととらえていたら、とても今のように安心していられないと思うわけです。

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会場風景

 これ(「言論死して国ついに亡ぶ」前坂俊之著・社会思想社1991年)は今売られている本ではありません。もう古本でしか手に入りませんが、非常にいい本です。戦争の時代のジャーナリズムがどういうふうに具体的に変質していったかをつぶさに書いています。これは毎日新聞にいた人が書いた本です。これを読んでいくと、本当にびっくりするようなことがたくさん書いてあります。戦争中の朝日新聞がなぜあれほどだめになったかという、そのあたりがものすごく書いてあるわけですね。それはゾルゲ事件で、朝日新聞の中からゾルゲと結託した新聞記者が出たために、朝日新聞は当局から本当にどん底に突き落とされるわけですね。それで、12月8日のあの開戦の日に、実はあの開戦を毎日新聞がスクープしてたというのは知らないでしょう。今の日本人はほとんど知らないわけです。

 あの日の毎日新聞を見ると、「本日ただいま開戦」とは書いてないんですよ。でも、ほとんどそれと同じことが書いてあるんです。12月8日開戦のことを知って、ちゃんと裏取りをして、軍部からもちゃん取って、しかも、どの範囲まで書いていいかというネゴシエーションまでやって、きちんとそれを書くんですね。それで、朝日新聞の人は、その開戦の日の毎日新聞を読んで仰天するんです。あれほど大きな特報というのはないわけです。

 おそらくそういうことを今の朝日新聞の人ですら知らない。あの時代の朝日新聞のあらゆる意味での取材力から、先ほど言いました基本的なメディアというものが持っている源泉の力が、どれほど壊れていたか。その背景にはどういうことがあったか。そういうことに対する知識が、本当に、基本的に欠けていると思うわけですね。

 今まさにそういう時代になりつつあるということを最初の問題提起として、終わりにしたいと思います。(拍手)


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