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朝日新聞シンポジウム「世界が見るアジア――著名コラムニスト鼎談」
前半:ウィリアム・ファフ (冒頭スピーチ)

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ウィリアム・ファフ氏

 ファフ 船橋さん、ありがとうございます。本日の討議のために非常に野心的なテーマを提起されたと思います。私たちは今提起された論題に対して意見を述べるとともに、アジア、そして日本がこれらの問題にどう反応しているのかを勉強するチャンスにもなると思っております。これらに対してもちろん、私たちに明確な答えがあるわけではありませんが。

 そこでまず、私はこれらの問題について、アジア、特に北東アジアにおける政治的な問題、あるいは地政学的な問題といってもよいかもしれませんが、そこから始めたいと思います。それは朝鮮戦争終結以来、過去50年間凍結状態にあるものです。しかし今、この50年間の経過後、氷が溶け始めています。そして混乱した、時には恐ろしいあり方ですが、状況は変わり始めています。

 私は、最初に論じなければならない二つの大きな問題が起こっていると思います。第一に中国の興隆であり、第二に米国の危機です。

 中国に関して私の感じることは、中国の力について今日、非常に過大評価がなされる傾向があるということです。もちろん、中国のGNP(国民総生産)あるいはGDP(国内総生産)が近年驚異的な成長を遂げていることを十分に承知した上で、私はなおそう思うのですが、この経済的成功は外国からの投資にもとづくものであり、さらに輸出志向のものです。つまり、最先進工業国に奉仕するものであり、自立的な現象、中国経済自身の発展に役立つのではありません。

 中国は自分自身のテクノロジーで自立的な発展を実現しているわけではないのです。先進的な技術革新国ではありません。将来はそうなるかもしれませんが、現在のところは派生的な経済です。

 第二に、われわれは中国が直面している、必然的で切迫した政治危機の深刻さを過小視しています。共産党政権――あるいは共産主義がダイナミックな力であった頃の規範にしたがって運営されている元共産党政権といってもいいでしょうが、その政権のイデオロギーは知的にも道徳的にも疲弊してしまっており、急速に近代化しつつある中国社会の大衆、特にエリート層に向かって影響力を発揮する自らの力に懸念を感じているのです。

 国民が変化するにつれて、政権に対する文化的な挑戦があります。それは西欧から、カール・マルクスから、ソ連から取り入れた人工的なイデオロギーを、文化的ルーツを剥奪された中国に適応させるという挑戦です。毛沢東主義時代の中国では伝統的な宗教、道徳が容赦なく攻撃されました。

 過去の共産主義社会を見ると、どれもなんらかの方法で同じような危機を通過し、そしてその結果良くなったか悪くなったかはともかく、現代世界に適合していったのです。これら多くの諸国は深刻な危機を通過することによってそうしてきたのでした。しかし、中国はこの危機を乗り越えるか、それと戦うか、あるいはひょっとしたら危機に負けてしまうか、結果はどうであれ、まだそのような経験をしていません。

 さて、私たちにとって最も気になる中国の外交政策ですが、うたがいもなく中国は過去にそうだったように、文化的、政治的影響力の分野で自分の優越性が認められた地位を獲得したがっています。中国は昔から中華思想を持っており、近隣諸国が中国に対して敬意を表することを望みます。

 しかし、日本が中国に対してそのような敬意を表するとは思えません。しかし中国に隣接する多くの社会や地域は、そのような敬意を表するよう、強い圧力のもとにおかれるでしょう。その明白、かつ危険な例は南の海洋地域であり、特にもちろん台湾に関してであります。

 現在、極東における米国の存在が中国のこのような可能性に制約を加えています。しかし歴史を見ればわかるように、中国は現在もそうだし、過去もそうだったように、イデオロギー的な力をもっているわけではありません。

 それに対して西欧社会は常に基本的に拡張主義者、文化的に拡張主義者でした。西欧社会はユダヤ教社会もキリスト教社会も、イスラム社会もそうですが、自分自身について語るべき物語を持っている社会だからです。歴史的使命感であり、どこかに出向いて果たすべき普遍的な使命があるということなのです。わたしは中国が世界社会において自分の位置、自分の野心をそのように認識することはないと思います。

 中国と米国の衝突はあるでしょうか? ありうるとは思います。たしかにとりわけ台湾に関してはそうです。しかし、今のところ実際にどのような成り行きになるかを正確に予測するのは難しいのですが、それはアメリカの政策、というよりも私がアメリカの危機と言いたいもののなり行きにかかっています。中国にとって、これが軍事的危機になるのを許すのはまったく賢明なことではありません。しかし、中国は北東アジアにおけるアメリカの永続的な軍事的プレゼンスには抵抗するでしょう。

 このことは、世界の経済大国の一つである日本についての問題を提起します。日本は第二次世界大戦後、安全保障面でアメリカに依存し、アメリカの軍事基地が日本にあります。戦後60年もたってこのような状況であることは、中国の目には名誉を傷つけるものだと映るでしょうし、さらに他の諸国には不適切だと見えるでしょう。日本が世界で自主的な役割を果たしたいと主張することと首尾一貫しないとも見えるでしょう。

 アメリカについてはどうか。現在のアメリカの認識、世界におけるその適切な役割についての認識についてつねに起こる問題があります。リベラルな認識では、アメリカは世界における善意の地政学的リーダーであるとします。現在のアメリカの軍事的、政治的分野におけるリーダーシップ、経済面での中心的地位と支配力がそれに近似しているというものです。

 しかし、グローバルな役割、政治的、安全保障面でのグローバルな役割を果たしたいという欲求は一面では、アメリカ自身の弱さの自己認識から発しているものなのです。それは過去には孤立主義の政策に見られ、アメリカが19世紀の初めから第二次世界大戦の開始まで実行した政策でした。そしてそれは再び台頭しています。

 ワシントンの専門家はアメリカが直面する一連の課題を列挙するでしょう。グローバルなテロリズム、大量破壊兵器の拡散、失敗国家の問題、そして中国がそうであると認識されているような新しい挑戦。アメリカはこれらの問題についてなんとかしようと思っていますが、これら問題の本質からして、いずれについても決定的なことはなにもできません。そしてこれがアメリカにおける不安の源なのです。

 それはおそらくイラク問題、中東問題に一番よく現れています。しかし、それはもっと大きな問題であります。イラクはある意味でパラダイムであり、基本的にナショナリズムの抵抗勢力に対抗してイラクを民主化しようとすることは、少なくとも軍事状況を見る限り勝利なき戦いです。その一方、敗北することもアメリカの関係者にとってはあってはならないことであり、考えることのできないことであり、グローバルな不安定化をもたらすことなのです。

 ここにジレンマがあります。解決方法はいくつもあります。それらがアメリカ以外で感じられていることが問題なのですが、それはアメリカ国内で今後継続する論議の口火を切らせることになり、その結果再び、孤立的な立場とはいわないまでも――アメリカが道義的な孤立主義に戻ることは不可能です――、ブッシュ政権がコミットしている、ある意味で覇権的な役割を果たし続けるという野心からの撤退という問題に導くかもしれません。まだ他にも話したいことがありますが、ここでいったん止め、マイクをトーマス・フリードマンに渡すことにします。


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