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朝日新聞科学部創設50周年記念シンポジウム 「科学技術と国家」
黒川清氏(内閣特別顧問)の冒頭発言
黒川清氏 |
- 尾関
- 朝日新聞の論説で科学を担当しております尾関と申します。
- もう皆さん、立花さんの名講演を堪能されたと思います。ことしノーベル平和賞をとることになったアル・ゴアは、環境の語り部と言われ、グラフなどを使って地球環境保護を語りましたが、立花さんは科学の語り部であると思います。
- 立花さんの問題提起のポイント、1つだけ要約しますと、最近は「官から民へ」とか、「民間主体の」という言葉が社会のあらゆるところで言われる中で、科学では国の役割が結構大きいんだよということを提起された。国とか国家という言葉に、もし抵抗がある方がいらっしゃれば、それは公とかパブリックという言葉に置きかえてもいいと思いますが、そういう問題提起をされた。このへんがきょうの議論の1つの幹となっていくだろうと考えております。
- それでは、これからパネリストの方、お1人10分ずつ、それぞれのお立場から、お話をしていただきます。
- それでは、まず黒川さん、お願いいたします。
- 黒川
- 今の話を聞いてみると、確かにお金が少ないとか、いろんなこともあると思います。例えば、会社という概念だと割合にわかりやすいので、国と会社という話を、総合科学技術会議で小泉総理のときもしたことがあるんです。会社が、いろんな理由があって調子が悪くなるときはあります。そのときに、どこから切っていきますか。
- 今までの20世紀の産業構造、経済を引っ張っていた形は、大きな会社が、ベル研などがそうですが、基礎研究から開発をやり、資金調達をして市場まで行くというリニアモデル、トヨタもそうですが、そういう産業が今までの国力の元になっていたんです。<
- これが変わり始めたのは、1970年代の初めです。74年に石油の値段が上がりました。今まで安い石油でエネルギーを使っていたというパラダイムの終わりが始まった。71年にインテルという会社ができた。それからムーアの法則で、コンピューターのチップがより速く、より安く、よりよくなるという時代に入ったんです。
- 地球は丸いと思っているでしょう。情報革命によって、今、世界中が平ら「フラット」になって、裏側にいる人も、すぐ横にいるように見えるようになってきたんです。これは、インターネットとか、ライブのテレビとか、衛星中継ですね。
- 今、日本ではメジャーリーグの視聴率が高くて、なぜ日本のプロ野球がだめなのかわかります?つまり、いろんな価値の選択肢が多くの人に提示されるようになった。チョイスはあなたたちですよ、という時代になった。このような情報が非常に広がる新しい経済成長は産業革命以来のことです。人の価値観が変わってきた。人がどんどん動けるようになってきた。
- このような世の中になって、今までの産業のあり方と価値のつくり方が全然変わった。例えば、コンピューターは1980年まではどんどん大きくなると思っていたのが、どんどん小さくなる。日本の得意技はラップトップをつくり、軽く、持ち歩きができるという分野。
- コンピューターがつながってから何が起こりました? つなげるようにしたバーナード・リーは、セルンという素粒子物理のセンターがジュネーブにありますが、仲間と交流できないのは不便だというので、彼はHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)というのをつくりました。何人かでお互いに何をやっているかがわかるようになってきたのが、あっという間に広がって、WWW(world wide web)ができました。これが1992年です。日本は一生懸命コンピューターをつくっていました。
- 今、皆さんが知っているアマゾン、ヤフー、ネットスケープ、みんな94年に創業しています。びっくりしたのはビル・ゲイツで、すぐに追っかけて「Windows 95」を出しました。
- その後に、グーグルは97年にできましたが、初めてのファンドをもらったのは98年です。もう10兆円以上の企業になりましたね。グーグルは、お客さんにはお金を払わせない、カスタマーに向くというビジネス、つまり、世界が平らになって、いろんなところが見えていて、お金や人が動けるときに、うちは何をしたいのかということを考えていたんですね。そういう発想が今までの日本にはあるだろうかということを考えてください。つまり、とんでもない枠の外で考えるような人たちです。
- この思考の過程はどこにあるかということを考えてみると、さっき言った企業がだめになったときに、営業をだめにするのか、どこをカットするのかというのは、国と同じ問題です。で、私はそのとき言いました。この科学技術基本計画で国が研究に投資するのは維持すべしと。なぜかと言えば、企業と同じで、研究開発投資は将来への投資だからだ。だから、ここはずっと我慢をしても投資しようと。
- ただし、それには条件があります。会社が悪くなったのは、いろんな理由があるはずです。研究開発は将来への投資です。それを維持するためには、研究と開発の人材システムのラディカルなてこを入れなければなりません。年齢とは関係なくトップに一番有能な人を持ってくる。なぜ日本人じゃなくてはいけないのですか。
- 研究開発にどれだけラディカルな改革をしましたか。ラディカルな変化は何も起こりませんでした。20年前から大学院の国際化、留学生をたくさん呼ぼうと言ったけど、実際、変わりましたか。20年前から同じことを言って、デジャ・ヴュだと私は言いましたよ、文部省でも。そんなことは聞き飽きたと。
- さて、世界の大学では一体何が動いているでしょうか。大学は将来の人材の一つの登竜門です。世界の大学では何をしているでしょうか。アメリカが強いのは、世界中のやる気のある優秀な人を、自分の大学に呼んでこようと。それは大学院ではありません。将来は政治家になり、ビジネスになり、研究者になり、いろんな人がいるわけですから、学部に優秀な人をたくさんとろうと。
- となれば、例えば、ハーバードもスタンフォードも、学部に入ったときに、工学部とか文学部があると思いますか? ケンブリッジにそんなものがあると思います? ありませんね。ハーバード大学は1600人入るだけの話です。2年ぐらいしたら、自分がどういうところに行こうかなというのを、学生がそれぞれ決めればいいんです。なぜ入ったときから法学部とか工学部とか縦になっているんですか。
- 常にプロダクト、つまり、どういう人をつくってきたのかという大学の評価が、大学院でまざることによって、それがアメリカ中に広がり、大学院を終わったらポスドク(博士号をもつ研究員)になるのもよそに行きます。それでまた、「ここの大学院のあの先生はすばらしい人を育ててくるんだな」という評判がみんなで共有されます。
- それがアメリカの強さのもとで、一人ひとりの個人のバリュー、個人の可能性をどれだけ伸ばすかが、大学と先生の社会的価値であり、大学院の責任です。ポスドクが終わったら自分のところでは助教授にはしません。必ずよそから引っ張られる、人を育てるのが大学のバリューだということが、社会も認識しているからこそ、大学のランキングも透明性があって、いろんな尺度でできる。日本は基本的に18歳で入試で入ったところで大学の価値が決まっていませんでしたか、今までは?
- だから、お金を増やすのは結構だけど、大学の大相撲化というキーワードを出しました。つまり、大相撲は今760人ぐらいの力士がいますが、全部で8%が外国人です。しかし、幕内に来ると30%です。三役は40%です。横綱は100%です。何で大学にそれができないのか?
- みんな気に入りませんか、横綱が外国人であることは。あの人たちは、日本の文化を体感して、多くは日本という国が好きになりますよ。出身国ではテレビのライブで大相撲を放送する。なぜ大学にそれができないの。これが、国が研究に投資をするのであれば、そういうところで他流試合で一人ひとりの才能をできるだけ伸ばすということをしない限り、それはお金のむだだというのが私の主張です。
- 尾関
- ありがとうございました。
- ちなみに、黒川先生は、もちろん皆さんご存じの方はご存じですが、東大の第一内科にいらっしゃったお医者様なんですね。そのお医者様がPCのお話、ITのお話を、延々70年代から90年代にかけてのお話をされて、それで縦割りの問題を提起されたというところが非常に印象的かと思います。
- 次は、三菱重工の柘植さん、お願いいたします。
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