【シンポジウム】
英知が広げるITの夢
朝日新聞 愛知万博フォーラム
「朝日新聞愛知万博フォーラム〜ITが開く人と地球の新世紀」が8日、名古屋市熱田区の名古屋国際会議場で開かれた。2005年開催の日本国際博覧会(愛知万博)にIT(情報技術)がどうかかわるのか、不況のただ中にあるITに未来はあるのか、活発な論議が繰り広げられた。(司会は原淳二郎・朝日新聞デジタル編集長、文中敬称略)
 |
|
 |
|
 |
|
 |
広瀬通孝氏 東京大学先端科学技術研究センター教授 |
|
福田敏男氏 名古屋大学先端技術共同研究センター教授 |
|
佐々木かをり氏 女性向けサイト会社「イー・ウーマン」社長 |
|
吉田博昭氏 トヨタ自動車取締役 |
●21世紀型社会の輪郭示せるか
原 私、実は万博が嫌いです。新聞記者の駆け出し時代、大阪万博を取材した経験がありますが、広い会場を一週間、毎日駆けずりまわって取材した記憶があります。たくさん人が集まって、見る物はアポロが持ち帰った月の石。子どももたくさん見学に来ました。広い会場を見るのに疲れて、だいたい、へたり込んでいました。私も足を棒にして、歩いた苦い思い出があるからです。
その当時はディズニーランドもユニバーサルスタジオもなくて、万博が楽しみイベントだったと言えると思いますが、来場者は高度成長の果実を自分の目で確かめる作業をしたのだと思います。
映画やテレビに映し出された光景を実体験することが、豊かさの象徴と錯覚した時代だったとも思います。その直後、オイルショックが起きて、高度成長から低成長時代に入りました。大阪万博のとき、日本は大量生産、大量消費という壁に突き当たっていたと思います。その最たる証拠が公害問題で、工業社会の成長の限界がそのとき見えていたと言えると思いますが、工業社会に代わる新しい社会、新しい価値は何なのか、見えていない時代が続いていたと思います。
万博というと、よく思い出されるのが第1回万博。1867年、パリで開かれた万博です。以降、万博は近代化を進める科学技術を競って展示してきました。アポロの月の石も、近代科学技術の大きな成果だったと言えます。
ところで、ITというと、インターネットとかパソコンを思い出されるかもしれませんが、私の理解では、ITというのは情報を利用した生活の質の向上というか、効率のいい流通、決済、そしてエネルギーや時間の節約をもたらす技術で、生産、事務の合理化は第1世代のITです。これからのITは質的な面を向上させる技術だと思っています。
ITは新たな成長の原動力になるという人もいましたが、今では「IT不況」が続いています。ITに責任をかぶせるのは、機械打ち壊し運動によく似た側面があります。ITこそ、新しい社会を切り開く重要なツールだと思います。ですから、万博嫌いの私でもこの役回りを引き受けました。今日のパネルで21世紀型の万博、21世紀型の社会のありようを、その輪郭を示すことができれば成功だと思います。
第1回パリ万博のメイン会場はインダストリアルパレス、産業宮と呼ばれました。愛知万博でも、ITパレスというか、IT宮がメーン会場になれば、パリ万博と同じように、愛知万博が歴史に名を残すんじゃないか、という期待を持っています。
それでは、広瀬先生から最初のプレゼンテーションをお願いします。
●展示に生かせる仮想現実
広瀬 最近、IT不況と言われていますが、これは1年、2年のある波動のうちの一部であって、ITはもっとスパンの長い話なので、じっくり腰を据えて語っていくべき話なのかな、と思っています。
私がこの10年ほど研究しているのは、バーチャルリアリティー(仮想現実)という技術です。スライドに示しますように、ゴーグルをはめた人間が、計算機によってつくられたシュミレーション空間に入り込んで、いろいろな疑似体験ができるというのがこの技術の一つのポイントです。
マルチメディアと言われますが、計算機技術が映像技術と結びついて、新しいITの可能性をいろいろ議論できるようなになってきたということです。もちろん、それだけに、この技術の使い道によっては、いろいろ面白くないことも起こってきますから、議論も多い技術だと思っています。
バーチャルリアリティーという言葉が登場したのは1989年のことです。新しい技術です。さらに時間がたって、90年代の半ばぐらいになると、一つの分派が出てきました。ミックストリアリティーという技術です。バーチャルリアリティーという技術は計算機の中に閉じた世界をつくり上げるものです。バーチャルなシミュレーション世界との対極にはリアルがあるわけですが、そのリアルとバーチャルとを一緒に論じることができないか、という議論が登場してきました。
今まではリアリティーとバーチャルリアリティーは対立概念だったのが、その中間のものがあるよ、と言い始めたのが、ミックストリアリティーという技術の面白いところです。
例えば、このスライドを見て下さい。コピーマシンが映っていますが、それに重ね合わさって、コンピューターで描かれたオレンジの線があります。シースルーのゴーグルを通してリアルな世界を眺めると、こういうことができるのです。リアルな絵に、コンピューターの映像がスーパーインポーズされている。そういう世界を我々は眺めることができるようになったというわけです。
実は90年代から現在にかけてのコンピューターサイエンスの一番面白いのは、この点でありまして、リアルな部分、すなわち我々の目の前にある現実の世界と、バーチャルな部分、コンピューターによってつくられた世界との間でどうやって、折り合いをつけていくかという話題が最もホットなわけです。その流れは今も続いています。
モバイルという技術についてはみなさんご存じだと思います。代表的なものはiモードです。モバイルの技術も実はリアルとバーチャルという文脈のなかで語ることができます。リアルな空間の中をコンピューターを持って動き回りながら、コンピューター世界にアクセスできるというのが、モバイル型技術の本質ですから、これもコンピューターの世界とリアルな世界とのつなぎになるような話題が入っているということなのです。
これからのITはモバイルを抜きにしては語れないような状況になっていて、それだけITという概念の中でインパクトがある技術だということです。なぜかといえば、今までのコンピューターと人間との関係が逆転するわけですね。今まではコンピューターが机の上にあって、そこにわざわざ人間がやってきて、何らかの作業をするという関係でした。これからはそうではなくて、コンピューターが常に人間について回るという関係になる。そんなのは嫌だ、という人もいるかもしれませんが、ある意味で、そういうふうに、人間とコンピューターとの親和性が高くなってくる方向にあることは確かだと思います。
あまり時間がありませんので、具体的なお話を二つだけいたしますと、一つはウエアラブル(身につける)コンピューターという話題です。これは着るほどに小型化したコンピューターという意味です。昔は壁掛け時計しかなかった。ところが、今はみなさん腕時計をしているでしょう。昔は大型のステレオ装置しかなかったのが、今はウオークマンがある。そういうタイプの機械に、コンピューターがなっていくだろうということです。
ではここで、ウエアラブルコンピューターを着たモデルさんに出てきていただきましょうか。まだプロトタイプみたいな感じなんですが、愛知万博で使おうとしているウエアラブルコンピューターです。肩に注目していただきたいのですが、GPS(全地球位置把握システム)がついていまして、これによって歩き回った場所を計測できます。背中には、コンピューターが入っているんですね。まだかなり大きいので、リュックサックみたいな感じなんですが、ここで見たり聞いたりしたものを記憶できたり、しかるべき場所に行くと、しかるべき映像をゴーグルの中に表示したりすることができます。
のちほど、ITS(高度道路交通システム)の話が出てくると思いますが、もう一つの話題がユビキタスコンピューターというものです。街路空間に電子的な仕掛けがしてあると、うれしいという話です。
例えば、このスライドは我々の大学の庭なんですが、今計画しているのは、ここにいろいろな電子タグを埋め込もうとしています。そうすれば、たとえば、感覚器に障害があるような方たちに、電子的な手段を使うことによって、いろいろな情報を伝えることができるでしょう。ウエアラブルコンピューターと組み合わせて、目の見えない方や耳の聞こえない方にいろいろな情報的支援を行うことができるんじゃないか、と考えています。
万博のなかで、どうしてこういう展示をやるのかについて、申し上げておきましょう。情報技術を使うことによって、従来型の万博とはかなり違うことができるんじゃないか、と私は考えているんです。つまり、環境に悪い影響を与える建物をパビリオンとして建築することなしに、情報という概念だけでいろいろな展示ができるのではないか、と考えているわけです。今、見ていただいたものは本当のプロトタイプで、できることは限られているんですが、たぶん、情報という補助線を使うことによって、現在の閉塞的状況を打破できるのではないかと思います。これまで万博の計画段階でいろいろな議論がありました。反対派も推進派も、リアルな空間しか考えてこなかったので、問題が難しくなったということもあると思います。ITという考えを導入すると、そういう議論を超越したところから話ができるんじゃないか、と考えて、こういうことをやっているわけです。
原 ありがとうございました。ウエアラブルコンピューターの概念は、たぶん、21世紀型万博の一つの重要なファクターになると僕は考えています。次は、もう一つのキーテクノロジーとなるロボットについて、福田先生からお願いします。
●ロボットが生活を豊かに
福田 広瀬先生の方からバーチャルリアリティーとウエアラブルコンピューターの話がありましたが、私の方はITからRTへ、RTというのはロボットテクノロジーなんですが、そちらの方に行こうという話であります。
みなさんの家に電話線のない家はないですよね。今から、30年も40年も前だったら、電話線があるほうが珍しかったかもしれません。考えてみれば、私にとって、ITというのは、生活必需品で水道の蛇口と一緒なんです。家を建てるとき、もともとあるのが当たり前であって、ないのがおかしい。そういう状況ですから、ITというのはあるのが当たり前という時代になっている。
それをもとにしてVT、バーチャルテクノロジーですが、それからRTです。広瀬先生も実は、15年前は私と一緒にロボットの方の研究をしていたのですが、先生はいつのまにか、VTの方に逃げてしまったのですが、私の方はまだRTにいるということなんです。
ITというのは、いろんな情報をいかにうまく活用するかです。バーチャルリアリティからRTへ、VTというのは先ほど(広瀬)先生が言われましたように、ミックストリアリティーでリアルに近づこうとした。僕の方は、RTで、ロボットの方にさらに進んでいった、そういうスタンスなんです。
(広瀬)先生のバーチャルというのは、そういうふうに感じてみるとかですが、私の方は実際にさわってみるというスタンスです。そういうのはたくさんあって、私にとって、移動ロボットが多数台あって、制御機構で上手に動いていくというのがITSです。万博でロボットもたくさん使われるでしょう。そのたくさんロボットがいるときの、ロボットテクノロジーを交通整理するのを具現化したものがITSであると、私はみています。
そのほかロボットに必要なのは、インタラクション(相互作用)が重要なんですね。ITだと、情報だけで下界とのインタラクションがない。
触ってみるとかいうのが重要で、後から出てくるメディカルな分野では、手術をする場合、今では、たくさんCTスキャンして、手術前にミーティングして、どういうふうに手術をすればいいのか、いろいろ検討を行います。こういう場合も、バーチャルな感覚から、実際、手術のときはリアルです。メディカルな分野は、ITからRTへの典型例です。
それからエンターテインメントやエデュケーション(教育)は、ITが活躍しているところですが、実際、触ってみないといけないという教育もある。ITからRT、RTからVTにいく、エンターテインメント、エデュケーション等、世の中にたくさんあるということです。
ロボットと人の関係をみると、基本的に世の中には人が生活しているわけです。その中で、情報のインタラクションがあり、物理的なインタラクションというのがRT、ロボットテクノロジーの得意とするところです。先ほど、ウエアラブルというのがありましたが、この知能体とというか、だいたい、このコンピューターがあるところに人が行くというのは、僕は嫌いなんですね。コンピューター側が人間についてくればいい。そこでコンピューターに足がつけばいい。それがロボットです。
ですから、ロボットは人間の意志に応じて移動してくれればいい。高齢化社会で、福祉、看護が必要だというが、ロボットがそれをやってくれればいいし、病院に行くのが嫌いだという人は、遠隔診断をやってみればいいでしょう。ロボットだったら、遠隔制御の例では、名古屋からアメリカへ遠隔制御してロボットが動いているわけです。
実際に遠くの人と握手をすることも可能です。どれくらい力を入れて握手してくれるかなんて、遠隔操作で実際すぐに分かるもんです。
教育も重要でして、国家百年の計は教育にありですから、このあたりもうまくやらないといけない。情報のインタラクションがある。これからロボットというのは、大いに活躍する場がある。重いものは持ってくれるし、年齢はあまり関係ない。
これからロボットの役割を考えると、高齢化、人口の減少が進むなかで、ロボットには、大いにプラスの部分をみるとたくさんあります。重労働から解放されるし、いろいろやってくれるし、都合がいい。
今日もたくさんのロボットがデモしていますが、人間が指令はしていないのに勝手に動いているという社会がありえます。僕自身は人間社会を考えると、1人で成り立っているわけではありません。ロボットもたくさんの台数からなり、社会を構成している。これからは人間・ロボットが大いに助け合うのが期待される。
広瀬先生がユビキタスコンピューター、私はユビキタスロボット。相談したわけではないですが、20年来、知っていますと以心伝心で伝わるところがあります。みなさん、これまでロボットというと博物館や展示会場に見に行った。ところが、これからはロボットはどこにでも、いつでもあるわけです。家庭のなかにでもあり、アイボがペット型ロボットとしてありますが、そういうのは当たり前の社会になってしまうわけです。
ITSとか、秘書の役割とか、アミューズメントをやってくれるロボットも出てくるでしょう。夢のロボットには、ITというものがないとできないのですが、と同時にリアルな感覚と、それをやってくれるのがロボット技術ですが、これからはこういう仕事はやってもらい、私たちは家でインテリジェント(高度)なヒューマンライフを楽しめる。老若男女の区別なくできる社会、そういうのができるでしょう。そういうふうに未来を思っているのです。今日は、ロボットの少しバラ色のところを強調して話しました。
原 ありがとうございました。
|