【シンポジウム】
英知が広げるITの夢
朝日新聞 愛知万博フォーラム
●衣食住の未来像示す新技術
原 アメリカがCOP7京都議定書の署名を拒否しているというのは、やはりITによるエネルギー需要の増加が背景にあるといわれます。去年のカリフォルニアの大停電もそのせいではないか、ということがまことしやかにいわれている。ロボット技術で、そのへん解決できませんか。
福田 まあ今のところ、2005年までには無理でしょう。ロボット技術は、今はロボットそのものを作るのに夢中でしてね。エネルギーは、どんどん使えるだけ使え、望みの動作を実現しよう、というのでやっていますから(笑い)。いずれ、そういうことを考える段階にきたとき、たぶん、10年先には落ち着いてくる。エネルギー問題というのは基本的にはこういうことだと思います。みなさんの家にもあるファクスとか、いろいろな電子機器があるでしょう。あれは使っても本当はちょっとですよね。
それから電話。電話機は電話線で電力も供給している。昔はそれで足りた。でもみなさんの電話機は色々な機能が付いているから、外から電力の供給がいる。みなさん方は平均で電話を1日にどれくらい使っているかご存じですか。NTTの調査によると、みなさんの家庭用の電話は1日に18分程度。24時間のうち、18分以外の電力は捨てている。中間待ち受け電力ばかり無駄に使っているわけです。そのためにファクスでもコピー機でも、使わないときは電気が落ちている。ああいう技術は日本は進んでいるんです。
100年前に比べて皆さんがどれくらいエネルギーを使っているか、そういう調査もある。ホースパワーで換算すると、だいたいアメリカが45頭ぐらい。日本は25頭くらい。中国が9頭くらいです。アメリカは省エネなんて考えていない。日本はここ20年ぐらいかかってようやく1頭分くらい減らした。そこから考えると、何もしていないのではなくて、エネルギーを減らすために激しい技術革新が進んでいる。携帯電話でも5年前は1日しかもたなかったが、今では2、3日もつようになった。
先ほどエネルギーへの警告の話がありました。私の学生時代もローマクラブが『成長の限界』というリポートの中で、未来の人口爆発や原油の枯渇などの警告を出した。するとみんなが抑制する。なんとかしようとあれやこれやほかのことを探す。そうすることで消費が下がってくる。ITならオンザデマンド、オンザスポットでやる。そうすれば下がってくる。ロボットだけでは、現段階では下がらない。
原 そろそろ時間になってきました。ITを使ったら、どんな愛知万博が可能になるのか。広瀬先生いかがでしょうか。
広瀬 エネルギーの話で追加的に申し上げて、愛知万博へのメッセージにもなればと思います。先ほどの原発何基というような話は、まさにエネルギーというインデックスで世の中を語っている訳ですよね。でも、それだけではダメなんです。それで答えが出ないのが、今の閉そく状態だろうと思います。むしろエネルギーの質とかを考えなければいけない。エネルギーの量は減っても実はエネルギーの質が高くなっている、というのがエントロピーの話なんですから。エネルギーの量の議論にどっぷりつかっている現在の我々にとっては、難しい話だと思うんですけど、21世紀に向けて、そういうメッセージを出すことができればなあと、私は思っているわけです。
福田 今回の万博は「自然の叡智(えいち)」というテーマ。それは環境ということなんですが、そこにIT、VT、あるいはRTを使ってどのようなことができるか。いろいろある。例えばエミッションゼロの世界はどうなるのか、最先端の技術の燃料電池はどうなるか、鉛ゼロ世界はどうなるか、など色々見せる。燃料電池は出すのは水だけなので大丈夫です。また、衣食住はこうなりますというようなショーケースを、ITで、VTで、そしてRTで示すのは非常によいでしょう。とにかく面白く、表現することが大事です。あと言って置きたいのは、エントロピーというのは基本的に増加するものなんです。「エントロピー増加の原則」というのがあって、減ることはありません。その上がり方を減らすにはどうするか議論し、万博がそうした場を用意できればいい。
●ITと心の乖離どう埋める
佐々木 イー・ウーマンでは、いろんなアンケートを行っています。例えば航空会社名を出して、国内旅行ではどういう航空会社を使いますかとEメールをメンバーに出すと、1日、2日で1000人以上の人から返事が返ってくる。返事が1通ずつ増えていく様子がリアルタイムで見える。そしてイー・ウーマンの特徴はものすごい量の書き込みがあることです。自分の意見がびっしり書き込まれている。今日は自動車メーカーのものをもってきました。ブランドイメージはどうですかなどを聞いてみたものです。
今度の万博は何年も先ですから、ますます技術が進んでいきます。ぜひインターネットで双方向なものをやってほしい。その期間、その場所だけでなく、違うところからも参加できる。そして声が集まる。それを加工して会場に持ち込むという、時と場所を超えたようなクリエーションをしていただきたいです。それと万博は楽しいものなんですよね。驚くとか楽しいという体験をできればいいと思います。大阪万博ではケベック館に行ったとき、ケベックの衣装を着たお兄さんがいたというようなことを今でも覚えています。もしかしたら、建物がなくても人がいなくても、さっき先生からお話があったように、バーチャルリアリティーの空間で、眼鏡をかければ違う世界が見えるというような展示ができる。パビリオンに並ばなくても、ボタンを押せば、その国に旅行に行ったみたいに歩けたり、言葉が聞こえてきたり、会話もできる。そんな海外旅行体験ができるかもしれない。そういう体験や体感をして場所と時を超える。あと私の立場から申し上げれば、今までと違って女性、地方の方、障害のある方、子どもたちとかの声がきちっと反映された万博になってほしい。そうなれば私も子連れで行きたいです。イー・ウーマンもお手伝いできればいいなと思います。
吉田 まず万博のあり方に入る前に考えなければいけないことがあります。我々は一人ひとりが生まれ落ちてから悩んで考えて悟りを開いた瞬間に、土に戻っていく。人文科学といいますか、哲学の世界というのは、ギリシャ哲学からいまだに超えてないと言われています。ところがITに代表されるような自然科学というのはどんどん蓄積していく。人類が生まれてから歴史の中でどんどん両者のギャップが大きくなっているのではないか。このあたりを利便性を広げる技術と、それを使う主人公の人間の心の問題をもっとみつめ直さないといけない。
インターネットの世界を例にとっても、確かに利便性は高まります。でもその利便性の裏には必ず危険性だとか、それによる阻害要因もしくは負の遺産のようなものもあります。カーメーカーで見れば、車を使えば確かに便利です。従来なら鉄道のように決められたところにしか行けないのが、車は個人個人の意思によって好きなところにいつでも行ける。ただその代償として安全の問題、環境の問題が出てきた。私どもはこのことに気が付くのが遅すぎました。このITSの取り組みはトップの命令で取り組んでいる。従来は、こういった負の遺産というのは企業人としては目をつむっていた。それに真正面から取り組まなければいけないと、いま正直反省してやっております。
今度の万博についても、このITというものが今後の自然科学と人間科学、いわゆる心との乖離(かいり)を生まないように。今我々が反省しているようなことが起こらないように。世界の各国から集まられる方々、若い世代に、深刻な形ではなくてですね、あらかじめこういったことに注意してITを使えたらいいなあ、という情報発信の場としても、いいメッセージを送りたい。21世紀になって、人間が自分たちで生み出した技術、ITのようなものが本当の意味で主人公の人間を忘れないで人間がますます豊かになる。そうしたところへ行くためにも、さっき先生方にも申し上げていたんですが、ITという言葉は私は大嫌いなのです。なぜもっと日本語で分かりやすい言葉にしないのか。明治の方々は海外のいろんな事象を見て言葉をうまく訳された。そのように、ITのようなものを自らの我々のための言葉に置き直し、我々一人ひとりの生活のために使っていく。
それから企業も世の中も、やれGDP(国内総生産)だとかROE(株主資本利益率)だとかいっていますが、それでは例えば社員の本当の満足度を定量化してみる。また、心の満足度指数とかを日本の国という単位で見てみる、というようなパラメーターも、21世紀は考えていく時代ではないか。そういったことを提案できる万博になればいいと思っています。
原 万博は名古屋にとって、大阪のユニバーサルスタジオや東京のディズニーランドを上回るようなイベント効果を期待しているのではないかなと僕は推測しているのですが、ユニバーサルスタジオも、ディズニーランドも、実はバーチャルリアリティーやITのかたまりなんですね。だから愛知万博がITを駆使すれば、必ずユニバーサルスタジオやディズニーランドを上回るイベントや遊び、何かを体感、実感できるようなものができると思います。ただ、問題は集客。ITを駆使すれば、佐々木さんがおっしゃったように世界中から参加できるかもしれないが、名古屋に来てくれる人は逆に少なくなってしまうかもしれない。そうすると、経済効果はディズニーランドなどより少なくなってしまうかもしれない。そのトレードオフをどのように克服するか。そこはやはり「自然の叡智」ではなく、人間の英知だと僕は思います。(笑い)。時間がきてしまったのでこの辺で終わりにしたいと思います。参加者のみなさん、ありがとうございました
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