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ペッチェイ どうもありがとうございます。東京大学と朝日新聞の主催するこのシンポジウムに参加できて大変嬉しく思います。私は「情報社会の将来」について7分半でまとめるという、非常に単純な任務を与えられておりますが、もちろん、それは不可能なことですから、二つの問題についてお話することにします。 情報社会の特徴の一つは、実際のところ情報の遍在(ユビキタス)なのです。二つの例を挙げて、新しい情報技術能力がいかに知識の新領域を切り開いているか、という点について述べたいと思います。その一つは、科学技術の推進役としての高性能コンピューティングの例です。それについては、おそらくあまり知られていない事例をあげたいと思います。第2の事例としては、センサーデータについてお話します。その意味では、郷先生がユビキタスコンピューティングとの関連で話されたことに非常に近いものです。それから市民検知、都市センサーについてお話します。二つの例を挙げて、その上でなんらかの結論を引き出したいと思います。 では最初に、新しい科学技術の推進役としての高性能コンピューティングについてお話します。私が例として挙げるのは心臓の細動に関連するものです。これは簡単に数値で想像できることではありませんが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のアレン・ガーフィンケル(Alan Garfinkel)教授らのグループは、この細動について研究しています。心臓の細動は心臓突然死の主要な原因です。心臓が正常に鼓動せず、突然混乱した動きを始めるのが細動で、心臓突然死を招くこともあります。ガーフィンケル博士らのグループは、非線型力学を使ってスーパーコンピューターで心臓のシミュレーションモデルの研究を試みました。彼らは鍵となる制御パラメーターを特定しました――心臓を表わすパラメーターはたくさんあり、このパラメーターが一定の方法で変化すると、細動を止めることができるかもしれないのです。このパラメーターが浅い傾斜の時は、心臓は正常に鼓動しており、正常なパターンが得られます。もしこのパラメーターが急な傾斜になると、実際にシステム全体が細動し始め、混乱した動きが見られます。 これは非常に興味深い数値結果です。そしてガーフィンケル教授らのグループは、制御パラメーターに願ってもない特性をもつ本物の薬を特定したのです。つまり、急な傾斜を緩やかなものに変えることができれば、実際に細動を止めることができるわけです。彼らはそれができる薬を特定したのです。この薬を動物実験で使いました。実際に細動が見られる豚の心臓にこの薬を使い、パラメーターを平らになるように変えたところ、細動は実際に止まったのです。彼らはこのシミュレーションを心臓全体のモデルに広げています。このことは、極めて特異な設定では、コンピューターの計算によって実際に新薬を発見できる、という一つの例になります。ですから、繰り返しになりますが、先進的ITにできることは無数であり、その可能性は莫大だといえます。 まったく違う別の例として、センサーから集められる情報(センサーデータ)があります。最もユビキタスなセンサーは、みなさんがポケットに入れている携帯電話です。センサーデータが、いまや急成長の分野になっています。実際に、人によって作り出されるデータよりも、このほうが格段に急速な成長をとげています。IBMのロバート・モリス(Robert Morris)がうまくまとめたデータと予測によると、電話であれ、他の種類のセンサーであれ、センサーから集められた機械発生データは、データベースや同種の他のものから生み出されるデータよりも、はるかに急速に増大しています。 この種のデータでなにができるでしょうか。郷先生が話されたものと若干違いますが、一つ例を挙げます。私がお話ししたいのは都市センサーのことです。これも同じくUCLAの若手研究者2人がやった仕事です。1人は統計が専門のマーク・ハンセン(Mark Hansen)、もう1人は映画をやっているジェフ・バーク(Jeff Burke)です。UCLAの大センターの一つ、全米科学財団(National Science Foundation)の援助を受けている埋め込み式ネットワークセンサー・センター(CENS:Center for Embedded Networked Sensors)で、この2人は、個々の携帯電話を常時作動させて、ネットワークに接続しているセンサーとして利用する研究を行いました。彼らのセンサーというのは普通の携帯電話で、その非公式のデータ収集方法は「市民検知(citizen sensing)」と呼んでもいいようなものです。この実験に参加したのがボランティアばかりだったからです。
ここでは二つの例を簡単に紹介したいと思います。一つは音声、もう一つは光を使ったものです。音声利用の場合は、ボランティアに携帯電話を渡して――実際には彼らはみんな携帯電話をもっていますが――後は好きなようにしてもらうのです。バスに乗って携帯電話をオンにしたままで周囲の音声を録音してもよいし、あるいは町のなかを散歩してその辺の音声を録音してもよいのです。そうすれば近隣地域の音声の分布が分かるわけです。 そして今度は、いくつかのモデルとそれを比較してみるのです。例えばロンドンの騒音地図。建物、地上を蔽うもの、交通などの騒音水準から割り出して作ったものですが、このモデルをほぼ同じルートを動いていたボランティアたちから得たモデルと比べてみます。もう一つ重要なことは、こうした騒音測定を繰り返さなければ、騒音水準とはなにかを本当に理解することはできない、ということです。これが市民検知の一例です。 もう一つの例もまたUCLAのグループがやったことです。彼らは今度は携帯電話をカメラとして使いました。写真を撮って、その写真や映像から統計を作るのです。これは基本的にはカメラ電話です。これでロサンゼルス地区の光の汚染が分かると思います。ビバリーヒルズ周辺の一部地域などには、ハリウッドの関係で光汚染のひどいところがあります。そのような地図を作ることもできるわけです。どこででも可能で、しかも非常に簡単なこの種の検知方法は、だれもが参加できるもので、ITによってできることの二つ目の例です。 この二つの小さな例からどのような結論が引き出せるでしょうか。なによりもまず二つのことが重要だと思います。情報社会の将来には双子の特徴があります。これをパネルディスカッションで取り上げることを期待します。その一つはすでに多くの参加者が触れられたことで、データの爆発とスピード、そしてコンピューターの小型化です。デジタルの現実とは、すべてのものが指数関数的に進むということです。1956年にはメガバイトだといっていました。これはちょっとした小説ほどの容量です。現在はペタバイトの情報が話題になっています。これは間もなく多くの科学機器によって生み出されるはずの情報量です。 ハンス・モラベック(Hans Moravec:カーネギーメロン大学ロボット研究所の主席研究者)がジャーナル・オブ・エボリューション・アンド・テクノロジー(Journal of Evolution and Technology1998)に寄せた論文につけた素晴らしいグラフ(All Thinks,Great and Small)があります。各種装置(本、CD、車などの人工物から、クモ、サル、人などの動物まで)について、MIPS(100万命令/秒)単位の演算能力とメガバイト単位の記憶容量を示したものです。 例えば(グラフでは)、議会図書館はわれわれの保有する最大量の情報に当たります。人間がコンピューターより上にあることに、みなさんびっくりされるかもしれません。しかし、これは人間がコンピューター的に極めて得意とする視覚的な作業に限って見ているからです。視覚に関しては、人間コンピューターは驚くほど強力なのです。重要なのは、一般のコンピューターが現在、極めて急速に発展していることです。これは1998年のグラフです。いまではトップにいる象のところまで上がっているものもあります。しかし、それらは人間のように特化されてはいません。実のところ一般的なコンピューターなのです。情報の量とスピードはまったく新しい展望を開こうとしています。 最後になりますが、インテリジェントデバイスの激増によって新しい展望が開ければ、その裏側の影の部分もひとそろい出てくるでしょう。ですからグーグル、ブログ、インスタントメッセージ(IM)ばかりでなく、スパムメール(広告・勧誘などの迷惑メール)、フィッシング詐欺、その他あらゆる反社会的行為も見られるでしょう。私はプラス面を述べましたが、マイナス面を指摘して終わりにしたいと思います。討論で話題になるのは、おそらくそっちだと思われるからです。ありがとうございました(拍手)。
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