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国際シンポジウム 「貧困削減を越えて―低所得国のための開発戦略」
―ODAは有効だったか―

経済のグローバル化が進む中、今も深刻な世界の貧困問題にどう向き合うべきか。朝日新聞社は11月29日、日本貿易振興機構(ジェトロ)、世界銀行と共催で、国際シンポジウム「貧困削減を越えて――低所得国のための開発戦略」を開いた。開発経済に詳しいウィリアム・イースタリー米ニューヨーク大教授とシャヒド・ユスフ世界銀行エコノミストの基調講演の後、国内外の研究者がアフリカやアジアの事例を発表。先進国政府による途上国援助(ODA)の有効性を巡る議論は白熱した。

問題提起

写真白石隆氏
白石隆氏(ジェトロ・アジア経済研究所長)
00年の国連ミレニアム・サミットで、貧困撲滅の8項目の目標を決めた。「最貧人口比率を15年までに半減する」などだ。05年の中間評価は中国やインドの経済発展に支えられ、世界全体では進展がみられた。
だが、サハラ以南のアフリカ諸国では4割以上が貧困生活のままで達成が危ぶまれている。目標までほぼ中間の現時点において、これまでのアプローチが正しかったのか、効果的な支援は何か、率直に議論したい。
◇ミレニアム開発目標◇
00年の国連ミレニアム・サミットでとりまとめられた。(1)極度の貧困と飢餓の撲滅(2)普遍的初等教育の達成(3)ジェンダーの平等の推進(4)乳幼児死亡率の削減(5)妊産婦の健康の改善(6)疾病の蔓延(まんえん)防止(7)持続可能な環境の確保(8)開発のためのグローバル・パートナーシップの推進――の8分野について、「1日1ドル未満で生活する人びとの割合を90年比で半減させる」をはじめとした18の具体的な目標を設定。15年を達成期限としている。

基調講演

写真ウィリアム・イースタリー氏

■自由市場の活性化こそ重要

ウィリアム・イースタリー氏(ニューヨーク大学教授)
先進国が資金援助を続ければ世界から貧困を根絶できると思いがちだが、現状で成功した証しはない。国連も、資金援助によるミレニアム開発目標をめざしているが、達成できていない。しかも、自由市場のようにだれひとりとして責任をとることもない。
失敗しても安心できる施策のほうが、不安を伴う成功よりも優先されるからか、「援助が必要だ」という主張はいまだに続く。だが、21世紀に貧困から抜け出すには、自由市場を活性化させることが重要だ。
むろん、自由市場は予測ができず、不公平で格差が生まれ、時間もかかる弱点はあるが、短期の成果を求めてはいけない。長期かつ安定的に所得を向上させられるのか、変化をみるべきだ。
自由市場は結果に対する説明責任を求められ、その他のどんな手法よりも勝っている。資金援助が役に立たないとは言わないが、それだけで経済発展は望めない。
写真シャヒド・ユスフ氏

■失敗に学び先進国は協調を

シャヒド・ユスフ氏(世界銀行エコノミスト)
貧困削減に自由市場が重要なのはもちろんだが、国による援助はまだ役割を終えておらず、双方のバランスをうまくとった道を模索するべきだ。「ODAが失敗し続けた」とされるサハラ以南のアフリカでも貧困率は90年の47%から04年の41%に下がっており、一定の成果は示している。
貧困国が発展していく上で、これまでよりも困難な問題が立ちふさがっている。水不足に加えてエネルギー価格が高騰し、さらに気候変動がこの双方の問題を深刻化させる。エネルギー問題一つとっても、先進国側からの省エネや新エネルギー利用の技術移転が不可欠だ。情報通信技術や効率の良い都市造りでも、先進国側が伝えられることは大きい。これまでの援助では送り手側がばらばらに行動する問題があった。過去の失敗に学んで先進各国は協調してより分野を絞って投資し、受け手側もより有効な使い方を考えていく必要がある。

事例発表

写真山形辰史氏

■衣服産業育成の努力が実った バングラデシュ・カンボジア

山形辰史氏(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター・研究グループ長)
バングラデシュとカンボジアでは、女性を中心とした労働集約型の衣服産業が、経済成長と貧困削減に役割を果たしている。バングラデシュでは安定して年5%程度、カンボジアでは近年になって年10%を超える急成長を示している。
こうした衣服産業では初等教育を受けただけの女性労働者も数多く雇用され、貧困ラインを上回る賃金を得ている。衣類は両国の輸出総額の4分の3を占め、05年に世界の衣類・繊維貿易が自由化されてからも競争力を保っている。
両国での衣服産業育成のような長期間にわたる努力は、ミレニアム開発目標の成果主義的な目標では過小評価されがちだ。達成のために短期間で成果の上がるプロジェクトが優先されてしまうためで、目標導入の際には注意が必要だ。
写真シミーン・マハムド氏

■数値目標優先で弱者置き去り バングラデシュ

シミーン・マハムド氏(バングラデシュ開発研究所・研究部長)
バングラデシュでは60年代の人口抑制策、90年代のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、00年代のミレニアム開発目標と、言葉を変えて貧困を削減するための試みが続いてきたが、すべて成功したとは言い難い。約20年続いている民主主義体制も、貧困削減には大きな助けとなっていないようだ。
援助の送り手である先進国側が掲げる目標は、地域の実情に合わず、草の根の知恵を無視して押しつけられることがしばしばだ。数値的な目標の達成を優先させることは、最も貧しい人たちや人権を抑圧されている女性、社会的弱者らを、さらに置き去りにしてしまう危険もはらんでいる。
今や、所得によって定義される貧困ラインだけではなく、権利によって定義される貧困ラインも考える時ではないか。
写真平野克己氏

■農業の質高める自助の支援を アフリカ(サハラ以南)

平野克己氏(ジェトロ・アジア経済研究所 地域研究センター・専任調査役)
サハラ以南のアフリカは03年以降、急成長を始めたが、それに至る約20年間、国内総生産(GDP)はほぼ横ばいだった。人口は増えていたので、1人当たりのGDPは下がり続けていた。この間には空前絶後のODA額も投入されており、使い方が間違っていたと言わざるを得ない。
現在の高成長をもたらしているのは資源分野への活発な投資だ。一方で、物価が高いため賃金は高く、アジアの成功例のように製造業の発展による完全雇用は達成されていない。
物価の高さは、生産性の低い農業による農産品価格の高さがもたらしている。資源頼みから脱却するには、農業の質を高めなければならない。ODAはこうした自助努力をたすけるため、民間企業のノウハウや企業の社会貢献活動と連携する形で刷新されるべきだ。

パネル討論

写真加藤宏氏

■当事者意識必要/国情に合う対応を/官民連携図れ

パネルディスカッションには基調講演や発表を担った研究者らが参加した。冒頭、国際協力機構(JICA)の加藤宏・国際協力総合研修所長が日本政府のODAについて、「これまでは相手国政府への支援の効果が、自動的に一般の人々に行き渡るという『思い込み』があった」と切り出した。
加藤氏は、「人間の安全保障」の理念を掲げた緒方貞子氏が4年前にJICA理事長に就任して以来、「人々を中心とした新しい取り組みを導入した」と説明。住民が自ら学校の運営や管理を担うニジェールでの援助案件に触れ、「人々を参加させることで当事者としての意識が高まり、『自分たちがやっているんだ、支えよう』という意識が芽生える」と新たな手法の意義を強調した。
これを受けて、議論は貧困削減に向けたODAの効果や役割に集中した。まず、ウィリアム・イースタリー教授が「グローバリゼーションを通じた世界貿易の広がりでこの25年間、貧困は随分削減された。しかし、ODAがどれくらい影響を及ぼしたかは大きな疑問だ」と効果に懐疑的な見方を示した。これに対して、シャヒド・ユスフ氏は「いろいろな提案に耳を傾け、援助はよりオープンで参加型となり、利害関係者の関与も求めてきた。ODAに新しい方法が必要なのは分かるが、手を引くべきではない」と反論。山形辰史氏も「市場は意図的に貧しい人たちを助けることはしない。政府も民間もNGO(非政府組織)も一般市民も、意図的な努力ができる」と援助の必要性を指摘した。
シミーン・マハムド氏は「途上国の市民として話したい」と前置きし、「市場の役割とODAは両方必要なのが現実で、最大限活用すべきだ」と訴えた。ただ、市場については「発展の仕方が欧米や日本と、バングラデシュでは違う。同じやり方ではだめだ」として、国情に合わせたきめ細かな対応を注文。貧しい人が無担保で少額の事業資金を借りられる同国の「マイクロクレジット」の取り組みを紹介し、「活用すれば貧しい人によりよいサービスを開発できる」と述べた。
一方、平野克己氏は「顔が見える個別企業がアフリカ経済の主役。日本は政府がどうして民間を支援しないのか不思議でならない」と述べ、援助における官民連携の必要性を指摘。「ODAには出資機能を期待したい。公的機関がリスクをとる姿勢を示すべきだ」と提案した。

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