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シンポジウム「安全保障の今日的課題」

【質疑応答】(2)



 百瀬 終了時間になっているんですが、もしもう一つか二つ、どうでしょうか。先ほどの方、いかがですか。どうぞ。

 ――安全保障という根本的な問題を質問したいと思います。

 イスラエルとパレスチナで、ああいうふうに繰り返される破壊的な行動、あれを見ているとやはり、どうしても国民という下の立場から見てしまうんですけど、圧倒的なイスラエルの軍事力、抑えつける力、そして壁をどんどんつくったり、パレスチナの土地をどんどん奪い取ったりする理不尽な行動。後ろにアメリカがついていて、ああいう乱暴なことをするわけですけれども、例えば、緒方さんにお聞きしたいんですが、緒方さんはアメリカにいろんな人脈があると思うんですけれど、ああいう理不尽なものに対して、少しでも自分の力で抗議して、少しでも正しい方向に向けたりすることはできないんでしょうか。

 ちょっと反米的な質問になるかもしれませんけれども……。

 ――ちょっとお伺いしたいんです。

 現実的に「人間の安全保障」を進めていくに当たって、ほかの先進国などに比べて、日本、または日本人に足りないと思うものがありましたら教えていただきたいんですけれども。よろしくお願いします。

 百瀬 ありがとうございました。

 それでは、緒方さん。

 緒方 中東ですか

 百瀬 はい。

 緒方 中東問題というのは、今の国際政治の不安定の根本にある一番大きな問題だろうと思っています。そして、アメリカにもたくさんの友人がいまして、あなたのおっしゃったようなことを考えているアメリカ人もたくさんいるのです。

 私は、ジェニンの殺害問題について、事務総長が事実を調査するグループをつくったときに、指名されて、もう少しでそのグループに入るところでした。

 ですから、あなたのおっしゃったような形での中東問題について、私としても何とか話し合いをして、両側がもう少し歩み寄ってくれなければどうにもならないという気持ちは持っています。

 実はきのうでしたか、ジュネーブ・イニシアティブというのがあって、ジュネーブでかなり穏健なイスラエルの人とパレスチナの人が一緒に集まって行動を起こす、そのマニフェストにはサインもしました。

 ですが、私がアメリカの新聞にわざわざ文句を言ったりしても、あまり効果は上がらないと思うのです。一番困っているのは、非常に辛いと言っているのは、アメリカのユダヤ人で、しかも穏健な人ほど苦しい思いをしているのです。

 ヨーロッパの国々とアメリカの関係が大変難しくなっている、その原因には、中東問題に対する取り組み方の違いがあるのです。

 ですから、それは極めて大事な外交政策であって、日本もそういう考え方をすべきだと思います。ただ、日本がユダヤ人問題について中心的な役割を果たせるかどうかということについて言えば、先ほど私は学生さんに勉強しなさいと言いましたけど、もっと歴史を勉強することが非常に大事だと思うのです。やはり歴史的な積み重ねというものが、こういう場合に外交の取り得る手段の限界と可能性をかなり制限しているのだろうと思います。

 おっしゃるように、中東問題については、私は2000年にはあの地域に行きましたけれども、あの壁についてはやはりとてもひどいことだと思っています。入植地域がどんどん広がっていることもこの目で見てきました。

 ですが、それ以上、私には旗を振る役割は果たせないだろうと思います。

 百瀬 それから、最後の質問に、山影先生、もし一言ございましたら。

 山影 その前に、中東問題に関しては、日本は別にアメリカに追従しているわけではなくて、パレスチナ、あるいは被占領地域に対して大変な援助と、人を送っているということを言っておきたいと思います。外務省の方が宣伝が下手なのかもしれませんけど、国際政治を見ている者からすると、結構頑張っているなという印象を受けております。
武見敬三氏

 武見 こうした「人間の安全保障」のアプローチを進めていく上で、この国に何が足りないかというお話がありました。これは政府の側からも、あるいは、我が国の市民社会の中においても、足りないものはたくさんあるんです。

 例えば伊藤さんや熊岡さんのように、NGOをみずから運営されて、そして現地にも赴いて、実際に仕事に当たることができる人たちが大分育ってきました。しかしまだまだそういった人たちの数は他の先進諸国と比べて少ないし、同時に、NGOが実際運用し得る資金的な規模も他の先進諸国と比べるとはるかに小さいんです。

 こういう状況の中で、どうすれば自助努力を基本にしながらも、我が国の中でほんとうに意義のある仕事のできるNGOが育ってくるか。またそれを支援するための政府の政策はどうあるべきかということを考えなければいけないと思います。

 そういうときに、今までの我が国の政府のODAにかかわる政策の策定という機能を見ていくと、実は必ずしもこうしたNGOを積極的に取り込んで、育て、支援し、そしてパートナーとしてともにマルチとバイの観点から「人間の安全保障」的なアプローチを進めていくという政策決定機能が十分とは言えない。霞が関の本省レベルにおいても、あるいは、途上国におけるドナーコミュニティー(拠出国・機関)援助としての大使館やJICAの事務所、JBIC(国際協力銀行)の事務所も、あるいはNGOの出先の人たちとの連携という観点からも、非常に不足しているんです。そういう問題意識に基づいて、ODA大綱というものが新たに改定されたんです。

 そのODA大綱の改定の中で、縦割り行政の我が国のODAにかかわる政策決定機能というものを、できる限り各省庁が調整して策定ができるような、そういう政策決定機能が新たに組み込まれました。

 加えて、現地において、大使館の中でも、実際にそういうODAの担当者が孤立して政策を策定するのではなくて、JBICやJICAやNGOの人たちとタスクフォースを組んで、できる限り現地のコミュニティーのニーズに近いところでそれを確実に案件として選択をして、実行できるような政策を策定できるようにということで、政策決定機能の現地機能強化というのが、このODA大綱の中に組み込まれているんです。

 このODA大綱というのは、そういう意味で、実は非常に画期的で、そして新しいこうした「人間の安全保障」的アプローチを実行していくための官民のあり方というものさえも踏まえた形で、方針が策定されているというふうに私は思っております。

 問題は、それをいざこれから実行するということでして、それを実行するときにはまだまだ関係省庁の縦割りの縄張り意識は強いんです。それから、同時に、現地でそういう連携をとってやろうということを考えたとしても、実際には現地の各部署の人たちが今までのルーティンの仕事の枠からなかなか離れられない。まさにそうした問題意識を変えていただくために、この「人間の安全保障」という理念と、政策概念がものすごく今必要になってきている。このODA大綱の新たな改定の指針と、人間安全保障という政策概念は、私は表裏一体になっていると思っております。

 今あなたがご指摘になった、日本に足りないことがこの中にたくさん含まれているんです。

 百瀬 ありがとうございました。

 時間が大分超過してしまいましたが、大変長い時間ありがとうございました。

 そして、なかなかテーマが難しくて、まとまりが悪かったかもしれませんが、お許しください。

 緒方先生はじめパネリストの皆さん、お忙しいところありがとうございました。(拍手)

 司会 皆様、長時間ご清聴いただきましてまことにありがとうございました。

 本日のシンポジウムでございますが、緒方貞子さんの、人間の安全保障委員会の報告書の日本語版が11月に朝日新聞社から出版されたのを機に開催されました。

 本日はこの『安全保障の今日的課題』、こちらの本をロビーで販売いたしております。

 また、購入の申込用紙もございますので、本日を機会にご購入いただければ幸いでございます。

 このシンポジウムの内容は12月14日付の朝日新聞朝刊で特集記事として掲載する予定です。

 また、新聞掲載後には朝日新聞のインターネット版アサヒ・コムのほうでも全容を掲載いたします。

 本日はお忙しい中ご来場いただきまして、まことにありがとうございました。

―― 了 ――




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