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上智大学・朝日新聞社共催シンポジウム 「世界遺産と生きる―日本が果たすべき役割」

稲葉信子氏の冒頭発言 「棚田や街は変化を前提に」

写真稲葉信子氏
隈元
今紹介いただきました朝日新聞の隈元といいます。ここからのまとめ役を私が務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
普通のシンポジウムですと、基調講演を、お二人、今、そこの演壇でお話になりましたけれども、討論に入りますと、ここに何人か並んでディスカッションするというスタイルが普通なんですけれども、きょうは討論の冒頭の発言をパワーポイントを使って、今の石澤さんのように、写真とか画像を見ながらお話をなさりたいという方がいらっしゃいます。ここに座席を並べちゃうとスクリーンが見えなくなっちゃうので、冒頭の発言はこのままのスタイルで4人の方にお話をいただいて、それから、休憩を挟んで討論に入ろうかというふうな段取りで考えておりますので、よろしくお願いいたします。
まず最初の冒頭発言を稲葉信子さんにお願いします。それぞれの略歴はお配りした資料を見ていただくことにしまして、あまり詳しくご紹介はいたしません。稲葉さんは、今は東京文化財研究所の国際企画情報研究室長をお務めですが、世界遺産に関するさまざまな国際会議などにお出になったり、交渉に当たられたりという経験がとても豊富で、世界遺産の全体像を聞くには今日本では一番いい方ではないかということで来ていただきました。
それでは、稲葉さん、お願いいたします。
稲葉
稲葉信子でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
パワーポイントを自分で操作いたしますので、コンピューターの横に立ってお話しをさせていただきます。
私は日本が世界遺産条約を批准した1992年から、いろんな立場で世界遺産条約にかかわってまいりました。ここ十数年、世界遺産条約というものと真っすぐ向き合って仕事をしてまいりました。
先ほど青木長官のほうから、世界遺産について最近はこんな動きが出ているという話が出ましたけれども、世界遺産が好きという人と嫌いという人とさまざまです。どうしてこんなに人気があるんだろうと疑問に思う人もいます。その中で、ずっと世界遺産って何だろうかということを考えてきました。最初に、私のほうで、少し世界遺産のことを考えるに当たって少し条約にかかわる全体的なお話をさせていただこうと思います。
世界遺産とは何だろうって考えるときに、まず一番最初に皆さんに考えていただきたいものがあります。それは一つの数字です。851。今、851の世界遺産があります。この851の世界遺産の数に、一体どういう意味があるのでしょうか。この数が多過ぎると思われるのか、あるいは、少ないと思われるのか、そこから考えていこうと思います。
実は世界遺産委員会も世界遺産リストをつくるようになってから、わりと早い時期に、こうやって数が増えていくということをどう考えたらいいんだろうかということを考え始めるようになったんです。それが1980年代の半ばぐらいからだと思います。
まず初めにこの851の世界遺産について少しさらっとながめてみたいと思います。ユネスコはパリに本部がありますけれども、世界を5つの地域に分けて考えていますので、その5つの地域ごとに少し考えてみましょう。
5つの地域のまず最初ですが、これはどこかというと、多分これはヨーロッパだと思います。こうやって、今これ、文化遺産も自然遺産もアトランダムに並べています。全部あるわけじゃなくて、数は限られていて、この画面上に並ぶだけですけれども、文化遺産も自然遺産も適当にアトランダムに出しています。やはりヨーロッパですから、文化が多くて自然が少ないということにすぐ気がつきます。世界遺産委員会でもそういうことを考える、一つ一つ分析をしてみようかということをやったわけですね。
それで、打って変わって、これはアフリカです。自然が多い、文化が少ないんですが、じゃあ、アフリカには文化がないかというと、そういうわけではなかろうと。
これは中近東からアラブ地域ですね。
これは南米の遺産を集めてみたものです。南米ですから、アマゾンもありますから、雄大な自然もありますけれども、それから、マチュピチュ、インカ、マヤの遺跡もあります。それから、もちろん、その後でスペインとポルトガルが入ってきますから、たくさんのスパニッシュやポルトガル風の町がありますけれども。ここで世界遺産委員会も考えたのは、確かにそうだ、南米の歴史は確かにそうかもしれないが、しかしここで例えばスペイン人やポルトガル人が来る前の先住民族の文化が、今も生きているそうした文化が、今ここにどうやって表現されているのだろうかということを考え始めたわけでございます。
これはアジアですから、アジアの特徴って文化の多様性だと思いますけれども、非常に豊かな、仏教からヒンドゥー教、イスラム教に至るからいろんな文化がありますと同時に、オーストラリア、ニュージーランドも入っていますから豊かな自然も含まれています。
こうやってさらっとながめてみたところで、じゃあ、851の世界遺産が意味するものって一体何なんでしょうか。世界遺産委員会が考え始めた、あるいは、我々が考え、専門家が考えたことは何であるのか、いくつかのキーワードでお話を進めていきたいと思います。
キーワードの最初は「文化と自然の多様性」、そしてもう一つは、「人間と自然との共生」です。そしてこれらのキーワードのさらに背後にあるのが「地球の持続可能性」、世界遺産が何かに貢献できるとしたら、それは多分地球の持続可能性というものに対してどうやって貢献していけるかということになるのだと思っています。
1972年にストックホルムで人間環境会議がありました。それから、1992年にリオの地球サミットがありました。1972年というのはちょうど世界遺産条約が批准された年です。そして1992年にも世界遺産にとってもう一つ大きな動きがありました。1992年、ちょうどリオの地球サミットが開かれた年に、世界遺産委員会は文化的景観という新しい概念の世界遺産を始めています。それが一つの大きな動きになってきています。この20年間の国際社会の動きが、世界遺産条約の中にも入ってきたわけでございます。
じゃあ、その文化的景観というものはどういうものか。その文化的景観というものが世界遺産の中に取り入れられたことで、文化と自然の統合ということを、例えば私は文化遺産の専門家ですけど、初めて自然遺産の専門家と考えることができるようになりました。
この遺産概念の統合は、文化と自然だけではなくて、有形の文化と無形の文化の統合ということにも関係してきます。文化と自然、有形と無形の文化の統合、そうしたことを通して、私たちは今自分たちの文化と向かい合って、あるいは、文化というのは自然に囲まれているわけですから、自然とどのように共生していくのかということを総合的に考える何らかのきっかけを、ユネスコのいくつかの条約、例えば世界遺産条約、あるいは無形文化遺産条約は、提供しているのだろうと思っています。
ここで2つの言葉をご紹介しようと思います。いずれも文化遺産の概念です。世界遺産条約でいう文化的景観と、世界無形遺産条約でいう文化的空間です。文化的景観、そういうものが例えば、文化と自然を統合するある遺産概念の形だとすると、もう一つ、無形遺産条約の定義で使われている文化的空間は、これはある空間、英語でスペース、そういうものの中で、今度は人間の文化を総合的に、有形も無形も、動産も不動産もあわせて考える場を提供する遺産の概念ということになるわけです。
1995年にフィリピンの棚田が世界遺産になりました。アジアからの文化的景観として、一つの大きなメルクマールになったと思います。
文化のあるところに、例えば不動産の文化があるところには、必ず動産の文化もあります。また無形の文化もあります。世界遺産条約と世界無形遺産条約が重なるところは重なっています。これはモロッコにありますマラケシュという町のジャマエルフナの広場ですが、背後にある町が世界遺産になっていると同時に、この広場で繰り返されるいろんな人間の営みがユネスコの無形文化遺産のリストにも入っております。
同様に、これは先ほどお見せしたフィリピンの棚田ですけれども、棚田というのは稲を育てるということですから、それに伴うたくさんの農耕儀礼があるわけですが、それがやはり無形文化遺産としてもリストされているということです。
もう一度戻って、世界遺産リストに登録された851の遺産の意味について考えてみようと思います。851の数、これが適正か適正でないかということを考えるときに、私はいつももう一つの数を考えます。今、世界で国の数が幾つかあるのか。190以上あると思うんですけれども、しかし重要なのは国の数じゃないですよね、別に国家というもの自体は関係ないわけですから。私がいつも比較に考えるのは世界の人口です。世界の人口は66億人、この66億人の文化、それが851という数に表現されているのだと考えています。
これは、後で前田先生の話に出てくると思いますが、バーミヤンからさらに北のほうに行ったところですが、この羊の番をしている子にとっても世界遺産であるし、こうやって草原を歩いている親子にとっての世界遺産でもあるということだろうということです。
今までは851の世界遺産を写真で見てきましたけれども、じゃあ、今度は言葉で見てみようということで、アジアの世界遺産、これを全部、言葉で書いてみたんですね。ここから何が読めるかなと思って考えてみたわけなんです。アジアの文化と自然の歴史がここに表現されている。これに新しく加わっていくものがアジアからあるとしたら、ここに新しい意味を加えていくようなもの、これをさらに豊かなものにしていくものであってほしいと思っています。
こういった遺産から私たちが何を読み取って、それが地球の持続可能性へ向かってどう貢献できるのかということを考えていかなければならないと思っています。
以上です。どうもありがとうございました。

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