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朝日新聞シンポジウム「世界が見るアジア――著名コラムニスト鼎談」
後半:討論3 (朝鮮半島など)―1

船橋 それでは、後半部分に移り、朝鮮半島を取り上げたいと思います。冷戦が終わってから、多分、アメリカの国際的な戦略、特にアメリカの軍事プレゼンスで最も大きい変化が生まれてきているのが、1つはドイツ、もう1つは韓国だったんではないかと思いますね。

 両国とも冷戦時代、共産主義勢力、いわゆる共産圏に対する最前線の役割を果たしてきた。最も濃密なアメリカの軍事プレゼンスがそこに集結していたということが、冷戦が終わってから、大きな変化が、特にこの両国について生まれたということだと思います。

 東西ドイツは見事に統一をして、ヨーロッパの安定に確固とした足場になりました。けれども、朝鮮半島のほうは今もなお南北に分かれていて、しかも、先ほど申し上げましたように、北朝鮮は核を持つということで体制の延命を図っている。核の問題そのものも、拡散の問題とか大きい問題がありますが、それと同時に、北東アジアの将来の平和と安定をどういうふうにつくるのか。そのときに、朝鮮半島の新しい枠組みをつくらないことには、北東アジアの安定の枠組みもできないという、今、こういう大きな挑戦に直面していると思うんですね。

 ファフさんにまず最初にうかがいたいと思います。長いこと、ドイツを観察していらっしゃって、ファフさんのファフというお名前そのものがアルザス地方に近い、アルザスはフランスですけれども、国境に近いドイツのお名前なんですね。とてもドイツにも詳しくていらっしゃる。

 まず、ドイツの統一の経験からして、それと対比させてみて、朝鮮半島の現状、これをどういうふうにごらんになるか。朝鮮半島の南北の統一というものを将来見据えたときに、それでは何が課題だろうかと。そもそも東西ドイツ統一したんですけれども、統一の費用であるとかコストであるとか、それから、統一した後の社会の調和であるとか和解であるとか、相当苦労していますね。ですから、ある意味では、韓国の人からしますと、統一はもちろんしたい、また、しなければいけない。しかし、できるだけそれは先送りといいますか、後のほうでしたいと。ドイツの経験を見て、おじけづくと言うと言葉が悪いんですけれども、いくつも考えなきゃいけないことがあるという状況も生まれていると思いますね。

 ですから、そういうことも少し念頭に入れていただいた上で、ファフさんに、ドイツと朝鮮半島と比較しての見方を聞かせていただければと思います。

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ウィリアム・ファフ氏

ファフ ドイツ問題と朝鮮との間の大きな違いは、まずドイツではベルリンの壁の両側、東西の双方に理性的な政府が存在していたという点です。共産主義側の政府は、ソビエト方式、これはもうどっちにしろ10年以上に渡って信用をなくしていましたが、このソビエト方式が全般的に崩壊する中にあってそれでも機能していました。先週私は、「連帯」の創立25周年の祝賀でワルシャワに行きましたが、この「連帯」の成功こそ、ポーランドに複数政党あるいは2大政党からなる政府をもたらした原動力でした。そして、それはハンガリー、チェコスロバキア、東ベルリンなど、一連の共産主義東欧諸政府の崩壊の起爆剤となりました。

 統一は平和的になされ、ベルリンの壁が崩壊したとき、与えられた選択肢は統一だったわけです。統一に反対だった人も大勢いました。政治的な動機で反対した人もいたし、現実的動機で反対だった人もいました。この政治的動機については、フランスの物書きが戦後すぐに書いています。つまり、ドイツがとても好きだから、ドイツは1つよりも2つある方がいい、と言ったのです。これはイギリスのサッチャー、それから多くのフランス人の考え方でした。

 戦前のドイツはとにかく大きすぎたと、そして世界にとってはそれほど大きくない、他のヨーロッパ社会と釣り合う適度な規模の2つのドイツがあった方がよい、というわけです。しかしこの考え方は優勢にはなりませんでした。そうならなかったのは、不思議なことに一部には、ドイツ経済が近年沈滞していたこと、そしてドイツの人口減少があずかっていました。ドイツの人口減少によって20年後にはフランスがヨーロッパで最大人口の国になるという、興味深い状況があったのです。フランスは出生率が上がったのに、ドイツは下がったからです。しかしドイツの統一は、コール首相が提唱した寛大な条件の下の統一は、たくさんの大変な問題を引き起こしました。これはドイツマルクを東ドイツにも適用するというものですが、西ドイツに大変な財政的負担を強いるものでした。そして東西ドイツの政治的・社会的統合は、実際には達成できませんでした。

 似たような例として思い起こすのは、米国の南北戦争で敗北したアメリカ南部州連合です。南部州連合は勝利した北部から疎外されていたため、第二次世界大戦までは分離した一つの国のように生きてきました。南部連合だけの祝日があり、アメリカの祝日もありました。州連合のパーセプション(受け止め方)があり、南部的パーセプションがあり、また、北部のヤンキー的パーセプションがありました。それはともかく、統合は最後には達成されたのです。

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 そして、明らかにドイツでは、結局そうなるでしょうが、いつかは東独生まれの保守キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル党首が首相になるだろうとポーランドの人たちなどは予測しています。それは、彼女が東独の出身であり、父親がプロテスタントの牧師だったためでしょう。また彼女は少なくとも東独の問題点の輪郭は把握しているからですが、東独の人たちは必ずしも彼女が彼らの利益代表であるとは見ていません。

 しかし、ドイツには異なった二つの生活様式があり、それらを結合するのはそれほど容易なことではありません。さらに、二つの経済制度がありました。東独の経済は、西独と自然に経済統合できるほど優れたものではありませんでした。

 さて、朝鮮半島問題ですが、情況が根本的に異なっているように見えます。北については「ならず者国家」問題があり、これは言うなれば、孤立した独裁政権です。ヨーロッパに似た例があるとすれば、1960年代のアルバニアか、70年代のチャウシェスク大統領下におけるルーマニアでしょう。これらの政権は少し狂っていました。

 しかし、それは朝鮮半島問題について、理論的には、誰でも平和的統一を望むでしょう。韓国の人々はドイツの例を見て、この問題について少し神経質になっています。同時に、東独の人々の生活水準は西独の約80パーセントあたり、あるいはもう少し下だったかも知れない、ということも承知しています。

 しかし、北朝鮮の場合、一般庶民の生活水準は、恐らく韓国の20パーセント程度でしょう。従って、両国が統一した場合、誰の負担で北朝鮮の人たちの暮らしを韓国のレベルまで引き上げるのか。明らかに、それは韓国の人たちです。そのために韓国人はこの問題に対してはあまり嬉しくないのです。

 ですが、統一を実現するまでには、もちろん安全保障の問題、軍事問題があります。北朝鮮は世界の他の国々から「ならず者国家」とみなされており、その指導者たちを過去50年間、狂信的に崇拝しきた予測不可能の政権です。しかし、その国が核を保有しているのは興味深いことでもあり、「何のために」という疑問も起こさせます。

 侵略してくる勢力に対して自暴自棄になって核爆弾を打ち込む以外は何でもするというシナリオを描くのは、北朝鮮に対しても、イランのように核不拡散の問題で名の挙がる国に対しても、非常に難しいことです。しかし、北朝鮮を侵略することが魅力的な提案だなどと思う人は私の知る限り誰もいません。では、いったい何をしようとしているのか。韓国に脅威を与えようとしているのか。どんな脅威でも近隣諸国が考え得る脅威は、それが実行されれば、直ちに北朝鮮という国家と政権の破壊、それが物理的な破壊、政治的破壊でなくても、軍事的破壊をもたらすことになるでしょう。

 従って、ここで問題が生じます。小さくて脆弱な国々は、攻撃つまり米国からの攻撃に対する保険として、安全保障のために核爆弾を欲しがります。米国がそれらの国々の攻撃に何の関心を持っていなくてもです。しかし、これは、このような国々が持つ一般的な考え方です。

 私はここで、核不拡散についての一般的な問題について別の見方をしようと思います。核兵器を保有する米、英、仏などの大国は核不拡散条約の原案で、自分たち自身が保有する核戦力を定期的に削減する過程を部分的にスケジュールにのせることで同意しました。しかし、現在これは実施されておらず、事実、米国の現政府は核戦力をさらに有効に使用する様々な方法を検討しています。このような状況では、他のどの国、北朝鮮やイランその他の潜在的核兵器保有国も、核という選択肢は手放しません。

 ですから、われわれは核不拡散交渉については茶番劇を書こうとしている訳です。しかし、朝鮮問題については、韓国の意見を尊重すべきです。韓国は北朝鮮に対して様々な宥和政策、ソフトな選択肢を志向しているように見えます。私は個人的には、「結構じゃないか」といいたい。この政権は遅かれ早かれ終わりを迎えます。おどしをかけても失敗するから、みんなをレトリックで脅しているだけです。そこで、私は韓国の議論を受け入れようと思います。

 もちろん、米軍が駐留しているのですでに議論は複雑になってはいますが。しかし、なぜ米軍が60年以上も駐留しているのでしょうか。米軍がそこに居るのは北朝鮮の脅威があるからで、北朝鮮の脅威があるのはアメリカが侵略しようとしているからです。ですから、結局、それは長期的に見れば御しやすい問題なのですが、長期的には、われわれは生きていません。でも、この場合にはそれが正しくないことを願っています。

船橋 今、ファフさんは、アメリカをはじめとする核保有国が核軍縮に真剣に取り組んでないとおっしゃった。核不拡散体制というのは、核保有国、非保有国、双方が協調しなきゃ体制を維持できませんけれども、残念なことに、核保有国のほうが核軍縮を十分に進めてないことに問題がある。

 私、特に最近、問題だと感じているのが、アメリカとインドですね。インドは98年に核実験をして、核保有国に名乗りを上げました。パキスタンがそれに続く。当初は、それに対して、これはけしからんということで、経済制裁もする。ところが、十分な説明もないままに、パキスタンは9・11後、これはテロの拡散に対して、ともに戦うと。その辺から、パキスタンの核の問題は黙ってしまう。テロの拡散のほうが、核の拡散より深刻だと、こういうことかもしれませんね。

 インドの場合は、将来の中国に対する一種の牽制として、インドをカードとして使おうというような、多分、戦略的な要素もあると思うんですけれども、インドの核保有については、黙ってしまうどころから、もうインドは、アメリカ、ロシア、中国並みの核保有国として認めると言わんばかりの扱いなんですね。

 こういう姿勢を続けていった場合に、それでは、イランとか北朝鮮が何で、自分たちだけこうまでいじめられるのかと、支持しているわけじゃありませんけれども、私は。特に北朝鮮の核保有は非常に問題だと思っておりますけれども、しかし、相手を見て彼らもゲームをするわけですから、そういう意味で非常に問題が出てきていると思っているんですね。

 この辺、フリードマンさんにちょっと伺いたいんですね。アメリカとインド、これが将来のアジアにおいて、この関係がどうなるかというのが実は非常に大きなインパクトを及ぼしてくると思います。しかし、そのときに、NPTであるとか、核の拡散防止であるとか、そういうところも含めて、どう考えているんだろうかという点ですね。


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