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朝日新聞シンポジウム「世界が見るアジア――著名コラムニスト鼎談」
前半:討論2 (中国など)―2

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トーマス・フリードマン氏

 フリードマン お尋ねの問題の中で、私が重要で興味深いと思ったのは、そして私が魅了されたのは、ジオ・エコノミックスとジオ・ポリティックスの交差するところで実際何が生じているのか、そして両者の相互作用は本当のところ何か、という問題です。私は、これは、伝統的な外交政策、そして伝統的な外交政策学会があまりよい仕事はしてこなかった分野だと言いたい。

 なぜなら外交政策の専門家はそもそも軍縮とか、軍事力の均衡とか、ジオ・ポリティックスに関する事柄を扱うよう訓練されていて、経済的な要因も含めて考えるようには訓練されていないからです。この問題には2つの方向から答えてみたいと思います。一つは、言わばこれらの国にとって内的な要因から、もう一つは外的な制約要因からです。

 さて、私は中国に行くといつもインドについて聞かれますし、インドに行くと、人々は必ず中国について聞いてきます。そして私は結局ある回答にたどり着いたのですが、それは、中国とインドというのは、2本の超高速道路のようなものだということです。中国の超高速道路は、街灯と歩道がある美しく舗装された道路で、人々はみな時速80マイルで走っている。しかし問題が一つあって、それは、長距離を走るとこの道路には減速のための段差がある。この段差は政治改革、政治的移行と呼ばれるものです。13億もの人々が時速80マイルで進んでいると、減速バンプがある。

 そうすると2つのうちどちらかのことが起きます。一つは、車が空中に跳ね上がり、それから落ちてきて地面に叩きつけられる。そうするとみんな、「大丈夫か? 大丈夫か?」と言いながらもそのまま走り続けていく。もう一つは、車が空中に跳ね上がり、落ちてきて地面に叩きつけられ、タイヤが全部外れてしまう。中国に関する大きな問題は、道路に減速バンプがあるかどうかではありません。減速バンプはあるのです。また中国人がその減速バンプにぶつかるかどうかでもありません。必ずぶつかります。問題は車がバンプにぶつかったときに、車の内部で何が起きるかなのです。

 さて、インドもまた超高速道路です。しかしインドの超高速道路は穴だらけであちこち崩れています。そしてセメントの半分は壊れているし、街灯もほとんど壊れています。そして歩道はありません。でも遠くから見ると、汚いものは消えて、このインドの超高速道路はただ美しい6車線の道路に見えるのです。インドについての大きな問題は、この遠くに見える美しい道路は幻覚なのか、それともオアシス、つまり実在するものなのかということなのです。これが私が中国とインドという2つの国の内的強さを考えたときに思うことです。

 次に、グローバリゼーションの問題にぶつかります。「紛争阻止のマクドナルド理論」と、まあ私が皮肉に呼んでいるものがあります。このマクドナルド理論で私が指摘したのは、いかなる2国も、両国ともにマクドナルドが進出してからは互いに戦争をしたことはない、ということです。これは、つまり、ある国の経済が、マクドナルドやスターバックスや、その他ジャンクフードを買えるような中産階級が出現する水準に達したときに何が起きるかを説明しているわけです。

 そして基本的にこうした中産階級が出現するレベルに経済が成長したときにどういう制約があるでしょうか。ある人々は、ボスニアの場合はこの理論に反すると言いますが、それは別にかまいません。ボスニアは100ケースの内の1つであり、これは社会理論としては悪くないのです。しかし世界が新たによりフラットな世界に変っていくことを考える中で、私の中でまた別の理論が浮かび上がってきました。私はそれを「紛争回避のデル理論」と呼んでいます。

 デルとはコンピューターのデルのことで、ある製品のグローバルな供給チェーンの中に組み込まれている国同士は、この供給チェーンに組み込まれている限り、決して戦争はしない、というものです。そしてこの理論をどう開発したかと言うと、光栄なことにマイケル・デルがある日、デル・コンピューター社に来て従業員に私の本について講演をするよう、私を招待してくれたのです。私は、「喜んで行きたいのですが、報酬を支払っていただきたい、それも、たくさん支払ってもらいたい」、と言ったのです。ところでタイムズ社は、記者が取材した会社から報酬を受け取ることを禁じています。

 そこで私は、こういう形で支払ってもらいたい、つまり、私は自分の本をデル・インスピロン600N−シリアル番号9PQZ84を使って書いたのですが、報酬として、私が所有しているこのコンピューターを構成している全ての部品を、組み立てた人の名前、そして供給チェーン全体も含めて製造過程をたどってもらいたい、と申し入れたのです。彼はそれをやってくれました。ここで私のデル・コンピューターがどこから来たか、サンプルをお聞かせしましょう。

 マイクロ・プロセッサーはインテルの工場から来ています。デルは在庫切れを起こさないよう、複数のサプライヤーを使っています。インテルのマイクロ・プロセッサーは、フィリピン、コスタリカ、マレーシア、あるいは中国のインテルの工場から来ています。メモリーは韓国人所有の韓国の工場、台湾人所有の台湾の工場、ドイツ人所有のドイツの工場、あるいは日本人所有の日本の工場から来ています。

 グラフィックス・カードは、中国の台湾人所有の工場か、あるいは中国人経営の工場のどちらかから出荷されています。冷却ファンは、台湾人所有の台湾の工場から、そしてマザーボードは上海の韓国人所有の工場か台湾人所有の工場、あるいは台湾人所有の台湾の工場から来ています。キーボードは、深センの日本人所有の工場か台湾人所有の工場、あるいは徐州の台湾人所有の工場から来ています。

 液晶ディスプレーは韓国か日本か台湾で製造されました。ワイヤーレス・カードはアメリカ人所有の中国かマレーシアの工場、あるいは台湾人所有の台湾か中国の工場から来ています。モデムは中国の台湾企業か中国企業で作られ、バッテリーはアメリカ人所有のマレーシアの工場、日本人所有のメキシコかマレーシアか中国の工場、あるいは韓国人所有の台湾の工場から来ています。

 こんな調子です。400ある部品全部については言えませんので、重要部品についてだけ申し上げました。この供給チェーンのネットワークが今、アジアの主要国を結びつけているのです。これはこの地域ではこれから戦争は起きないということを意味するでしょうか。勿論そんなことは絶対ありません。この地域の歴史を考えれば、そんなことを予言できるのは馬鹿者だけです。しかしこれらの供給チェーンは、意思決定者に対して非常に大きな目に見えない抑制要因になっていないか、というと、間違いなく抑制要因になっています。 

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 中国は、こうした供給チェーンがあっても、明日にでも台湾との戦争を始めるかもしれません。しかしもし中国が明日台湾との戦争に踏み切った場合、中国が支払わなければならない代償は30年前に戦争を始めていた場合の10倍になることは保証できます。そして国際情勢を分析する場合、われわれは指導者たちが行なっている現実の得失評価が何かを深く追及する必要があります。

 私は時々、胡錦濤と温家宝が台湾に侵攻すべきかどうかを議論しているところを想像します。中国の共産党政治局の会合に軍の司令官がやってきて、「台湾の連中、あの成り上りの連中はこのごろあまりにも独立志向が強くなっています。台湾を侵略しましょう」と告げる。そうすると政治局の全員が、「台湾には我慢できない」と言い始めるところを想像できないでしょうか。そして司令官は退出します。しかし、こうした過程のどこかで、温家宝が胡錦濤に向かって、「実は私の義理の息子はマイクロチップの工場を台湾人とパートナーを組んで経営しています、この問題、何か別のやり方で対処できないものかと思うのですが、どうでしょう?」と言うのは間違いありません。

 もしこういうことが起きたとして、それは戦争が起きるのを防ぐでしょうか。誰もこうしたことは予見できません。しかし私が言っているのは、われわれはよりフラットな世界に入りつつあるということなのです。無数の供給チェーンの世界です。そしてこれらは地政学の演者たちに対する重要な抑制要因となって働くのです。

 船橋 ありがとうございます。もう休憩時間が来ましたが、1つだけ、フリードマンさんに。しかしグローバリゼーションというのは、400のサプライチェーンの構成分子を、いつでも自由に組みかえることもできるわけでしょう、また。それがグローバリゼーションですよね。サプライチェーンはあるけれども、中国がだめなら、これはインドにかえようと。台湾もやめておこう、イスラエルにしようと。これもまた非常にフレキシブルにできるのがグローバリゼーションであるとすると、それほどのネットワークの縛りというのはきくんだろうかと、ちょっと、私なんかは疑問に思うんですけれども、どうなんでしょうか。

 フリードマン 船橋さん、もちろん供給チェーンをシフトさせることはできます。しかし思うほどそんなに容易にはできません。デルは10億ドルの投資をしてアモイに組み立て工場を建てました。そうすると、この製造部門をアモイから簡単に、別のところへ移すことはできません。デルはアモイの工場でコンピューターを組み立てて日本に売っていますが、その工場はこんな具合で動いています。

 まず中央に大きな工場があります。その周囲には400の部品のサプライヤーたちがいます。これはサプライ・センター(SLC)と呼ばれています。さて船橋洋一さんがデル・ラップトップ1800を一台欲しいと電話で注文したとします。この注文は直ちに電子的にデルのアモイ工場に伝達されます。

 デルがまずやるのは、デマンド形成と呼ばれるものです。あなたが注文をしたちょうどその時、もしかしたらデルは20ギガバイトのハード・ドライブの在庫がなくなっているかもしれない。そうするとデルの電話交換手はこう言うのです。「船橋さん、貴方は幸運な方です。20ドル余分にお支払いになれば、40ギガバイトのハード・ドライブを手に入れることができます」。これがデマンド形成と呼ばれるものです。

 なぜならデルは、各部品に対する需要がどこで発生しているかをすべてコンピューターでグラフ化して把握しているからです。彼らは船橋さんから注文の電話を受けたときに、20ギガバイトのハード・ライブがまさに品切れになりつつあるのを見て取り、「20ドル追加すれば40ギガバイトのハード・ドライブを提供しましょう、さらにデルのプリンターもお付けします」、と言うのです。そこで船橋氏は40ギガバイトのハード・ドライブのデルを注文するというわけです。

 さあ、注文はアモイの工場に行きます。その周りには400の小さなサプライヤーたちがいるということです。注文は90分ごとにアモイの工場から400のサプライヤー全てに行き、そのとき注文があったコンピューターについて次の60分以内に部品が届けられるのです。マレーシアのペナンにもデルの工場がありますが、そこからは毎日15万台のコンピューターが出荷されます。こういう工場とこれらのサプライヤー全部を一晩で簡単に替えられると思ったら、それは間違いです。それはできません。

 船橋 それは今のアメリカの対中政策の中で、かなり受け入れられてきているんですか。それとも、これはトム・フリードマンが荒野の予言者のように、1人で叫んでいるのか(笑)。

 フリードマン 受け入れられているというのは、どういう意味で?

 船橋 対中政策を考えるときに、サプライチェーンのような中国との相互依存がこれだけ深まっているんだから、対中政策であまりタカ派なことをするなとか、台湾問題でも、ちゃんと中国と手を握れとか、要するに、事を荒立てるなという政治的な勢力、圧力というのがもう相当程度強まっているのかということですね。

 フリードマン これは大きな問題です。われわれと中国はシャム双生児になるべきなのです。ただしこのシャム双生児は世界で最も特異な双生児なのです。われわれは一卵性ではない。シャム双生児だけれど一卵性ではないということは、つまり、われわれは腰のところでつながっているけれど、頭は全く別なのです。

 ところで現在、アメリカでは住宅バブルが起きています。この住宅バブルは基本的に中国がわれわれの国債を買ってくれることによって支えられています。今年度、中国が保有する米財務省証券は1兆ドルを越します。従ってわれわれはあらゆる種類のものを中国から買い、その代わりに中国には小さな緑色の紙きれを渡しているわけです。中国の側は、国内の安定のためにそうしている。なぜなら共産党は雇用の成長を維持しないといけない。というのも、前にもファフさんが言ったように、金持ちになるのは素晴らしい、ということ以外に、彼らを支えてくれるイデオロギーがないからです。

 中国は、ほとんど無利子で、この緑色の紙を大量に抱え込むことに同意してくれているのです。例え他の通貨に対して価値が下がったとしてもです。なぜなら彼らは雇用を維持しなければならないからです。そして中国が緑色の紙を大量に保持してくれているおかげで、私はアメリカの深夜テレビで見つけた無利子の住宅ローンを得ることが出来るわけです。このように米中は完全につながっているのです。しかしここに問題が生じます。緑色の紙があまりにも大量になったある日、中国で誰かが、この緑色の紙の山のほんの一部を使ってアメリカの石油会社ユノカルを買ったらどうだろう、と言い出した。それに対してわれわれは、われわれの議会は、「よくもそんなことを!」「われわれが渡した大量の緑色の紙を、何でアメリカの石油会社の買収に使うのだ? 中国は緑色の紙をただ抱えて持っていればいいのだ。そうすればわれわれは安いローンを得ることができるのだから」と言ったのです。

 こんなことは長続きしません。緑色の紙の山が大きくなり続けば、中国はそれをどうにかしたくなります。それを使って何かしたくなる。そうすると中国としては、米国で買いあさりに走るということにもなります。それはGDP全体に影響し、翻って政治的安定にも影響を及ぼすことになる。しかし中国がアメリカで買いあさりに走れば、北京は毎日がクリスマスということになります。

 船橋 ありがとうございました。ここで休憩時間にしたいと思います。


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