asahi.com  
天気  辞書  地図  サイト案内  アクセスTop30 
サイト内検索:
シンポジウム 社 会 スポーツ 経 済 政 治 国 際 サイエンス 文化・芸能 ENGLISH 
 
 
住まい仕事・資格BOOKマネー健康愛車教育ネットオフタイム囲碁将棋beコラム  
  home >シンポジウム    

シンポジウム「安全保障の今日的課題」

【パネルディスカッション】1.イラクでできること、できないこと(2)



緒方貞子さん

 緒方 人道援助をやる人間がターゲットになっているということが明らかな場合は、私どもはいつも引きました。それは、援助ができないからなんです。

 今武見先生がおっしゃった全体的な論点はまさに私もそのとおりだと思いますし、熊岡さんのおっしゃった、側面しかできないというのも、結局は紛争の激しさの認識の程度だと思うのです。

 戦争をやっている中では、ほんとうに復興援助はできないのです。ただ、イラクの場合は4月ごろにはかなり戦争が進行して、ある種の成果が上がったわけです。このまま進むのではないか、治安は維持できるのではないかということで、復興の計画等もいろいろ考えられていたと思うのです。

 ところが、夏ごろからの様子を見ていくと、国連もあれだけ厳しいターゲットになって、私のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の同僚も殺されるようなことが起きました。そういう中で、一体文民に何ができるのかということが現実の問題として、そこに人々を派遣している責任者が判断しなければならない事態になったと思います。

 ではその間に何ができるかというと、なるべく早く治安が回復するのを見守るより仕方がないのではないかと思います。治安に当たっている米英軍の手で、きちんと治安を回復してもらわないと、それ以上のことをNGOや文民に期待するのは怖いという感じを私は持っております。

 というのは、状況は同じではないのですけれども、バルカン紛争、特にボスニアの場合は、民族浄化が唱えられて、違う民族を追い出す、その人たちをターゲットにするという国内紛争がずっと長く続いて、犠牲者が非常に多く出ました。国際機関も平和維持軍も出したのですけれども、今の国際社会の中ではそういう紛争に対応できる紛争解決のメカニズムが何にもないというのが私どもの実感でございました。

 ない中で何をするかというと、人道援助をする人々がそこにいることしかしようがないのです。そこにいる、つまりプレゼンス以外の方法で、民族浄化の対象になっている人たちを守る方法がなかったのです。

 ですけれど、今度は平和維持軍のほうが戦闘行動に出た場合には、やはり文民はいられない。いられないときは引き揚げる。引き揚げて様子を見て、また出ていく。非常に不完全なのですが、やはりそれ以外にやりようはなかったと。

 NGOも政府も、それぞれ送り出している人たちに対する責任はあるから、その辺の判断は極めて大事だと思っています。ですから、答えははっきりはないんです。けれども今のイラクの場合は、もっと戦争が激しくなるのか、もう少し平和のほうへ向かうのか、総理もたしかその点はわからないっておっしゃいましたよね。まさにそれが正直なお答えだろうと思います。ただ、わからないけれども、やっぱり人を出すときは、それを見極める責任というものがあるのではないでしょうか。

 百瀬 ありがとうございました。今のお話は主にNGOとか政府の関係者とか文民の問題について述べられたと思いますけれども、治安維持というか、治安を回復する、そういう任に当たっている軍とか警察、まあ、軍でしょうね、現状については、山影先生、どんなふうにごらんになっていますか。

 山影 まず、一般的に言えば、「人間の安全保障」でかかわるような場合には、国連にせよ、NGOにせよ、ある意味では中立的であるので、攻撃の目標になりにくい。むろん残念ながら突発的、散発的にそういうことが起きてきたのが現実ですが、平和回復あるいは復興支援を考えるときには、少なくともそうしたものに関与する人たちがターゲットにはならない、あるいは、なりにくい状況を前提としての上での話だと思うんです。それは非常に強い武力や治安軍があって、反対勢力を抑えつけているということよりは、むしろ相対立する、あるいは敵対する両方の勢力から、ある程度中立的な存在であると認識されるのが実際に活動できる条件ではないかと思います。

 私は自分自身は防弾チョッキを着て行かなくてはならないところには行ったことありませんが、残念ながらイラクの状況は、日本側の意図が何であるかにかかわらず、ターゲットになるかもしれない、そういう危険性が今増しているのだと思います。

 多分、これはもう「人間の安全保障」という問題ではないと思います。別な観点から、例えば国際社会における制裁でもいいですし、あるいは、国連の安全保障理事会のある種の決議に基づいた行動、そういったことを考えてもいいかもしれませんが、「人間の安全保障」の延長線上で自衛隊がある地域の治安を担当する、あるいは、治安を維持するためには自衛隊が必要だというときには、自衛隊の派遣をしていいかどうかは別にして、今起こっている状況は、「人間の安全保障」のための人道支援をより実効性のある状態にするためにある種の治安が必要だという段階ではなくなりつつあるんじゃないかというふうに、私は若干心配しております。

 百瀬 ありがとうございました。おっしゃるとおり、どう見ても「人間の安全保障」を進めるような事態ではないような気がするんですけども、じゃあ、どうすればいいかというと、山影先生が今、中立的な存在のようなものが必要なのではないかと言われたんですが、残念なことに現状はそういう状態にありません。

 それでは少しでもそういう状態に戻すのにどういう手だてがあるのか。これは「人間の安全保障」の話から離れるのかもしれませんが、武見先生、どんなふうに考えておられますか。

 武見 秩序を混乱させることによって利益を得ようとしている、そういう政治グループがある。例えばバース党の残党、それから外国から来たアルカイダのようなテロリストたち、それからまた多くの刑務所から釈放されてしまった犯罪者たち。こういった人たちを大衆から孤立させて、こうしたテロリズムに対してイラクの人々が厳しい姿勢で臨み、むしろ彼らと闘う意思を持つような政治環境をつくっていく、そういう努力をできる限り外側から、外交的にやれる範囲内で積極的にとり行う。

 現実に、今のCPA、統治評議会の体制というものの限界がもう既に明らかになっていて、2004年6月の段階で主権を移譲して、新たな暫定政府をイラクにつくるというシナリオがおおよそできております。2月には基本法を制定するなど、さまざまな行動指針が実はできているのです。

 これらを実行するのは難しいだろうと思いますが、できるだけ民心を安定させて、より広範囲にわたるイラクの政治グループが共存し得るような暫定政府と、それを支える政治の仕組みをいかに支援してつくり上げていくのか。その中で、国連の枠組みというものをどのようにより積極的に組み込んで、国際社会におけるレジティマシー(正統性)を確立して、米英軍等に対するイラクの人々の反発を回避する、そういう流れをつくっていくのか。

 しかし、たとえ6月に主権が成功裏に暫定政府に移行したとしても、この暫定政府がイラクの治安秩序を全土にわたり維持していく能力を直ちに持つとは思えないんです。その陰には、それを補完する必要な軍事力として、米英軍をはじめとした多国籍の軍事力がやはりあり得るんだろう。

 これをどのような形で維持させていくのかということを、国連の枠組みの中で改めて再確認していく。そしてできる限りドイツやフランスやロシア、中国といった安保理の主要国も参画するような形で、新しい治安秩序維持のための多国籍軍的存在が確保できるようになれば、多少はイラクの将来に光が差してくるのかもしれない。

 今私が申し上げたことは、まさに薄氷を踏む以上に難しいシナリオでして、頭の体操として申し上げただけであります。





| 社会 | スポーツ | 経済 | 政治 | 国際 | サイエンス | 文化・芸能 | ENGLISH |
GoToHome ニュースの詳細は朝日新聞へどうぞ。購読の申し込みはインターネットでもできます。 GoUpToThisPage
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。