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朝日新聞シンポジウム「世界が見るアジア――著名コラムニスト鼎談」 |
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船橋洋一氏 |
船橋 ファフさん、フリードマンさん、ありがとうございました。
問題が直面する大きな課題は、やはり中国の台頭、それからアメリカの揺らぎ、グローバリゼーションのうねり……そのそれぞれが交互に連鎖反応を起こしているというような、多分、見取り図じゃないかと思うんですね。
まず、グローバリゼーションのほうを少し見ていきたいと思います。カトリーナの非常に悲しい出来事も同時に起こっていますけれども、ある報道によりますと、ニューオーリンズの貧民街、貧困層を直撃だった。しかし、これはニューオーリンズだけの問題ではない。21世紀に入ってからのアメリカの貧困層というのは17%も増えてしまった。
ですから、このハリケーンというのは、ある意味では貧困層がアメリカの社会、政治に実はうねりを及ぼしている、その「ハリケーン」ではないのか。それがグローバリゼーションとどう関係するのか、これはわかりにくいところなんですが。グローバリゼーションを最もよく、うまく活用したクリントン政権の90年代はアメリカの貧困層が減っているんですよね。ブッシュ政権になってから増えている。
一方で、中国ですが、グローバリゼーションを国と国というより、国の中でどのような影響を及ぼしているのかということを考えたときに、確かに中国は非常にうまくグローバリゼーションを使いました。同時に、中国内の貧困層と富裕層、内陸と沿海の格差、その格差があるということの認識、パーセプションといいますか、受けとめ方、これがメディアの発達によって非常に険しいものになっている。
例えばおくれたところの炭鉱の災害とか、これが例えば炭鉱開発権なんていうのも政府がやらずに民間に売っちゃうんですね。50年間なら50年間、あなた、開発しなさい。そうすると、ものすごい劣悪な条件のもとで働かせる。何しろ石炭を掘り出せばもうかるわけで、中国でエネルギーといえば今でも石炭ですから、億万長者がどんどん出てくる。炭鉱地区はまたどんどん増えるというような問題。
しかし、これは中国の台頭かもしれませんけれども、エネルギーをどんどん必要とするわけですね。石炭だけでなくて、輸入も増える。現在、世界の石油の需要量の増加分の3分の1は中国の増加分ですね。中国の石油輸入のうち30%はアフリカから来ています。スーダンとかですね。
そのうちの4分の3はマラッカ海峡を通ってくるというような、台頭すると同時に脆弱性といいますか、そちらのもろさというのも非常にまた出てくるわけですけれども、それはエネルギーの依存、対外依存ということと同時に内政的な問題。アメリカも中国もグローバリゼーションによって起こってくる、その国内の格差の拡大であるとか、それをどういうふうにマネージしようとするのか。
今のフリードマンさんのお話をうかがっていますと、ある意味でグローバリゼーションというのは、アメリカとアジアがつくっているグローバリゼーションですね。非常にビビッドに言われるわけですけれども、しかし、また、そのグローバリゼーション、最も影響を受けているのもアメリカと中国ではないかという感じもするんです。
こういうところをまずフリードマンさんにうかがいたいなと思いますし、同時に今のアメリカとアジアがつくる、推進するグローバリゼーションといったときに、ヨーロッパはどうなるんだろうか。
ヨーロッパから見ると、そういうグローバリゼーションというのは果たして世界の新しい秩序であるとか、ビジョンであるとか、そういうものとどういうふうに関係づけられるものなのかということもファフさんにうかがってみたいなと思うんです。最初にフリードマンさんのほうからお願いしましょうか。
フリードマン どの質問に焦点をあてましょうか? 所得格差の問題ですか?
船橋 グローバリゼーションのもとでアメリカ社会そのものがどういう変化があって、それが政治的などういう意味を及ぼしてきているのか。確かにフラットになっているのかもしれないけれども、貧困層であるとか、そういう人たちが同時に出てくるとなると、はっきりと穴があいちゃうわけですね、このフラットのところに。そういうことですね?
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フリードマン 一つだけまず指摘したいことは、一般的なこととして、過去20年か30年間のグローバリゼーションの結果、より多くの人がより早いスピードで貧困から抜け出すことができたということです。世界の歴史のどの時代にくらべてもそうです。それが現実であることを確認するには、中国とインドで起こっていることを見れば十分です。
それがアメリカのような先進国にとってどのように当てはまるかを知るには、経済のマクロ的状況、そしてそれが個々の労働者にどう影響しているかを見てみましょう。ある人は、私がいうところの世界の平準化に対して保護主義的な壁を築いて対応すべきだという反応をします。彼らの主張は、世界にはたくさんの労働者がおり、自分たちの国にもたくさんいる、というものです。もし世界が平らになり、中国人、インド人、日本人がこれまで以上に競争できるようになれば、かれらが労働者の多くを占めてしまうだろう、なぜなら彼らはわれわれよりも安い賃金で働くからだ、というものです。
しかしこれは、マクロ経済の本当の姿に関する私の見方ではありません。世界が平準化するにつれて、二つのことが起こっています。一つはグローバル経済が大きくなったということです。インド、中国、旧ソ連諸国など、そこに参加する人の数も増えました。
しかし、起こっていることの2番目はもっと目につきにくいものです。それは、グローバル経済はますます複雑化しているということです。世界が平準化すると、技術革新の時代が始まるでしょう。そして、技術革新は以前よりもはるかに速くなっています。
今日の聴衆の中には大学生のお子さんをお持ちの方がいらっしゃるに違いありません。子どもが学校から帰ってきて、「お父さん、お母さん、僕は将来、検索エンジン・オプティマイザーになりたいのだけれど」と告げられた方は何人くらいいますか? 「検索エンジン・オプチマイザーになりたい」と聞いたって、なんのことか頭を掻くばかりで、「お前を大学にやったのは、医者か弁護士になってもらいたかったからだよ」ということかもしれません。「検索エンジン・オプチマイザーになりたい? 一体それは何のこと?」。
10年前には、グーグルなどというものはありませんでした。こんにち、グーグルは年商10億ドルの企業です。世界でも年商10億ドル企業はそれほど多くはありません。さて、検索エンジン・オプチマイザーとは何のことでしょう。船橋さんが「船橋スーツケース社」を設立して、「サムソナイト」社と競争することになるとします。そして、トム・フリードマンがグーグルを開いて、「スーツケース」と入力します。新しいスーツケースを買いたいからです。そして、グーグルで船橋スーツケース社がサムソナイトより先に出てくれば、船橋さんは大変な金持ちになるでしょう。
一体、どういう話なのでしょうか。検索エンジン・オプチマイザーという新しい産業が生まれたのです。船橋さんはまず検索エンジン・オプチマイザー会社のところに行き、「助けを借りたい。グーグル、ヤフーに現れる順位でサムソナイトを負かして欲しい」と頼みます。そこで、検索エンジン・オプチマイザーとは何なのでしょう。
それは数学とマーケティングを組み合わせた全く新しい専門分野です。なぜならグーグルはアルゴリズムから組み立てられているからです。検索エンジン・オプチマイザーはグーグルのアルゴリズムを解明します。船橋さんのランキングを上にすることができるようにです。まったく新しい産業なのです。検索エンジン・オプチマイジング企業が続々と生まれています。
それはどういうことなのでしょうか。10年はおろか、わずか5年前には存在しなかった産業だという事実です。その産業には大量の労働力が存在するわけではありません。われわれが入手したり失ったりする労働力はまだ存在しないのです。大量の労働力は、発明されるものがすべて発明されてしまったと考えられる時に生じるものです。わたしはまだそうだとは全く思いません。
そんなわけで、グローバル経済は大きくなっているだけでなく、複雑になっているのです。あらゆる種類の新しい仕事を作り出しているのです。それは良いニュースです。
悪いニュースもあります。船橋さんが言われたマイナスの側面です。もし、あなたが教育を受けた、知識労働者であれば、いまお話ししたような仕事を見つけることが出来ます。教育を受けた知識労働者であるあなたに起こりうる最悪のことは、あなたが水平に動かなければならないかもしれないことです。検索エンジン・オプチマイジングの新しい特殊な分野を開発するのはインドかもしれません。そうなれば、われわれはそれとは違った検索エンジン・オプチマイジングの特殊技術を開発しなければならないでしょう。ですから、もしあなたが知識労働者であれば、水平に動くだけでよいのです。
ついでにいいますと、アメリカでアウトソーシング(海外業務委託)が今日ほど活発だった時はありません。そして現在、アメリカではソフトウェア・エンジニアが不足しているのです。ですから、アウトソーシングがソフトウェア・エンジニアの職を奪っているという人がいたら間違いです。クレイグズ・リストの求人欄でソフトウェア・エンジニアと入力して探して、どれほどの求人需要があるかをみて下さい。それは多くの全く新しい専門分野が生まれているからなのです。知識労働者にとってです。
しかし、もし知識労働者でなければ水平に動くことはできません。垂直に動くほかないのです。ですから、この水平な世界経済のプラットフォームに乗るためには教育を受けなければなりません。私たちアメリカ人は個人としても、社会全体としても、この面ではまったくダメです。非知識労働者を知識世界に引き上げるという面では、年を追うごとに取り残されています。
ビル・ゲイツが昨年、全国知事会議で話したように、アメリカの高校教育は時代遅れになっています。私が危険だと言いたいことは、グローバリゼーションの結果、経済活動の場が平らに、水平になっている時に、非知識労働者を知識世界に引き上げることに失敗すれば、それはますます経済的に信頼を失い、おそらく真の政治問題になるだろうということです。
船橋 ありがとうございました。ファフさん、お願いします。
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