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国際シンポジウム「アジアにおける経済統合とインド」
ジャグディシュ・バグワティ氏の基調講演(1)

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ジャグディシュ・バグワティ氏

 司会 それでは続きまして基調講演に入らせていただきます。基調講演は「インドの発展:課題と展望」と題しましてアメリカ、コロンビア大学教授のジャグディシュ・バグワティさんにお願いします。

 ジャクディッシュ・バグワティ(米コロンビア大学教授) ご列席の皆さん方、再び日本に来られて非常に嬉しく思います。私、実はしばしば日本に来ておりまして、40年ほど行ったり来たりしております。初めて参りましたのは、インドの賢人会議の事務局長としてでして、この時は日本側の賢人会議もあり日印の交流がありました。特に経済問題に光を当てていました。その時に日本に参りまして、若者として時間もありましたので、今は忙しくなってしまったのですが、全国を回る機会がありました。名古屋にも参りましたし、京都にも奈良にも大阪にも。たぶん皆様の中の多くの方よりも、ほとんど多くのところに行ったのではないかと思います。畳で寝た経験もあります。旅館にも泊まりました。日本文学についても勉強しました。それから、その後、アメリカに数年後移住しまして、その後さらに日本との関係が深まりました。と言いますのも、ちょうど日本バッシングの時代が始まってしまったのです。私は日本派として日本の方から「もしアメリカからいなくなるのだったら日本に亡命してもいいよ」と言っていただけるぐらい、日本擁護派として一所懸命に論説を振るったわけです。そういう意味では日本は特別な存在でして、非常に私は親近感を持っている国です。ですので、ここに帰ってくることができて嬉しいと思います。私は日米関係のほうが実は今専門なのですが、なにしろ中国という新しい敵が出てきまして、新しい形での応化がありまして、それからインドのアウトソーシングということで、イエロー・ペリルに変わったブラウンド・ペリルといった形があるのですが、そういったところを避けて私の祖国であるインドが最近大きな存在になってきているということで、その立場からお話をしたいと思います。今まで陰の存在だったところから出てきつつあるインドということです。

●「蛇使い」からITの国へ

 ある会議でインドのIT革命についての話がありまして、シリコンバレーにインド人の起業家がいました。彼がこう言っていました。昔はインドと言えば蛇使いが出てくる国と言われたのですが、そうではなくなってITの国になったと言われました。それで私が、スピーチをさせてくれれば私がもっとよく書いたのにと。今は「蛇使い」ではなくて「使い」だと。いろいろなものを使うものだというふうに言ってやれ、と言いました。今回、こういった会議が開かれるということですので、私はインドに主眼を置きながら、日本とアジアの関係にも光を当てて、もちろん中心としてはインドの成長、経済的な可能性についてお話をしてまいりたいと思います。それから、やはり中国。今、インド、中国、ジャパンがアジアのビッグ・スリーとなっておりますので、そこのところを、やはり話したいと思います。地域全体に大きな影響を及ぼす3国となるからです。

●貧困解決には成長が必要

 では、まずインドのこれまでの経緯と将来に光を当てて、今までどういう問題があって、今何が起こっているのかを話したいと思います。何をもって状況が変わったのか、それから先にどういった課題があるのかという話をさせていただきたいと思います。では、まずインドの成長ですが、まだ改善の余地はあります。でも、そもそもなぜ成長が大切かを考えたいと思います。エコノミストとして、それからビジネスをやっておりますと成長、成長と言うものです。普通の一般の方であれば、例えば「グローバル化反対」といったパレードを行っているような人だとすると、成長が目的ではないと。成長だけに関して考えるべきではないと思うかもしれませんが、やはりインドにとっては成長があってこそ貧困問題が解決できると考えるべきです。インドも中国も両方、やはりかなり貧困の問題があります。人口も多い、そして貧困層の人口もその分多いということがあります。ということは、中国とインドの貧困問題を変えることができれば、世界の貧困問題にも大きな影響を与えることができるということで、やはりその政策の枠組みがどうなっているかが非常に大切なわけです。

 60年代の前半、私はインドにいました。そして、最初の私の仕事は計画委員会というところでした。人口の一番貧しい30パーセントをどのようにして引き上げるかが課題だったわけです。少なくとも最低の生活水準をどうやって確保するかということでした。すなわち貧困を減らすことが課題だったわけです。やはりインドや中国のような国にいますと、とにかく貧困を解消したいと思わずにいられないわけです。そういったことがありまして、その時には成長というのは、成長があれば貧困が減らせるという手段と考えられていました。

 なぜかと言いますと2つ要因があります。特にインドや中国のような国で言えることですが、まず成長によって直接雇用が生み出されます。成長があれば、それだけ職が増える。職が増えるということであれば、より多くの人が貧困から脱してきちんとした職に就けるわけです。要するに再配分ができるものが増えるわけです。キレスキーさんという素晴らしいエコノミストで共産主義者だったのですが、60年代の前半に彼は言いました。あんたの国の問題は搾取される人が多くて、搾取する側が少なすぎることだと。要するに再配分ができないという問題だと言われたわけです。ですので、成長が必要だったのです。アメリカ流に言うと、パイを大きくするということです。成長して、そして雇用を生み出して、それによって人々が貧困から脱することができるようにするということです。よく急進的な人は、これはトリクルダウンや浸透効果説などと言います。要するに宴会をやっていて、エリートのお金持ちの人たちはテーブルの上で贅沢なものを食べている。そしてパンくずが少しテーブルの下に落ちて、大量の貧しい人たちがそこでパンくずを漁っているといったことを言うわけです。要するに、おこぼれに預かるだけという見方だと急進派は言いました。これはコンサバだと。でも、それではなかったのです。サッチャー首相がよくトリクルダウンと言いましたし、レーガン大統領もそういったことを言っていました。でも、私たちにとってはそうではなく、成長の追求は、もっと急進的な積極的な貧困の人たちを引き上げる政策だったのです。すなわち貧困層に対してきちんとした職を与えるための手段だったのです。そういう意味ではインドの戦略は間違っていたわけではないのです。それ以外、戦略はなかったのです。もちろん、ほかの政策も当然、貧困対策としてとりますが、やはり第1に急成長が必要だったのです。問題はインドで成長を実現することができなかった。なぜかと言いますと、インドの政府がとった経済拡大政策が実は逆効果のものだったからです。

●経済拡大政策はなぜ失敗したか

 大失敗の要因を4つここでご説明したいと思います。それが、この10年ないし15年間、改革の対象となったものでもあるわけです。10年だと思っていましたが、よく考えましたら15年です。時の経つのは速いものです。まずは内向きだったということです。国際貿易をインドは恐れていました。今になってみるとおかしなことですが、そういった態度があったのです。トーマス・フリードマンの本を読んだかもしれませんね。世界が平らだという本です。そして人々がインドや中国は世界をとってしまうのではないかと怖がっている。所得は低いし技術は高いと。全部雇用を奪ってしまうと。そういったメッセージを、世界は平らで真っ平らで、と考えると、インド人と中国人が全部持っていってしまうような考え方になってしまうわけなのですが、われわれは逆に考えていたのです。われわれも、ある種平らな世界だと思っていたのです。その時に何を考えているかと言いますと、要するに金持ちが全部職を持っていってしまうと考えていたのです。ですから、国際競争力、また比較優位に関して、本当に180度、全く違った見方をしていたのです。要するに昔は、私たちは豊かな国と競争するのを恐れていた。それが今は逆になってしまったわけです。

 いずれにしましても、過去にわれわれはそういう状況であったと。要するに国際化した時のマイナス効果を心配していたのです。周辺のところが真ん中、メインストリームと取引するのを恐れていたと。今は逆だと有名な先生もおっしゃっています。その結果として、インドとしてはとにかく内向きの政策をとってしまっていた。そして国際貿易のメリットを生かすことができなかったのです。91年に改革が本格的に始まりました。その時にGNPに占める貿易の比率は非常に小さく、また世界の貿易に占めるインドの地位も非常に小さかったのです。一方、ほかの国は皆GNPに占める国際貿易の比率は高くなっていた。そういった間違いがあったのです。

 もう1つは様々な制約があったということです。それは別にどこの国でもそうかもしれませんが、規制がどんどん肥大化していってしまった。生産管理、生産調整、投資調整がある、輸入に関する制限もあった。何々制限、何々管理というのが、どこにでもあったという形になりました。もちろん汚職にもつながりました。やはりいろいろなものが、規制の網がかかっていると、人間の心は自分の影響力を行使したい、政治家であればお金を儲けようなどと考えてしまう元なのです。そして汚職という話が出ていますが、汚職が出てきたのは別にインド人が汚職に走りやすいということではなくて、それは人類共通のところではあると思うのですが、それはそういった政策があって、結果として汚職に対する体制がなくなってしまったのです。始まった時の公務員は非常に素晴らしいものでした。でも30年経って変わってしまったのです。再び人間らしくなったと言えるかもしれません。それは結局政策の失敗なのです。

 3点目です。それから公共セクターが肥大化してしまった。普通は電力、公益企業、あとは自然独占といったものがあるのですが、中国が今そうであるかのように、国営企業がインドでも肥大化しました。英語ではSOEと言いますが、私はSOBと言いたいと思います。英語のジョークですが。中国では民営化で苦労していますが、われわれも苦労しました。とにかく、そこら中に全部国営企業があったのです。まず、とにかく赤字を出していたと。そしてマクロ経済への影響があったと。それによって貯蓄率も影響を受けた。そしてインフラ圧力がかかったというのがあります。それから、そういった国営企業が作った中間財が結局民間のセクターに入っていたと。そうすると、その公的セクターの非効率が結局ほかの産業にも広がっていったわけです。そういった形で乗数効果が効いていってしまったわけです。それが最終的に成長の阻害にもつながった。

 それから海外直接投資(FDI)。今は全ての人が、これが良いことだ、恩恵のあることだ、と合意していますが、本当に厳しく管理していました。私がある本を書いている時がありまして、時々インドはどうなっているのかなというのを見て、本を書いたり、レクチャーをしたりしていたのですが、91年に現在の首相が財務大臣でした。そして大きな改革を始めました。本当の改革の流れは80年代に始まったのですが、大きくなったのは91年、危機の後です。それを見まして、どれだけのFDIが来ているのかを見ました。そうしたら1億ドルでした。それはたぶん経団連さんの予算よりも小さいのではないかと思いますし、IDEさん、あるいはジェトロさんの予算よりも小さいのではないかと思いますが、そんなものだったのです。ゼロが足りないのではないかなと自分でも思いました。でも、そうだったのです。本当に1億だったのです。インドの地図を見まして、こんなことがあるわけがないと思いました。でも、それが現実だったのです。そういう意味では、われわれは非常に有効な可能性があって、ツールがあって、われわれのパフォーマンスを改善することができたはずなのに、われわれはあえてそれに背を向けて辛い状況に国を陥らせていたわけなのです。

 地位のある社会学者で、グローバル化反対の方がおっしゃいましたが、世界経済への統合は、国の経済の分裂につながるとおっしゃいました。それを正にインドは信じて、実現させるそういった政策をとってしまったわけです。30年経った後、平均の所得の成長率は3.5パーセントしかありませんでした。それだけの所得の伸びしかなく、しかも人口は2パーセント増えていることになりますと、1人当たりの所得の伸びは1.5パーセントになります。時には経済と常識が合うことがあります。1.5パーセントの成長で、どうやって貧困層から人々が脱して職を見つけることができるのでしょうか。できません。ですので、悪かったのはインドの政策なのです。そもそも成長が実現できなかったのです。そして貧困が増えてしまったのは、やはりその政策の枠組みのせいでした。それがようやく変わり始めたのがその後です。インドの国民も、別に特に外圧を受けたわけではなくて、インドの国民自身が気づいたのです。ロシアでちょうどゴルバチョフ氏が、ある日、彼とシュワルナゼ氏が、このままではロシアはやっていけない、ということに気づいたわけです。成長率がどんどん落ち続けていたと。それでペレストロイカを始めたと。グラスノスチにもつながったというわけですが、同じような感じでインドの主導層もそういうふうに気づいたのです。特に91年の危機、南アメリカなど、あるいはアジアの通貨危機に比べたら小さかったのですが、少なくともそれは十分なショックとなって変革が生まれました。それで突然いろいろな規制の緩和を始めました。でも、まだ全部はできなかったということで、次はその話にいきたいと思います。


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