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朝日新聞シンポジウム「人民元改革の行方と日本・アジア」 |
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山田 それでは、この「人民元シンポジウム」の第2部として、みんなでディスカッションしたいと思います。
余さんから、中国政府が今の経済状況や人民元改革についてどう考えているか、という話をうかがいました。これに基づいて、各界でご活躍の皆さんに、まずご自分の意見、あるいは、中国についてこんなふうに思っている、人民元の為替レートについてこんなふうに思っている、という話をしていただきます。その後、問題点をディスカッションしたいと思います。
渡辺さんは財務省の財務官で、中国にはことのほか関心が深いと聞いております。渡辺さん。余さんとは長年のお付き合いだと聞いていますけれども、スピーチを聞いてどんな感想を持ったのか、そして、今の中国の問題点をどうとらえているのか、簡潔にお願いいたします。
渡辺 ありがとうございます。余教授とは、いろんな場でお話をするわけですけれども、彼は非常に紳士です。通訳の方のために言いますと、二つの意味があります。ジェントルマンであると同時に、シンシア(誠実)であるという意味でして、非常にフランクに意見を言っていただける方であります。
先ほどのお話も非常に面白く聞かせていただきました。
私には今日、アドバンテージが一つ、ディスアドバンテージが一つあります。まず、ディスアドバンテージは、彼は「個人的意見」としておっしゃいましたけれども、私がここで何をしゃべっても、皆さんには、個人的意見だとは思ってもらえません(笑い)。
アドバンテージは、いつも彼とは英語で議論をしていますが、今日は母国語の日本語でしゃべれるというのが非常に楽だと思っています(笑い)。
為替のお話がありました。人民元の制度については、詳細に触れられておりましたように、7月21日に実質的なドルに対するペッグ制度を改めて、通貨バスケットを参考とする「マネージド・フロート(管理された変動相場)」の世界に入ったわけです。
ただ、その後の動きを見ると、非常に慎重な動きになっています。7月21日に発表された時に「翌日以降、プラスマイナス0.3%のバンドで動く」されたわけです。今日で三カ月ちょっとたちますが、今なお、7月22日のレートからプラスマイナス0.3%の上限にも下限にも達していません。非常に慎重なコントロールをされている感じがします。
もう習熟期間も過ぎた所ですから、実際の市場の動きに合わせて動かしていただければいいのではないかと思っています。もちろん、ここ3週間ドルが強くなっています。連動して人民元も相対的に強くなるわけですから、必ずしも一方的に人民元が高くなる、低くなるという先入観で見る必要はありません。けれども世界的なマーケットの中で動いている通貨の強さや、それを反映して人民元が的確に対応していくという制度の実施が、望まれると思います。
余さんから、アメリカ政府にいろいろな主張があり、人民元へのアメリカの主張をそのまま受け入れると、そのうち矛先が日本に回ってくるというお話もありました。けれどもアメリカでは議会と行政府が、必ずしも一緒のことを言っているわけではありません。
日本が中国に、弾力性のある制度にしたらよいと申し上げている理由は、中国経済が非常に大きくなっている中で、弾力性を欠いたまま進めば、さまざまな意味でのしわが累積し、ある日突然、急激な調整を余儀なくされる場合が出てくる……。そういうことはやはり避ける必要があると思うからです。
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渡辺博史氏 |
どの国の経済でも、上がったり下がったりという意味での変動はあります。が、硬直的な制度の中で泳ごうとすると、どうしても無理がくる場合があります。それを避けるには、経済のいろいろな面で、弾力性を入れておく必要があります。
通常の先進国経済では、金融市場が働き、そこでは金利が、さまざまな動きをのみ込んで調整をしています。非常に大きな経済の変動が起きた時には、財政出動や逆に引き締めという形で、財政と経済の間の相互関係が生かされています。合わせて為替制度も、内、外との経済の状況の格差が生じた場合に調整をするわけです。
中国は金融市場が未発達で金利が必ずしも十全に動いていません。財政は、日本よりはるかに健全な財政活動をしていますが、これからの長寿化の中では、年金資金の不足などの財政負担が大きいですから、必ずしもそれに完全に寄りかかることはできません。
財政、金融に硬直性があるとすれば、もう一つ「為替」で弾力性を導入することが、全体として安定的な中国経済の今後につながる、というのが日本政府の見解です。
アメリカ行政府も基本的には日本と同じ立場で主張しています。特に米中間の貿易赤字、黒字の解消ということだけで議論しているわけではないと理解しています。もちろん米議会の一部でそういう主張をされている方もいます。これから11、12月にかけて、そういう議論がされるとも思っています。
今、中国において、為替に弾力性を入れる必要がなぜあるのか。それがどういう形で問題を生じていくのか、私の一つの考え方を申し上げます。
余さんもおっしゃいましたように、中国は非常に高い成長を続けています。9%を超える成長が何年も続き、7%を超える成長は15年近く続いています。中国の目標は、今後10年、あるいは2020年までに、00年当時のGDPを4倍にする、そういうことを政策としてとるということです。高成長をどう続けていくかという議論が必要になってくるわけです。
実際に行かれた方も多いと思いますけれども、沿岸部の上海、杭州、あるいは深セン、北京、天津などは非常に大きく発展しています。これから全体としての経済を考えるには、いつまでも一部の地域に頼るわけにはいきません。
川の上流部、奥地の四川省まで含めて、あるいは東北部など今まで経済の引っ張り役ではなかった地域でも、投資や発展が必要になります。それを支える資金的手当がどうなされるかが課題だと思います。
沿岸部では、海外からの直接投資が大きな役割を果たしてきました。けれども内陸部や東北部でのインフラは未整備で、対外直接投資は及んでいません。このため中国の銀行システム自体からの借り入れ、貸し出しによって、資金がファイナンスされているわけです。けれども、先ほど余さんからも話がありましたように、中国の金融制度自体が、必ずしも十全な審査、あるいは貸し付け手続きを踏まれて行われていないこともあり、不良債権の問題を常に抱えています。
十全な審査を経ずに資金が提供されれば、例えば産業界では「過剰設備」が累積されます。設備に過剰にお金が流れるために消費が逆に抑制され、長い目で見て中国の安定成長に効果的に働かない懸念が出てきます。
日本やアメリカではGDPに占める消費の割合は6割、あるいは3分の2です。中国の場合、まだ圧倒的に投資、輸出が中心で、消費の役割が小さいのです。生活水準が上がる中で、どう消費拡大に結びつけるかの議論が必要です。
庶民の生活水準を上げるには、自国通貨がある程度高いということは意味があるわけです。日本でも外から輸入する場合には、円が高いほうがいい。逆に、物を売る時には安いほうがいいという関係がありますが、全体として中国の消費を増やしていく中で、自らの通貨価値をどう考えるかが一つの課題であると思っています。
さらに中国がこれから成長を続けていくに当たっての留意点がいくつかあります。
一つは先ほど申し上げましたように、これまでの発展は沿岸部に集中しています。それ以外の地域との間の所得の不均衡が高まっています。
すでに中央政府も認識し「調和ある社会」として所得の均衡化をターゲットに政策を進めています。それを性急に進めようすると、内陸部や東北部を無理やり成長させるという形になり、結果として、何年か後にそのツケが回る恐れがあります。
そういう点についての配慮は、中国政府に求めていきたいと思っています。
中国は9%、今年は9.4から9.5%という成長をするわけですが、高ければいいというものではありません。その国の経済の実力に合わせた成長を実現する必要があります。中国は、人口増は限られていますが、農村部から工業部門への転換という点から、先ほどお話がありましたように、年間800万の新しい職をつくっていく必要があります。そういう意味で、GDPの伸びが高くないといけません。私の個人的な感じで言えば、現在、最低限の成長率はやはり7%ぐらいはないと……。失業が増えてしまうという懸念があることから、7%にどれだけ乗せた成長を実現していくかというのが広い意味での安定成長路線と思っています。日本やアメリカが1%、3%と言っているのとは全然違う次元での数字の議論をする必要があります。
では7%を1%超えて8%成長がいいのか、9%成長がいいのかということについては、その時の経済の実態、その中心となる銀行セクターの強さを勘案してやっていただければとは思っています。
最後に申し上げますと、中国では、今まで世界が経験したことのない、いくつかの事象が起きています。
例えば、戦後、アジアでは日本が成長しました。その後、四つの小さいドラゴンということで、シンガポール、香港、台湾、韓国が東アジアの奇跡と言われる成長をしました。が、ご承知のように香港とシンガポールは、国というよりは都市国家です。台湾、韓国も、成長当時の人口は2000万人、3500万人という規模でした。
その時には、それらの国が一生懸命働けば、それに見合ったリターン、配当が得られましたが、国の活動が世界全体の需給を大きく変えることはありませんでした。今日は経済学の専攻の方も何人かいらっしゃると思いますが、経済学の議論をする時には、その他の条件を一定にして、どれだけ動かせるかという議論をします。東アジアの4国の場合には、その他の条件を一定にして、自分たちだけが努力することによって高い配当を得るということで仕事ができてきたわけです。
けれども中国は、13億という人口を考えると、他の条件を変えずに彼らが成長することは簡単ではありません。ですから、今後、起こることは、中国が生産設備を増強することにより、売り物である最終工業製品の値段はどんどん下がっていきます。しかも、これにインドという次の大きな巨人が続いてきます。全体として売る値段が下がります。
それに対して、それを生産するための原材料、部品を外から買ってくる時には、供給よりも需要が大きくなりますから、値段が上がってくるということになります。売る値段が下がり、買うものの値段が上がれば中国に残される付加価値が小さくなります。
こういう現状は4国にはなかったわけですから、それを踏まえ、中国がどう発展するかについて、中国の中央政府や余さんのような方々の大きな貢献が必要となると思います。
とりあえず、私はそれだけです。
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