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国際シンポジウム「アジアにおける経済統合とインド」
張宇燕氏の講演

写真

張宇燕氏

 司会 ただいまより「アジア経済統合の枠組みにおける中国とインドの関係」と題しまして、中国社会科学院アジア太平洋研究所副所長の張宇燕様にご講演をいただきます。

 張宇燕(中国社会科学院アジア太平洋研究所副所長) どうもありがとうございます。皆様こんにちは。今日はこのような機会をいただいて発表できますこと、大変光栄に存じます。中国とインドの関係を、アジアの経済統合という枠組みの中でお話しをしてみたいと思います。

 地域の経済統合が、かつてないような1つのブームを迎えています。アジアはこういった地域経済統合の中では後発組といえますが、90年代後半以来、この統合が様々なレベルにおいて加速化しています。同時にまた、インドはいまや重要なASEANの、ASEANプラス1、あるいはASEANプラス3、プラス4と呼ばれるグループの中で重要な国となってきております。このプロセスの中において、中国とインドの経済関係が注目を集めてまいりました。そしてこの両国の関係は、両国だけに影響を及ぼすというよりも、むしろアジアの統合にも、さらには東アジアと南アジアの関連という中において、そして多かれ少なかれ世界の新たな形にも影響を与えているわけです。

●経済開放で先行した中国

 中国もインドも、古代からの歴史と文明を持っている国です。この両国は、何世紀にも遡る友好関係を伝統的には持っていたのですが、一方で、様々な歴史的、政治的、経済的な理由から両国の関係は、基本的に停滞状態がこの数十年続いてまいりました。中国が改革・開放政策を1978年に導入して以来、経済の発展においても、はっきりとした違いが中国とインドの間に生じてまいりました。ほかの東アジアの諸国と同じように、中国もまた、輸出指向型の道を歩みはじめ、それによって経済を発展させようとし、積極的に国際的な分業に参加しました。そしてこの低コストの労働力という競争優位を生かして、こういった道を歩んできたわけです。しかし一方で対照的に、インドの経済は比較的最近までかなり閉鎖的でした。こうした最近の、両者の開発・発展の道のりの違い、その結果として両国の開放の状況に関しても、大きな違いが出てまいりました。

 いろいろな角度から検討してみても、中国のほうがインドよりも開かれていると言えます。中国とインドの間には、また国境紛争があり、これが両国の経済関係の発展にも暗い影を落としてまいりました。歴史的な理由から、両者の間には公式に決められた国境が存在していませんでした。その結果として、中印関係が大きく発展することが阻まれてまいりました。その結果、両国はお互いに対して、いわゆる1960年の国境をめぐる紛争以降も、長きに渡ってお互いを懐疑的な目で見てまいりました。といった理由から、中国とインドはその両者の経済交流は長期にわたってかなり制限されておりました。全体として両国の貿易規模も、90年代以前は大変小規模でした。その状況は、90年代初頭も変わりませんでした。中印経済関係に火をつけたのが、インドにおける制度的な改革であり、そして両国政府が調印した様々な協力関係の合意でした。その結果、90年代以降、両者の関係は急速に近づいてまいりました。これは例えば貿易投資、技術協力、その他の交流などからも明らかです。

●急速に増える中印貿易

 それでは実際に、両国の貿易関係の発展状況を数字で見ていきましょう。1998年から2004年までをご覧いただきますと、青が総量、総額です。輸出入の総額です。中国・インド両国の間の貿易総額で、これは急速に増えています。1999年から2004年において、両国の貿易額も約米ドル20億ドルであったものが、約140億ドルまで増えてまいりました。また中印の投資関係も発展しています。しかし総額で言えば、両国の規模から比べますとまだ大変少ないと言わざるを得ません。ともあれさらに両国はまた、国境問題に関しても、解決のためのガイドラインについて、コンセンサスに達しました。今年の9月に第6回交渉が行われ、その結果その交渉も実績の段階へと進んできたわけです。

 さてアジアの経済統合がさらに進み、両国の経済が急速に発展する中において、新たな条件が整い、その結果両国の関係も、新しい様相を見せるに至ってまいりました。中印関係に関して、これがまたグローバルな形で議論されることが出てまいりました。将来を展望した時、両国の協力と、そして経済関係が強化されることは、両国にとっても共通の利益ということで、大きな意味を持っています。しかしながら一方で、その深さ、また範囲という意味でも、両国の協力を制限するような障害も数多く残っています。

 ともあれ中国とインドは、益々相互の共通の利益が拡大しております。中印協力を通して実現できるような双方の利益として、次のようなものを挙げることができます。まず第1に、お互いに共通の市場を形成し、その範囲と規模を拡大することで、貿易面で双方が多くの利益を上げることができます。両国の貿易投資は、現在のところは両国の経済規模を考えればまだ小さいものです。中国・インド双方にとって、この共通市場を拡大する余地は大いにあります。第2に急速な経済発展。その背景として、国際分業をさらに深めていくことが考えられます。中国は工業、および機械関係の設備、そして加工などにおいて優位を有しておりますし、インドはソフトやハイテク業界において競争優位を持っています。ということは両国が補完的な関係を持っているということであり、垂直統合、あるいは水平統合といった意味での協力をする余地があります。そして第3点として、国際的なルールづくりの中において、交渉力を強化することができれば、両国にとって共通の利益を守り、それを推進することができる。そして両国が2大発展途上国となることができるわけであります。中国もインドも益々強力になりつつありますが、しかしながらそれぞれ世界のグローバルなシステムの中において、効果的な形で対抗力となるようなことが、まだできておりません。現在の国際経済体制は西側の先進国によって支配されており、一方で中印両国はその経済が発展する中で共通の利益を持っており、多くの問題において両者の要求そして要件は、社会的な条件の違いを背景として、欧米のそれとは違っているわけです。ということから、中印協力を通じて、発展途上国にとって好ましいルールや、条件を勝ち取ることができるでしょう。第4点。天然資源やエネルギーの開発・探査に掛かる高額なコストを、両者の協力で軽減することができます。中国もインドも現在、天然資源という面で制約を抱えています。例えば中国の場合、石油の消費量の1/3、インドは2/3を輸入に依存しています。もし両国が協力し、そしてお互いに新たなエネルギー資源を開発し、そして技術協力を行うことができれば、効率的に天然資源やエネルギー資源を利用することもできるようになります。そして第5点は国境の保障。これができれば相互の間に平和をもたらし、相互協力のための好ましい基礎が築かれます。そしてこれはやがては相互の経済の発展につながる基礎となります。

●発展を妨げる障害要因

 このように、実に数多くの相互の利益があるにもかかわらず、政治的および経済的な要因のためにネックが生じ、また中印関係の発展を阻む障害となっています。こういった障害の例として、3つ挙げたいと思います。まず第1に、相反する利益の関係が両国においても様々な利益者団体の中で存在しています。例えば中国のこういった利益者団体も急速に発展しており、そして中印関係の発展においても益々大きな影響力をおよぼすことが考えられます。インドは一方で、もっと多種多様な利益団体を抱えており、また民主主義的な政治体制を持っているということはすなわち、インドのほうが経済改革や自由貿易を行おうとした時、中国に比べてもっと大きな抵抗にあうことが考えられます。中国の競争力のある製造業がインドの権益を侵すと考えれば、インド側から保護主義的な措置、あるいは抵抗が生じ、それが中印関係の発展を阻むものともなります。

 また地政学的な検討・考慮。そして両国の経済協力・競争。協力・競争の共存を考えた時、中国もインドもどちらもより繁栄した豊かな国になりたいと考えており、そしてまた世界の大国と並んで産業や技術、貿易・金融の分野でも経済開発、経済協力を通じて自ら存在を強めていきたいと考えておりますが、こういった目的を達成しようとする際、同じようなアプローチをとることになれば、どうしても両国の競争、競合は避けられません。3つ目として、中国とインドの経済発展は、かなりの部分、対外市場に依存しています。特にアメリカの市場です。しかしながら、国益に鑑み、アメリカは現在も、そして将来も中印両国の間に密接な同盟的な関係を結ぶことを支持しないでしょう。米印関係を発展させようという、その主たる目的の1つとしては、中国の台頭に対して対抗しようという考えがあるのです。

●中印関係の3シナリオ

 そこで中印関係に関しての展望としては、3つのシナリオが考えられます。第1のシナリオとしては、中国とインドが、これからもお互いにあまり協力し合わない。すなわちゼロ・サム的な競争関係が中印間に存在するというものです。同時に中国とインドはまた、どうしてもお互いより強力になっていく中において競争せざるを得ません。そうなると、現実的に考えた時両国の状況は、かつてとはどうしても違ったものになってまいります。2つ目のシナリオとしては、全面的な二国間の自由貿易地域を設立し、そして全体としての戦略的な同盟関係を、世界的な場において両国の間で形成するものです。しかしながらそういった中印経済関係に関するインセンティブ、あるいはそれを阻む障害。それを考えますと、やはりこの2つ目のシナリオも、少なくとも短期的には実現の可能性は小さいと思われます。3つ目のシナリオとしては、中印関係、中印の協力関係が徐々にゆっくりと、しかし円滑な形で相互の繁栄に向かって進んでいくというものです。そして両国の関係は、やがてはいわゆる「良き隣国」としての関係に基づいて発展していくというものです。以上の分析に鑑みますと、おそらくこの3つ目のシナリオが、一番中印両国の間では現実性を帯びていると考えられます。

●良き隣国になるために

 最後に結論として、この「良き隣国」について、もう少し詳しく説明したいと思います。中印の間の善隣関係、「良き隣国」としての関係は、4つの側面を持っています。まず第1に、長期的に平和裏に共存するという関係の維持。2つ目としては、政治的、経済的な違いを押さえ、そしてお互いの対立を手におえるような範囲に維持する、留めておくということ。3つ目としては、市場の更なる開放と、そして相互に利益のある分野における経済協力を円滑に進めること。そして4つ目。具体的な問題に関して、地域および国際的なレベルでの協力・強化です。きちんとした「良いフェンス」を作ることは、良いお隣との関係を作るということで、ここで言う「良いフェンス、柵」というのは、すなわちきちんと明確に定義され、厳格に執行されるような、国際的なルールや機構と言えます。中印関係について言えば、両国は、まずはJACIK、すなわちASEANプラス4、そして上海協力機構、ここで今インドはオブザーバーとなっていますが、こういった枠組みの中でのお互いの意思の疎通と協力に努め、さらにはWTOやG20の枠組みの中でも協力をしていくことができると思います。

 そしてこうした両者の協力は徐々に強化されるもので、特定の分野を対象にしたものですが、やがてはこれがアジアの経済統合に貢献し、そして発展途上国の共通の利益にもつながり、ひいては人類全体の福祉にもつながるものと考えます。以上です。


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