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国際シンポジウム「アジアにおける経済統合とインド」
ラメシュ・チャンド氏の講演(2)

写真

ラメシュ・チャンド氏

●90年代半ばから問題悪化

 これは農業分野における成長率を時系列的に見たもので、このように90年代半ばから問題が悪化してきたことが良くわかります。そして、経済改革が一方で行なわれている中で、農業分野においては問題が悪化してきたのです。過去においてこのように、いろいろ浮き沈みありましたが、しかしこの下降傾向はそんなに続かなかった。ところが、90年代半ば以降、その下降の一途を辿っています。右肩下がりの状況がかなり続いています。その結果として、いくつかの問題が出てきました。成長率、確かにこれは問題です。60%の人々が農業で雇用されているからです。農業分野での成長率が減速しています。

 しかし、それ以外にも問題はあります。これも成長率と関連していますが、4つの分野に分けて書いております。成長と効率、公正さ、持続可能性で示しておりますが、過去50年間長期的に見た場合、このように4つの時期に分けて考えることができます。過去10年におけるこの成長率は1.86%でした。7%近い成長が他の分野において見られているわけですが、農業における1.86%は、成長そのものを考えた時、つまり、人口の農業に対する依存率が、そこまで高くなければ問題ではないわけです。しかしながら2枚目のスライドでご覧頂きましたように、農業に雇用されている人たちがこれだけ多い。91年から2001年までの間に1%も変わっていない、ということから95年、96年以降1.86%しか農業が成長していない、ということから農業に従事する人々の一人当たりの収入もあまり増えていないことになります。これはまた、国民統計データからもったものでありますが、1人当たりの所得は、0.291%となっております。これは農業従事者の場合です。一方、非農業分野におきましては、ご覧のように好調です。急速に1人当たりの所得も伸びています。

 2つ目の問題としてお話をした後に、この問題の原因、そしてさらにはその処方箋をご紹介していきたいと思いますが、効率関係と言えば、インドにおきましてはどうしても、果樹などいろんなものをどんどん栽培しようとしてきた。そしてその中で効率化はあまり重視されませんでした。ところが、輸入の自由化が行なわれた、そして、世界的な競争に晒された途端に、農業の分野でも効率化が必要だということに突如として目覚めました。95年、96年以降、インドにおきましてはこういった、一次産品などについても輸入が増えてきました。今や石油に関しましても、インドがかなり輸入しているわけです。輸出がかなり増えているとおっしゃいましたが、そうは言っても国内における生産はどうしても非効率的です。特に、食用油については効率が悪い状況があります。それから輸出入の自由化を考えた時、輸出のほうが伸びてきます。農業というのは、外貨獲得源であったわけですが、しかしそれも特に98年以降はその地位は揺らいできました。ということから生産を最大限上げるということではなく、効率的な成長を目指そうというように方向転換が図られることになりました。90年代以降、0.74というのが農業のインプット、入力に対する伸びということですが、一方でこの農業に対しての投入量は増えているが、しかしその生産量は増えていない、むしろ減っている。0.2%減となっています。これも問題です。

 3つ目は公正さ、公平ということですが、民主主義においては公正ということは、例えば地域間あるいは産業分野間において重要です。こういった面においても、80年代において農業分野における所得は他の分野の2.5倍くらいでした。ところが今では農業以外の分野に従事する人たちの所得が農業従事人口の所得の5倍となっておりまして、この所得格差も問題です。それから、地域間格差も問題です。エコノミストによれば、この1対4を超えるような地域格差は、警鐘を鳴らすべきだと言っています。ところが、わが国では1対7というような格差まで見られます。生産性の高い地域もあれば、そうでない所があって、このような地域間格差が深刻な状況にあります。そこで、政府の支援なども盛んに行なわれている地域なども出てまいります。そうでない地域もあるわけです。

 それから持続可能性ということに関して、天然資源の利用などを考えた時、例えば耕作地の18%に関しては、土地が劣化しています。それから、土地に投入される栄養塩に関してもアンバランスが見られます。更には補助金の問題などもあります。もう1つ重要な課題は、インドは世界の人口の16%を占めておりながら、水資源は世界の4%しか存在していないということから、どうしても水不足が深刻な問題です。時として、水利権をめぐる対立が深刻化いたします。つまり、流域がいろいろに分かれていることになりますと、水源地とその下流の流域などでかなりかなり深刻な対立が生まれるわけです。首相自身が委員会の委員長となりまして、水資源の配分などについて考えているわけですが、ともあれ、水不足は急速に悪化しています。

 この問題を4つに分けてみますと、インフラ関連の問題もあれば、技術関連の問題、制度的な問題、政策関連の問題などが考えられます。インフラ関連で言えば、インドにおいては、1947年独立以降80年までは公的分野の投資、ピンクで示しておりますがそこまでは伸びておりました。つまり、運河を作ったり、灌漑装置を作ったり、あるいは農業分野に関してもインフラの整備が行なわれてきました。しかし、80年以降ずっと農業分野におけるインフラ整備は下降傾向を辿っております。25年もそういった状況が続いています。こういった公的投資が、減っているということですが、GDPに対して示す比率を見ても80年代においては4.1%だったものが、今や1.5%。これも深刻な問題です。成長に関して言えば、投資は重要だからです。補助金に関して言いますと、むしろこの時期は増えています。特に農業分野に関しては電力を無料で提供するといったことが行なわれています。

 ということから、ご覧ください。この補助金がこのようにずっと伸びているということ、そして、結局投資と補助金は元々財源は同じでありますから、両者が競合することになります。その結果として補助金は増えるが、投資は減ってくるという状況になってしまったわけです。しかも補助金というのは時として悪影響も及ぼします。更に言えば、インドにおいては農業分野における加工は1.6%に過ぎません。つまり、農産物のうちの1.6%のみが加工されているというのは、付加価値が大変小さいということであり、これもまた、農業分野の低成長を説明するものとなっています。効率の悪さで言えば、枚挙に暇がありません。生産コストの問題もありますが、自由化を計る中において、生産コストだけが問題なのではなく、価格の問題もあります。そしてまた、流通価格、加工費なども問題です。

 インフラの状況が大変まずいということもあります。例えば同じ量の農産物をオーストラリアからインドに持ってくるのと、それからインドの北部からインドの沿岸地域まで運ぶのとそのコストが変わらないというようなことが言われています。つまり、道路もあまり整備されていないということから、トラック輸送などで運ばざるを得ない、そうするとどうしても輸送コストなどもかかってしまいます。

●農業分野での改革

 91年に自由化が始まりましたが、この自由化は製造工業だけでありました。農業分野において言えば農業には改革は向かないというようなことが言われていました。対外的に門戸を開放しそして競争を行なったけれどもしかし国内的な開放は図らなかったわけです。一方でマーケティングや物流に関して言えば、規制がたくさん残っていたということから、農業は大変不利な状況にありました。時間がありませんのであと5分で結論を申し上げなければいけませんが、農業に関連して言えば、例えば必須農産物法というのがあります。例えば農産物の量に応じた形でいろいろな制限が課せられております。あらゆる農産物がこの法律の対象になっています。また、こういった規制があるということは、もちろんそれなりの理由があります。40年前に食糧が不足していた、そして民間産業がかなり搾取に走っていた、ということで確かにこういった法律、統制が出てきたということは、それなりの理由があったわけですが、もう状況が変わっています。もう民間産業もきちんと機能しておりますし、市場も機能しております。そういう中で、この法律が足かせとなってしまっている、ということから、法律の改革も最近議論されるようになってまいりました。

 いろいろな制限が多いわけですが、これを段階的になくそうとしております。契約農業というようなことも行なわれております。民間投資が奨励されています。更に言えば食糧法も変わろうとしています。つまり農業分野における海外からの直接投資、FDIを誘致しようとしています。以上、事実をご紹介してきたわけですが、農業分野に関してもし、農業分野が変わるとしたら経済全体にどういう影響を及ぼすかを考えた時、農業分野の歴史的な成長率は2.65%でした。しかしこれが最近、1.86%に落ち込みました。しかしながら、これは更に1.52%まで落ち込んでいるというようなデータもあります。こういった1.6%あるいは1.86%といった成長率、そして一方で経済全体の成長率を考えた時、結局他の農業以外の分野は10%位成長しないことには、農業分野を補えないわけです。農業の分野におきまして、しかし改革が行なわれれば、もっと急成長していかなければなりません。

●農家の置かれた厳しい現状

 ということから、以上まとめますと、農業の現状は、暗澹たる状況であると。例えば農民の自殺が相次いでいる、そして都市部と農村部の格差が拡大している。あまりにも大きな格差があるがために、この成長率は改革以降、結局エリートのみが利益を享受しているのだ、というようなことを言っています。つまりインドといっても、もう2つの国だと。「インド」というのは、英語での国名です。つまりこれはエリートの国を表しています。そして一方「バハラット」というのがインドの伝統的な国名であるわけですが、そういうことからこのエリート対非エリート層の格差、あるいは都市と農村部の格差を、そういった言葉で表しています。

 いまや、40%の農家においては、利益が上がらないからもう農業を辞めたい、といったことを言っています。しかしこの状況を変えることはできます。つまり国家的な課題として、政府が中央集権的な形で何らかの措置をとっていくということができると思います。農業の成長を促すものも、いろいろ考えられます。例えばこの食料穀物から、非食料穀物へと移る、というようなことも考えられます。つまり多様化を図るわけです。また灌漑をもっと行う。そしてさらに肥料をもっと利用する。そして改良された種、種苗などを使うことも考えられます。こういうことが行われれば、インドの農業もまた、成長率を2%、あるいは3%まで押し上げていくことができる。そうなれば、インド全体として8%の経済成長を実現することも可能です。さらに言えば、2桁成長も可能です。しかし農業分野の改革なしには、そのような高成長率は望めません。以上です。


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