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朝日新聞シンポジウム「人民元改革の行方と日本・アジア」 |
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渡辺博史氏 |
渡辺 今の件に若干補足いたします。余さんがおっしゃったように、中国は今、金融システムの改善に大きな力を向けています。過去2年、人民銀行、あるいは銀行業監督委員会が、銀行の実際の内部の審査体制や貸し付けの実態を非常に熱心に監査しています。
かなりの進展が見られているとは思います。けれども、やはりまだ地方に行きますと、日本語的に言えば「縁故貸し付け」、採算性を長期的に見ず、当座の動きだけで貸すといった貸し付けも見られます。不良債権の処理に完全にたどり着いたと言えない状況です。ただ四つの大きな国有銀行のうち3行には、公的資本の注入で改善が見られてますし、そのうちいくつかの銀行は、香港の証券取引所に上場し、投資家から見える改善が図られています。
ただ一部では、先ほど申し上げたような貸し付けが残っているために、不良債権の処理に直結しない懸念があります。アメリカやヨーロッパの銀行が、それらの大きな銀行の株式を一部、取得して、少数株主として入るという計画も発表されています。欧米の銀行が入っていくことで、各行のいわゆるガバナンスといいますか、審査の姿勢、経営管理能力が向上することも期待できる、そういう状況にあると思っています。
山田 出井さん、どうぞ。
出井 はい。この際、僕も渡辺さんと余さんからちょっと学びたいのですが。世の中には、ハンバーガーがいくらで食べられるかというレートがあります。これは実際のその国の購買力を見る「ハンバーガーレート」ですね。皆さんが日本でハンバーガーはいくらだと思っておられるか知りませんけれども、大体100円ぐらいですか。それが中国ではいくらなのかということで、経済誌が毎年それを、つまり購買力調査をやっています。
元が大変で、今切り上げるのは難しいことは、よくわかったのですけれども、では基本のレート、今のレートが高いのか安いのかとなると……。要するに、日本のメーカーは今のレートは安いのではないかと思っているわけです。その「ハンバーガーレート」によると、たしか人民元は60%ぐらい安くつけられているぞという調査を、去年見ました。
日本でも、1個360円ぐらいと頭で思っていらっしゃる方がこの中の中心で、200円と思っている人はかなり若い人で、今、100円と思っている人がもっともっと若い人だということで。ですから、日本も100円、200円、360円という形態があったんですけど、じゃあそれは実態としていくらのハンバーガーだったのかというようなことが問題で……。どうも中国の人民元が今切り上げるのは難しいということは僕も全く同意なのですけれども、じゃあ、もともと中国元というのは安かったんじゃないかという件をお二人に見解をうかがいたいのですけど。僕が仕切っちゃいけないけど(笑い)。渡辺さんのご意見はいかがでしょうか。
渡辺 私が先に?それはなかなかこの場で申し上げるのは難しいんで(笑い)。財務省はレベルについては一切申し上げないのが基本的ルールにはなっておりますので(笑い)。
出井 そうですか。
渡辺 ただ、我々が議論するべきことは、まさに今おっしゃったように、現在の水準が高いか低いかということと同時に、国の経済力や全体としての力が上下する時に、常に中国の通貨がアメリカのドルと一定の関係にあるのがおかしいと言えるわけです。少なくとも過去数年の中国の貿易における力強さを見ると、アメリカのドルに対して、はるかに強かったという事実があります。そういう時に本来であれば、人民元がドルに対して高くなっていくということはあってよかったのではないかと思っています。
しかし、これから先どうなるかは、余教授のお話にありましたように、いろいろな問題を抱えている中国経済がどういうふうに動くかにより決まることです。中国が華々しく毎年9、10%で成長することがいいかどうかは別にして、やはりある程度の成長、つまり7%を割り込まないで失業の問題が顕在化しない形での経済運営が可能な水準で進んでもらい、それがアメリカの全体経済の動きとどういう関係にあるかという中で、それぞれの水準が決まっていくことが必要ではないかと、我々は思っております。
それから、今、出井さんから「ハンバーガーインデックス」というのがあったんですが、もう一つ、もうちょっとまともな、世界銀行とかIMF(国際通貨基金)で出している購買力平価による水準というのがあります。これによりますと、例えば、日本の円は実はドルに対して160円でいいという話があります。私は2年ばかり前、それを基準に、国会でものすごく怒られたことがあります。当時100円になんなんとしておりましたので、もっと円を安くするべきだと怒られました(笑い)。
その同じPPP(購買力平価)で言いますと、実は中国の為替は今1ドルが2.5元でいいということになっております。それでいきますと、すでに中国のトータルGDPは日本の1.5倍ぐらいになって、世界第2の大国になっているということであります。これも何か変だなというのがあります(笑い)。
ハンバーガーというのも、すべての国がハンバーガーを好むかと。インドに行くとチキンハンバーガーしかないわけですし、日本でもハンバーガーは昔はぜいたく品、今は何かものすごく安くなっていまして、アメリカより下手すると安くなっているかもということがあります。だから、特定のものでつかむ、見るのはなかなか難しいと思います。
購買力平価も、一つのセットの生活基準があって、それをまかなうためにいくらお金が要るかという基準になりますと、日本はどうしても住宅という最大の隘路(あいろ)があって、そこでお金がどうしても必要になるがために、相対的に割り負けているとか、そういう矛盾が起こってきます。ですからインデックスというのは、いろんなものが出されていますし、それはそれなりに面白いんですけれども、あんまりそういう一つ一つを見るということじゃなく、全体的に見るという、公式見解を改めて申し上げさせていただきます(笑い)。
山田 立派な公式見解を日本からお聞きしたあと(笑い)、じゃあ、余さん、公式見解か私的見解、どちらでも結構ですけれども、ハンバーガーの値段の比較もありましたし、PPPでは1ドル2.5元、これはすごいなと。
渡辺 すごいです。
山田 こういう試算もあって、じゃあ、エコノミストとしてどう考えるのか、このあたりをちょっとお願いします。
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余永定氏 |
余 渡辺さんのおっしゃるとおりだと思います。渡辺さんのお答えは本当に正しいと思います。たしかに、ハンバーガーインデックスというのは面白い考え方ですね。経済学部の学生に教える時に、為替レートとは何かについて理解させるのに利用したいと思います(笑い)。
しかし、この考え方を実際の経済分析に使うことはできません。多くの人が、中国の為替レートはいわゆる均衡水準から大きく離れていると言います。しかし文献をチェックすると、均衡レートには10種類もの違った定義があるのです。均衡レートとは何かが問題なのです。これらが問題を非常に複雑にします。
例えば、ある特定の状況においてのみ、ハンバーガーインデックスは正しいかもしれません。どのような状況かといえば、完全な競争、完全に自由化された資本取引、物やその他の自由な流れなど、だれもが競争でき、独占がないという理想的な、しかし不可能な世界です。そうであれば、この指数は通貨の本当の価値を正しく反映するでしょう。非常に面白いコンセプトであるということには同意しますが、しかし、経済政策の決定に使用することはできません。
それでも私は個人的には、人民元は過小評価されていると認めます。人民元は切り上げられるべきです。切り上げは米国やその他の国にとってだけでなく、中国にとっても利益があります。
なぜなら、一つの事実を指摘したいのですが、中国のGDPに貿易が占める比率はいまや75%以上に達し、上昇を続けています。輸出と輸入の合計のGDPに対する比率のことです。これが今年年末には80%を超えるかもしれません。日本の比率は20%くらいでしょう。日本は貿易国です。米国も20%くらいです。中国経済は非常に大きな経済ですが、単一の経済でこれほど貿易依存度の高い経済はありません。ですから、こうしたインバランスを是正する必要があります。是正のために人民元を切り上げることは非常に重要です。
このほかにも中国が直面する問題がたくさんあります。例えば、中国の投資比率は高すぎます。45%程度です。それに対して、消費比率は低い。国内需要を刺激しようと思えば、消費を刺激する必要があります。しかし、もし人民元が過小評価されていれば、国内需要を刺激することは難しいでしょう。たとえば、人民元が切り上がれば、もっと多くの中国人観光客が日本に来て、お金を使うでしょう。ですから消費が増えます。
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このように、非常に多くのことが調整される必要があるのです。もちろん、ほかにも多く政策があります。しかし私が言いたいのは、人民元の切り上げは、中国の経済調整を促す非常に重要な要因の一つです。ですから、個人的には私は人民元の切り上げに賛成です。しかし同時に、私は非常に用心深くもあります。ゆっくり歩まねばなければなりません。非常に大きなダメージをもたらす可能性があるので、ゆっくりと進まなければならないのです。
出井 確かに今のは、その通りですけど……。私、課長の時、ドル円が200円になったんですね。部長の時に150円になって、社長になったら79円になったんですよ(笑い)。私が早く出世したのか、それとも円がこんなにも速く切り上がったのか? もし150円ぐらいだったら、日本の国はもっと経済発展しているんで、そんなに自己批判する必要はないんですね。
私が課長のころ、ソニーのファウンダー(創業者)の盛田(昭夫)さんというのが「出井君、もうこれで200円切ったら首つんなきゃ」なんて言って「そうですか、つったらどうですか」と言ってたら、もう、私が社長の時、79円ですからね。
どう考えても、僕は、日本の為替というのはアメリカのプレッシャーでこんな高くなったと思ってね。日本の政府がだらしないのか(笑い)、そういうふうにやったのかというのは、また見解をお聞きすると、また申し訳ないからうかがわないのですけど(笑い)……。
為替というのはアメリカ、日本、中国、これからユーロもありますけども、全部が安いほうがいいと言い出したら切りがない。今は全部が安いほうがいいと言っている。これはやっぱり何かこう、これだけ上下が激しいと、何かおかしいなと。要するに、人為的なものを感じるというか、政策的なものを感じて……。
中国はそれに対して今、必死に抵抗している。他の言うとおりにやったら、日本の二の舞いだと思っていると思う。でも、結局日本の二の舞いだと中国から言われて、じゃあ、日本はどうしたんだと。こんなにみんなが一生懸命働いて、どんどんアメリカのお金を増やしアメリカだけ得して、日本はペコペコする必要はないと私は思うんですけど……。
為替の力の標準というのは、本当に10%違ったら、余さんもおっしゃったように大変なことですけど、日本の円というのはずっと、アンダーバリューじゃなくてオーバーバリューされてきたんじゃないかな、と私は思ってるんですけどね。はい。
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