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国際シンポジウム「ジャーナリズムの力」 ―試練と可能性―
ジル・エイブラムソン氏の基調講演(4)

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ジル・エイブラムソン氏

 しかし、忘れてはならない重要な点は、テロリストが攻撃したがっているのは国民やランドマークにとどまらない、ということです。彼らは民主主義の価値観、おそらくなにものにも増して、私たちの自治、情報に通じた選挙民に対する信念と価値観を破壊したいと考えているのです。

 制限されることのない自由な報道こそ、自治にとって、そして政府の責任を明確にするために必要な情報を伝播する媒体にとって絶対不可欠だと、米国の建国者たちが信じていた手段でした。近ごろ簡単に忘れがちなのは、米国の建国者たちが中央集権をどれほど恐れていたか、という事実です。

 最近における最もたちの悪い動きの一つは、記者と情報源との間の意思疎通を法的に断ち切ろうとする試みであります。ワシントンでは情報リークをめぐる捜査が増えています。さらには一九一七年のスパイ法などというわけの分からない法律によってジャーナリストを起訴しようとしているのです。多くの法律専門家の話では、このスパイ法はもともとジャーナリストへの適用を意図したものではなかったそうです。

 先月のある日のこと、仕事を終えて帰ろうとした時、わが社のビルの外で保守派がデモをやっているのにぶつかりました。彼らはテロ対策に関するわが社の記事の一つに腹を立てていたのでした。「おーい、オサマ・ビンラディンよ、タイムズ紙はお前が好きだといっているぞ」と彼らは叫んでいました。

 そのような極端な決め付けは反論にも値しないと悟ったのですが、一方で、そこにはなにか非常に気にかかるものの核があるとも思いました。それはすなわち、ものを探るジャーナリストはどちらかといえば非愛国的で、われわれの政府の利益に逆らって仕事をしている、という神話です。

 ジャーナリストとして、私たちは自分たちの記事から感情的な距離を保っています。しかし、民主主義を守り、テロリストを敗北させることに関しては、一般市民と同じ利害をもっています。私はジョージ・W・ブッシュが大統領に就任した日にニューヨーク・タイムズ紙のワシントン支局長になりました。私はこれほど試練に満ちた時期に仕事をすることになるとは予想もしておりませんでした。

 2001年9月の澄み切った秋の日から2003年冬のイラク戦争開始までの時期については、特にそうでした。

 ニューヨーク・タイムズ紙のワシントン支局はホワイトハウスから数ブロック離れた所にあります。あのテロ攻撃の後、数日間は支局の外に戦車が来ていました。あの日のワシントン支局の出稿量は他のどの日よりも多かったと思います。あの日の仕事を記念して、私と一緒に働いてくれた記者と編集者全員が出稿記事の一覧表にサインをしました。そのリストはその日のわれわれの仕事の証として今も支局長室の外に掲げられています。

 私は午前3時ごろまで支局にいました。帰宅の途中、国防総省がまだ燃えているのが見えました。家の近くまで来て、ほとんどすべての家が星条旗を掲げていることに気づきました。自宅のドライブウェイに入ると、独立記念日用のばかでかい星条旗が出ていました。夫が出したものでした。私はドライブウェイに車を止めて、そのまま十分ほどすわっていました。その日の出来事に自分自身が感情的に反応できたのはその時が初めてだったのです。私は今はマンハッタンの世界貿易センター跡地から数ブロックの所に住んでおります。

 ダニエル・パールは私の友人で、私がウォールストリート・ジャーナル紙にいた時の同僚でした。ロサンゼルスにいる彼の母親のルースを最近訪ねたのですが、その時に彼女から聞かれたことに対しては満足のいく答えはどこにもありません。彼女は私を見つめて聞きました。「どうしてこんなことが起きたのですか」と。

 そうなのです、ジャーナリストもわれわれの民主主義の価値観を存続させることに個人的な利害をもっているのです。タイムズ紙の記者とカメラマンは今も、イラクやアフガニスタンの前線で生命を危険にさらしています。編集者はみんな不安にとりつかれています。ジャーナリストの拉致、負傷、死亡を告げる電話がかかってくるのではないか、と心配しているのです。

 また時には、とりわけ微妙な国家安全保障絡みのニュースを追っている場合などには、政府がタイムズ紙の編集幹部にその記事を発表しないよう要請することもあります。そのような事態が起きるとほとんど例外なく、一時停止のボタンを押します。このような要請は頻繁に、あるいは軽々しく行われるものではありません。

 私自身もこうした事態に自らかかわったことが何回かあります。タイムズ紙が当該記事の詳細部分を若干差し止めることに同意し、その上で記事そのものは発表した、という場合もありました。また発表を遅らせたこともあります。いずれの場合も、われわれは政府に相手の立場を考慮した丁重な説明を行っています。

 最近では、英国でのテロ計画の詳細に関する記事がIHTと英国内のウェブに流れないようにする必要に迫られました。顧問弁護士の話では、記事は新聞社と取材源の両方が英国公務機密法によって起訴される危険がある、ということでした。しかし、われわれはこの重要な記事を別の場所で発表する方法を見つけ出しました。


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