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東大・朝日シンポジウム「情報革命と人類の未来」
宮原秀夫氏の基調講演(1)
テーマ「情報技術革命の光と影―その発達は人間社会をどう変えるのか」

 武内 シー先生、どうもありがとうございました。

 引き続きまして、宮原秀夫大阪大学総長にご講演をいただきます。宮原先生は、大阪大学で工学博士号を取得された後、大阪大学大学院情報科学研究科長などを歴任され、2003年から大阪大学総長を務めておられます。宮原先生のご専門は、情報ネットワーク、マルチメディア、システム評価です。

 本日は「情報技術革命の光と影―その発達は人間社会をどう変えるのか」と題してご講演いただきます。それでは、宮原先生、よろしくお願いいたします。

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宮原秀夫氏

 宮原 ご紹介いただきました宮原でございます。私がいただきましたタイトルは、「情報技術革命の光と影」、副題としまして「その発達は人間社会をどう変えるのか」ということなのですが、これはなかなか難問であります。そこで、きょうは小宮山総長の話を受けまして、「情報革命は我々の知的活動をほんとうに支援しているのか」という問題に焦点を当てて話をさせていただきます。

 この問題に対して、情報技術に長年携わってきた私としては、当然イエスと言わなければなりませんが、しかし、よく考えてみますと、それはイエスの部分だけではなくて、影の部分も当然あるわけです。きょうはその点について見てみようと思います。特に私の専門から、情報ネットワーク、すなわちインターネットの利用面に焦点を当てて、この問題を論じてみたいと思います。

 ご承知のように、インターネットは急速に普及し、インターネットの利用者は、2005年末でおよそ8,500万人、国民の約70%が何らかの形でインターネットのサービスを享受しているということが言えます。そのサービスとは、一口に言いまして、情報の蓄積、検索、発信という機能ですが、具体的には、グーグルに代表されるような情報検索機能、あるいはワールドワイドウェブ機能、そして携帯メールまで含めてほとんどの人が使っている電子メール機能です。これらのサービスの出現によって、我々の生活パターンがどのように変わってきたか。

 光の部分については、私が改めて言うまでもなく、皆さんが日常肌で感じておられることと思いますので、ここでは言及しません。むしろ影の部分、すなわちインターネットの普及によって、いろいろなことが便利になりはしたが、こんな弊害が起こっている、また、今後起こると懸念されることについて、そして、それらの課題をどのように解決していかなければならないか、ということについての私見を述べたいと思います。

 その前に、情報産業が全産業のなかでどのように寄与していたかを見ることにします。情報産業が全産業に対して占める割合というのは毎年増加しており、実質GDP変化に対する情報産業の寄与率は、2004年で既に40%となっています。したがって、経済成長に与える影響が極めて大きいということが言えます。このように着実に発展してきており、今後、いつでも、どこでも、何とでも通信ができる、いわゆるユビキタス社会に向かって進んでいることは確実です。その段階では、そういうユビキタスの時代には、インターネットはもはや何かをしてくれる道具、いわゆるツールということではなくて、我々を取り巻く環境そのものになっていくと思います。

 そういうことをとらえて、最近、アンビエントネットワークという言葉が使われるようになっています。「アンビエント」というのは、「空間、周り」というような意味だと思います。その発展を具体的に示すデータとして、例えば、国内にありますIX(Internet eXchange:インターネット接続業者間の相互接続点)のトラフィック(ネットワークを流れる情報量)の急増があります。これは、インターネットにおけるアクセス回線、各家庭に引かれているインターネットへアクセスするための回線ですが、昔のモデムから、ADSL、光ファイバーへと高速化しています。いわゆるブロードバンド化によって、一挙に伝送容量が加速して、文字情報のみならず、映像情報までも伝送するようになってきたということが大きいと思います。

 このようにトラフィックは2002年あたりから急速に増加しています。この増加傾向は今後ますます加速することは必至ですが、その増加するトラフィックを処理するには、今のネットワークインフラをもっと強固にしていく必要があります。そのインフラを強固にするためのコストは一体だれが持つのか、という社会的な大きな問題がありますが、それについては、きょうここでは触れないことにします。

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宮原秀夫氏

 このようなネットワークのブロードバンド化、高速化によって可能になったサービスとしては、大きく二つの潮流があると思います。その一つは、アマゾンあるいはグーグルなど、いわゆる個人情報の活用によるユーザーの囲い込みビジネスの展開です。もう一つは、ブログ、あるいはソーシャル・ネットワーキング・サービス、SNSと言いますが、これは仲間同士でメール日記を交換するようなサービス。それから、最近皆さんよくご存じだと思いますが、ウィキペディアなどのような情報共有ツールによる新しい知のコミュニティーの創成があります。

 ウィキペディアとはどういうものかと言いますと、例えば、ウィキペディアで私のページを見てみます。すると、私のことについて書かれたページが現れるわけですが、これは私が書いたものではなくて、私は一切あずかり知らぬものです。でも、見てみますと、結構私の情報が、ある程度正しく取られています。この情報は、だれでもが内容を加筆修正していくことができます。そのようにして、だんだん知が集積していくというメカニズムですが、このようなものがほんとうに知のコミュニティーの創成につながるのかというのは、私は大いに疑問だと思います。例えば、このウィキペディアだけをとってみても、最近強く主張されている個人情報保護などの問題はどうなっているのかという気もします。

 さらに、仲間同士で日記を交換するようなソーシャル・ネットワーキング・サービス。これも、実際に会うことなく、顔も見たことのない仲間同士が日記を交換するということで、私にとっては極めて奇妙なものと思えます。このなかでは、同じ考えを持った、また、互いに共感し合う仲間の集団、つまり、そのなかにいると非常に心地よさを覚えることがあるわけです。したがって、他の世界を知ろうとしない、そういう傾向が増していくような気がします。つまり、こういうことによって、だんだんオタクが生まれてくるのだろうと思います。

 このように、我々の遺憾を問わず、次から次へと新しいインターネットサービスが展開され、我々はいまや膨大な「情報の洪水」にのみ込まれようとしています。このままでは、ただ流されてしまうだけで、知の創成などほど遠いものになってしまうのではないかと思います。

 それを考える前に、洪水と言いましたが、実際、どれぐらいの情報洪水になっているのかを見てみたいと思います。ホライゾン・ドット・コム(horison.com)からのデータですが、1970年は、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国防総省の高等研究計画局)によってインターネットがスタートした時点です。まさにインターネットの原点とも言うべき時点です。その後、2000年あたりまでは緩やかな増加を保っていますが、2000年、あるいはそれを過ぎるころから急激に増加しています。

 これは、光ファイバーネットワークの出現によって、映像まで含むあらゆる情報を高速に伝送することが可能になったことに原因すると思われますが、全世界で電子化されている情報量は、日々刻々、急激な勢いで増加の一途をたどっております。2000年から2003年、わずか3年の間に、我々は32ビリオンギガバイト、320億ギガバイトの情報量を扱うようになった。これが一体どれぐらいの情報量なのかと言われても、私にもはっきりとはわかりません。地球上の人口全部の人が、例えば10ギガバイトメモリー、非常に巨大なメモリーを持ったPCを持って、そのメモリーを全部使ったとしてもまだ余りあるというようなことなんですが、そう言われても、まだ私もわかりません。

 このような状態を危惧して、いわゆる「情報爆発」という言葉が使われるようになりました。今まさに情報爆発時代が到来しており、それにどう立ち向かうかが大きく問われていると言えます。そこで、東京大学生産技術研究所の喜連川優教授を代表として、文部科学省の特定研究で「情報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究」というのがスタートし、私の仲間も共同研究者として参加して、検討を始めています。


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