司会 これよりパネリストの皆様にご登場いただきます。皆様、大きな拍手をもってお迎えくださいませ。(拍手)
ただいまより、シンポジウム第1部〈中国の実像に迫る〉を始めます。
まずは、パネリストの皆様をご紹介させていただきます。愛知大学現代中国学部の教授の服部健治さん、中国瀋陽市から、NEUSOFT総裁の劉積仁さん、松下電器産業代表取締役常務の少徳敬雄さん、経営コンサルタントの和中清さんです。コーディネーターは朝日新聞論説副主幹の桐村英一郎が務めます。この後の進行は桐村さんにお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
桐村 皆さん、こんにちは。司会の桐村でございます。
中国の挑戦を直視しつつ、日本経済のあすを考えるという本日のシンポジウムは、第1部、第2部合計8人のパネリストの方をお迎えしております。夕方までたっぷりですけれども、きっとご期待にそえる内容になるかと思います。どうぞ最後までおつき合いください。
中国の脅威論、はたまた崩壊論まで出て、経済界は中国の話題で持ちきりですけれども、何か中国という巨ゾウに対して、しっぽをさわったり、おなかをさすったり、足をなでたり。その部分を見て全体を思うようなところがあるのじゃないかと思います。
また、日本では中国というと、双眼鏡の裏と表から見るように、やたらと大きく映してみたり、逆に意図的にひっくり返して、小さく見てしまったり、なかなか実態というものがわかりにくいところがあるのではないでしょうか。
本日は、中国にそれぞれ長くかかわってこられたご専門の方々、4氏をお迎えして、中国の実像に迫る、ビビッドなお話を伺えると期待しております。早速、冒頭発言として、ここが一番言いたいという点を簡潔に4人の方々にお話しいただこうと思います。
まず、日中経済協会、日中投資促進機構の北京事務所のそれぞれ副所長、首席代表を務められて、20年以上も中国ウォッチャーとして活躍されている、服部さん、お願いいたします。
●冒頭発言・服部健治氏/脅威でなく驚異としての中国を見よう
服部 ご紹介にあずかりました愛知大学の現代中国学部の服部でございます。よろしくお願いいたします。
私は昨年の3月まで6年間、半官半民の経済団体である日中投資促進機構という団体の北京の首席代表をしておりました。そして、現地中国でがんばっておられる日本企業の方々の投資事業をご支援しておったわけでございます。
帰ってきてから、こういったシンポジウムはじめ、政府関係、地方自治体等々、経済団体、そういったところから頻繁に呼ばれまして、講演とかシンポジウムをしておりますが、そういった中で感じますことは、日本経済が低迷しておるといったこともありまして、最近の中国の勃興、躍進を脅威と見る論調が多々聞かれます。
ほんとうに中国は脅威なのかということですが、私は中国の発展というのは、同じ発音でキョウイといいましても、驚愕のほうの驚異という漢字があります。その驚異であると私は思っております。
恐ろしいほうの脅威は英語でスレットと言いまして、驚異、びっくりする、すばらしいほうの驚異は、英語でワンダーと言いますね。ワンダフルのワンダーです。私は今の中国の発展というのは、ワンダフルのほうの驚異だろうと思っております。
なぜかと言いますと、日本はこれまで政府も民間も、中国が今進めております改革・開放政策を支援してきました。例えば、円借款、あるいは輸銀のバンクローン等々、公的資金を日本が中国に支援したのは7兆円以上のお金であります。今年は、日中国交正常化30周年でありますが、沖縄返還30周年でもありますけれども、沖縄には6兆円です。
そういった意味で、また、昨年の日中貿易というのは892億ドルでございますが、そのうちの半分はいわゆる日日貿易という形で、日本から原材料、部品を持って中国へ輸出して、中国でつくり、そして再度日本へ輸出するという形態であります。
また、この後話題になります対中投資の問題におきましても、中国へ進出されておられる日本の企業の大体7割、最近の統計では8割は、利益率は大体黒字であるといったことが言われております。
そういった中で、どうして中国は脅威なのかというのは、非常に疑問に思うわけです。
また、最近マスコミをにぎわしております「中国は世界の工場である」という言葉、皆さん方も聞かれたことがあると思いますけれども、確かに、今の中国の経済規模は1兆ドルを超えました。貿易総額も世界第7位です。それから家電製品等々、そういったものも中国は世界第1位になってきております。まさに、中国は工場と言ってもいいかと思います。しかし、よく考えますと、工場というのは大きな企業のいわゆるエンタープライズ、カンパニーの一部分です。
欧米から日本を見ると、日本株式会社という形で、日本というのは巨大なカンパニーに見られておりますけれども、中国は世界の工場から世界の企業になっていこうとする過程であります。
そういう中で、日本企業は、成長過程にある中国を意識的に活用すべきであると、私は思っておるわけです。世界の工場と言われていることは、日本にとっては活用する対象であると思います。
同時に、中国は昨年12月にWTOに入りました。ますます中国の国内市場を開放しております。まさに今、市場としての中国が出現しておるわけです。
そういった意味で、今とらえておるのは、日本企業の対中経営戦略といったものであります。
3番目に最近、中国製品が日本国内にもあふれてきており、よく、メイド・イン・チャイナと言われます。しかし、メイド・イン・チャイナというのは以前は安くて悪かろうでしたけれども、今は、安くて良くて、かつ日本国内市場のニーズに合わせてくるといった形で、日本の国内に続々と入ってきております。
ユニクロの製品しかり、家電製品しかりですね。ただ、日本国内で販売されておる中国製品というのは、もともとは日本が技術提供したもの、あるいは委託したものが主流であります。あるいは販売は完全に日本企業がやっております。つまり、メイド・イン・チャイナですけれども、その実態、実相というのはメイド・イン・チャイナ・バイ・ジャパンと私は思っておるわけです。
このように見ていくと、日中経済関係というのは、まだ先進国と発展途上国との南北関係にあります。コストの低減を目指す日本企業が、中国進出をやると。あるいは後発性の利益――後から出てくる、追いついていくという意味ですね――を享受する中国の発展というのは、経済学ではプロダクトサイクル論というのがございますが、それから見ても正常な経済運行であると私は思っております。
また、巨大な潜在市場を有する中国の国内市場に日本企業が魅惑されていくいのは当然だと思います。やむを得ないと私は思っております。
日中経済関係というのは相互補完性が主流であります。今、とられておる、いろいろの、例えば空洞化問題等々の問題は、一義的には中国の問題というよりも、我々日本の問題でありまして、日本自身が努力していく課題であると、私は思っておるわけです。
そういうことで、冒頭の発言を終わらせていただきたいと思います。
●冒頭発言・劉積仁氏/市場開放のエネルギーが中国人を変えた
桐村 ありがとうございました。
劉積仁さんは、わざわざ中国からお越しいただきました。大学の先生がビジネス集団を率いるという、究極の産学共同を実践しておられます。劉さん、今の中国パワーをどうごらんになっているか、お願いいたします。
劉 私は劉と言います。中国のNEUSOFTという会社です。NEUSOFTは、中国の東北大学から生まれた会社でして、ベンチャーカンパニーです。
これまでの十数年間、中国の経済の発展に伴いまして、大きな発展を遂げました。ここ十数年間、70%ぐらいの営業利益を上げています。
中国全体の経済的な変化というものについて、多くの議論がございます。中国の変化は外資がたくさん入ってきたからだとか、また、中国自身は非常に労働力が安価であるからとか、いろいろな言い方がありますけれども、でも、ほんとうに中国の経済が変化したのは、政治体制が変わったからであります。この経済の後ろにある社会の運営メカニズムが変わったからであると考えています。
改革・開放以前、中国の社会全体は抑制されて、規制されたものであり、経済は国の経済、政府の経済でした。私営の経済とかプライベートの資本というものは許されなかったわけです。外国からの資本もなかなか入ってきませんでした。
その場合は、いろいろな政策の決定とか、そういうものが非常に遅くて、なかなか発展ができませんでした。
それに対して、中国は改革を行いました。そういう体制を破壊したわけです。まず、農村から始まりました。農村は農民が自分で土地の上に何をつくるかということを考えることができるようになりまして、その後、農村からこの改革が都市に広がり、いろいろのところで改革が進みました。それによって、中国の経済構造が根本的に変わったわけです。
政府がコントロールしている企業から、多元的な企業に変わってきました。それが経済の大きな飛躍の原因だと思っています。
もう一つは中国の人、人間が変わったということであります。改革・開放前、中国の人たちは、ほとんどいろんなものに縛られていました。つまり、政治的な国であったわけです。話している問題は全部政治でありますし、経済は国の体制に合わないというふうに言われていました。
しかし、改革・開放後、すべての人がそのような縛られた状態から解放されたわけであります。これまでずっといろいろな影響を受けて、自由がなかった人々が、一遍に解放されたわけです。ハングリーな状態から非常に大きなエネルギーが発生しまして、そのエネルギーによって国を変え、自分を変え、そして社会を変えていったわけであります。
多くの人たちが毎日仕事をし、15、6時間も働いています。私どもの国の若い人たちは、朝の6時、7時から学校に行って、そして夜の9時、10時まで勉強しています。このようなエネルギーというものは、やはり社会の変化にとって大きな基礎を固めていると言えます。中国の経済がなぜ変化したかの大きな原因はここにあると思います。
日本の多くの議論の中で、中国から大きなプレッシャーが来ていると言っていますけれども、これは中国からではなくて、グローバル化という中から来ていると思います。
アメリカもヨーロッパも中国に行って、低いコストの労働力を目指して来ていきるのですが、もし日本人が行かなければ、そのような資源は欧米に使われてしまいます。中国がどうということではなく、グローバル化が資源配分の状況を変えているということであります。人であろうと資本であろうと、そういうことであります。
グローバル化した世界で収支の均衡を取るようになるわけであります。オオカミが羊の群れに入って来るほうがいいのか、それとも羊がオオカミの群れに入っていったほうがいいのかと、いろいろな説がありますけれども、日本の企業が中国に行くということは、積極的に行くべきだと思います。中国は非常にチャンスのある大きな市場、マーケットであります。
中国で生産し、世界に販売するほうが、日本で生産して世界に売るよりも競争力が高くなると思います。中国も大きな変化の中にあります。
これから10年、20年たちますと、中国もベトナムで工場をつくるかもしれませんし、ほかのところに進出するかもしれません。日本の60年代の飛躍的な経済成長は、やはり同じように多くの国にプレッシャーを与えたかもしれません。
ほかの国もそれと同じように、次々とそういうふうにテイクオフしているわけであります。