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国際シンポジウム「ジャーナリズムの力」 ―試練と可能性―
ジル・エイブラムソン氏の基調講演(1)

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ジル・エイブラムソン氏

 エイブラムソン みなさん、こんにちは。ニューヨーク・タイムズ紙とインターナショナル・ヘラルド・トリビューン(以下、IHT)紙の両紙を代表してお話しすることを光栄に思います。また、朝日新聞にお招きいただいたことについても大変誇りに思っています。

 私たちは、朝日新聞が貴重なパートナーであり、多くの意味でニューヨーク・タイムズ紙の早版のようなものだと考えています。というのは、私たちはアジアにおけるIHT(ヘラルド朝日)に掲載される最新ニュースを提供しており、毎日のニュースのサイクルがそこから始まるからです。

 今回の日本訪問と小泉前首相に敬意を表して、ジャーナリズムの「試練と可能性」についての私の話は、当然ながら、エルビス・プレスリーにちなんだ話から始めたいと思います。

 最近、米国の若いジャーナリストのグループがシアトルの「ママズ・メキシカン・キッチン」というレストランのエルビス・ルームに集まりました。全員が30歳以下で、権威あるコロンビア・ジャーナリズム・レビューから「未来の夢の新聞をつくる」という課題を与えられていました。

 新聞は読者をつなぎ止めようと必死になっている一方で、広告と発行部数が減っています。それだけに、率直にいって私は懸念していました。次の世代をいかにしてニュースに引き付けるかという問題の解決策として持ち出してくるのは、もっと短くて、もっと楽しめる記事、しばしば米国テレビの地元ニュースがよくやるようなライフスタイルや消費者向けの安っぽい代物ではないか、という心配でした。

 ところが、彼らの夢のような構想は興味深いもので、ある意味では納得のいくものでした。若い編集者や記者たちが求めたのは、より多くの国際ニュース、より深い調査報道だったのです。もちろん彼らも、米国およびアジアの若者文化の躍動をとらえるような記事が欲しい、といいます。なかには、新聞の内容をインターネットのニュースの大部分と同じように無料にしたい、という声もありました。

 しかし、彼らが強調したのは、世界の諸問題に対してジャーナリズムが真剣に掘り下げるのを縮小するのではなく、それを拡大することでした。彼らは船を揺り動かしかねない構想もいくつかもっていましたが、船を見捨てようとはしませんでした。

 最近では、新聞の死、さらには主流をなすメディアそのものの死さえ予言することがはやっています。エコノミスト誌は最近のカバーストーリーで「だれが新聞を殺したか」というテーマを取り上げていました。皆さんのなかにもご覧になった方がおられるに違いありません。しかし、私はこうした終末を予言する人たちに同調するつもりはありません。その理由をこれから皆さんにお話ししたいと思います。

 私はニューヨーク・タイムズ紙の編集局長という特別の地位にあります。タイムズ紙は、質の高い報道を提供することが使命であると今でも熱烈に信じている報道機関です。タイムズ紙は印刷されたものであれ、ネット版であれ、私たちのトレードマーク、すなわち「ジャーナリズム」そのものによって定義づけられます。われわれは質の高い報道(クオリティー・ジャーナリズム)をIHTとウェブの助けによって国内外の質の高い読者に届けています。このような読者とジャーナリズムの形態には、職業的にも経営的にも大きな可能性があります。

 ニューヨーク・タイムズ紙のクオリティー・ジャーナリズムを特異なものにしているのは、まさにその抱負、われわれが最高を目指して競争しているテーマの範囲の広さであります。タイムズ紙を読もうとする読者は、世界で最も重要な問題について考える指針を与えられることを期待します。

 ある日についていえば、それはイラク戦争であるかもしれません。私たちは昨年、イラクに大勢の記者やカメラマンを送り込み、安全確保のために300万ドル以上、支出しました。あるいは文学愛好者の間で話題になっている新しい重要な小説であるかもしれません。読者はそれについてのニュースが正確に集められることを期待します。編集局には記者、編集者、その他の専門スタッフが約1200人います。特派員からの国際報道が米国の他のどの新聞よりも多いことも特徴です。

 読者は見出し以上のものを期待します。それは、記者が独立した立場から、公正で正確に、説得力をもって書いた思慮深い分析、真相に迫る批判や記事です。彼らは意見も望みます。しかし、それは政治的な論戦の騒々しい声ではなく、知性的で礼儀正しい議論、そしてしかるべき場合には機知に富んだ議論でなければなりません。

 私たちの報道は他のどの新聞よりも多くのピュリツァー賞を受賞しています。昨年も3つ獲得しました。しかし、この種の報道は、ニュース取材の大きな「エンジン」があってはじめて生み出されるものであります。

 事件を目撃する人、情報を探し出す人、背景説明や分析を提供する人、そして上質のグラフィックや写真を添えてそれを品格のある言葉で記事にする人……。そう、このようなクオリティー・ジャーナリズムは非常に金がかかるものです。


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