司会 皆様、こんにちは。大変お待たせいたしました。ただいまより、朝日新聞社と静岡県立大学現代韓国朝鮮研究センターが主催いたしますシンポジウム「日米同盟と北朝鮮の『核』―94年危機の教訓を踏まえて」を始めさせていただきます。私、本日のアナウンスを担当いたします糸永直美と申します。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
初めに、主催者を代表いたしまして、朝日新聞社専務取締役編集担当の君和田正夫が皆様にごあいさつを申し上げます。
君和田 皆様、お忙しい中、たくさんお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。静岡県立大学現代韓国朝鮮研究センター、そして朝日新聞の主催者を代表いたしまして、あいさつを申し上げたいと思います。
昨日、アメリカ軍、イギリス軍のイラク攻撃が始まりました。大量破壊兵器の脅威から私たちは逃れることができるのかどうか、解放されるのかどうか。この同じテーマは、実はきょうのテーマであります北朝鮮の核問題とつながるものでございます。
北朝鮮は昨年暮れ、94年の「米朝枠組み合意」によります核開発凍結をやめるということを宣言いたしました。続きまして、核不拡散条約(NPT)からの脱退、それから原子炉の再稼動というふうに、動いてきております。今後の展開というものは全く予想もつかないわけですけれども、もし、北朝鮮が本格的に核開発を行うということになりますと、アジアの安定、平和といったものが大きく揺らぐことになりかねません。
日本は同時にもう1つの、拉致問題という大きな問題を抱えて、北朝鮮に早期解決を求めております。
こうした状況の中で、朝日新聞社は、北朝鮮問題に関する連続シンポジウムを企画しております。既に1回目は先月末、行いまして、これは、韓国の東亜日報の21世紀平和研究所、それから中国の現代国際関係研究所、そして朝日新聞のアジアネットワーク(AAN)という3つのシンクタンク共催で開催いたしました。これは3月6日に紙面に掲載いたしましたので、あるいはお読みいただけたかと思っております。
そしてきょうが2回目のシンポジウムということになります。先ほど申しました静岡県立大学現代韓国朝鮮研究センターとの共催という形をとらせていただきました。
第2次朝鮮戦争の寸前までいったと言われております1993年、そして94年当時、アメリカ政府の北朝鮮核問題担当大使として枠組み合意に貢献されましたロバート・ガルーチさん、そして元・米国国家安全保障会議核不拡散担当上級部長のダニエル・ポネマンさん、そして元・韓国外相の孔魯明(コン・ノミョン)さん。孔魯明さんは、たった今、お着きになったばかりで、今度の問題で空港のセキュリティーチェックが厳しくなったために、ぎりぎりすべり込みでセーフというタイミングでした。それから、元・外務事務次官であられた柳井俊二さん、そして主催者を代表いたしまして、現代韓国朝鮮研究センター所長をしていらっしゃいます伊豆見先生。皆様、大変プロ中のプロ、実務に携わった方、研究された方々ばかりの素晴らしいメンバーに集まっていただくことができました。
北朝鮮の核開発を食いとめることができるのかどうか、これは大変難しい問題だと思っておりますけれども、解決への道筋を探っていく手がかりを、こうしたシンポジウムを通してつかむことができたらありがたいと思っております。
これから午後5時まで、大変長丁場のシンポジウムでありますが、最後までご静聴いただけたら、主催者として大変ありがたいと思っております。それでは、どうぞ最後までゆっくりお聞きください。ありがとうございます。(拍手)
司会 それでは、パネリストの皆さんがご登壇されます。どうぞ、拍手でお迎えくださいませ。(拍手)
ただいまより、討論を始めてまいります。
まずは、パネリストの皆様からご紹介いたします。皆様からごらんになって右側より、元・米国国家安全保障会議核不拡散担当上級部長のダニエル・ポネマンさん。(拍手)
米国ジョージタウン大学、外交大学院長のロバート・ガルーチさん。(拍手)
元韓国外相の孔魯明さん。(拍手)
中央大学教授で、元・外務事務次官の柳井俊二さん。(拍手)
静岡県立大学現代韓国朝鮮研究センター所長の伊豆見元さん。(拍手)
そして、コーディネーターを務めますのは、朝日新聞編集委員の本田優でございます。(拍手)
シンポジウムでは、皆様からの質問をお受けいたします。受付でお配りいたしました質問用紙に簡潔にご記入の上、休憩時間、15時10分ごろを予定いたしておりますが、その休憩時間に受付の質問箱にお入れくださいませ。それでは、この後の進行は本田さんにお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
本田 コーディネーターを務めさせていただきます朝日新聞の本田です。よろしくお願いします。
イラク戦争開戦2日目という大変なタイミングにこのシンポジウムはぶつかりました。しかし、考えてみますと、去年の秋以来、急速に深刻になりつつありました北朝鮮の核問題といいますのは、イラクの危機ともいろいろな形で密接な関係が交錯していたと思います。そういう意味では、こういうタイミングでシンポジウムが開かれたということは、非常によいという言い方はおかしいのかもしれませんが、しかし、本質を議論するのにはなかなかおもしろいタイミングと言えるのではないかと思います。
きょうご出席いただいたパネリストの方の多くは、1993年から94年にかけて、戦争の一歩手前まで実はきていたと、アメリカの元・国防長官のペリーさんが言っていました「93年、94年北朝鮮核疑惑危機」のときの日・米・韓の各政府の当事者の方であります。従いまして、今回のシンポジウムの副題は、「94年危機の教訓を踏まえて」というふうにしております。しかし、このタイミングということも考えまして、あわせて「イラク戦争の朝鮮半島へのインパクト」という点も、実質的にきょうのディベート、シンポジウムのサブタイトルになるのではないかと思います。
まず最初に各パネリストの方から10分間ずつ、現状、北朝鮮の核危機というのは一体何なのか、94年と比べてどこが同じでどこが違うのか、あるいはイラク戦争との関連も、これは後できちんと議論いたしますが、触れられることもあるかもしれません。
まず、伊豆見先生、北朝鮮のこの核危機というのは一体何なのかということ、それから、これから一体どういう展開が予想されるのか、この辺からお話をいただけたらと思います。
●冒頭発言・伊豆見氏/10年前よりはるかに危険なゲーム
伊豆見 ありがとうございます。10分間という限られた時間でございますので、ポイントだけを何点か申し上げたいと思います。
私は今、北朝鮮の核問題はまだ危機にはなっていないと考えております。しかし、今後数カ月の間に危機と呼ばなければいけないような状態になる可能性は極めて高いのではないかと危惧をいたしております。
危機の性格を考える際に、私が重要だと思っておりますことは、特にこれを10年前の危機と比べた場合でありますが、アメリカのこの北朝鮮の核問題についてのとらえ方が、私は10年前とは大きく変わっていると思います。しかし、北朝鮮側は10年前の経験をそのまま踏まえて、同じようなゲームを再び繰り返そうとしている。アメリカが大きく変化しているという点についての理解・認識というものが、実は北朝鮮にはないのではないかと私は考えております。そうだとしますと、それは非常に危険なことではないかと思っている次第でございます。
私がアメリカの認識が変わったと思っておりますのは、93年、94年当時の核危機の際のアメリカ側の関心というのは、これは後でガルーチ大使、ポネマンさんからもご発言があると思いますけれども、やはり拡散ということであったと思います。北朝鮮が核兵器を持つことが核兵器の拡散をもたらすものであるという認識が、アメリカにとっては強く、それを何とか止めるということに相当な重点があったと思います。
恐らく3点、重要なことがあったと思いますが、第1は、1995年に核不拡散条約(NPT)の再延長会議というのを控えておりましたので、この北朝鮮が核兵器を保有するということを許容することになりますと、世界的な範囲での核拡散防止体制、NPT体制というものが大いに動揺する、あるいは崩壊するかもしれない。したがって、それを止めなければいけないというものがあったと思います。
2番目には、北朝鮮が核兵器を持つことは、この北東アジア地域に核兵器が拡散する、すなわち日本あるいは韓国、さらには台湾が核兵器保有の方向に動くかもしれない。それは北東アジア地域の国際関係というものを大きく変えますし、大変危険なものにもするということでありますから、これは防がなければいけないという認識があった。
3番目は、北朝鮮の核兵器というのは、地域を越えまして、例えば南アジア、あるいは中東地域に輸出されるということが考えられる。それは、とりわけ中東地域に行く可能性というのは大いにあったと、今もあるわけでありますが、結果的に中東の平和安定というものを相当損ねるということであります。
こういう点を防ぐためにも、アメリカが北朝鮮の核問題というものを解決せざるを得ないということで、93、94年交渉され、合意を見たということであろうかと思いますが、しかしそのときは、少なくともアメリカ本土が、あるいはアメリカが直接脅威になるという認識は非常に薄かったと私は思います。
しかし、現在のブッシュ政権が北朝鮮の核問題を考える際には、これはまさに直接的な脅威として見ている。今のブッシュ政権の言い方で言えば、本土防衛の観点から見ているという点が非常に強くなってきているというのが大きな変化であろうと思います。
ということは、北朝鮮が核兵器を保有するということは、アメリカを直接攻撃する手段として使われるかもしれないということがありますし、あるいは北朝鮮が多くの核兵器を保有し、あるいは多くの兵器用のプルトニウムを保有することは、当然中東地域の、いわゆるアメリカの言うところの「ならずもの国家」の手に渡ることがあり、あるいはテロリストの手に渡るかもしれない。そうしますと、テロリストが北朝鮮から得た核兵器をアメリカに使うかもしれないということであります。すなわちいまや、北朝鮮の核兵器というのは、少なくともまず間接的な形であれ、アメリカ本土を直接攻撃するものとして使われるという位置づけが1つあります。
しかも、この10年間の変化のもう1つ大きなことは、北朝鮮が弾道ミサイルの開発をずっとやってきたことでありまして、ミサイルの射程距離というものが伸びてきている、将来的にはテポドン2号と呼ばれる形のミサイルがアメリカ本土にまで届くようになるかもしれないという懸念というものを我々考えざるを得ないわけであります。
だとしますと、ますます北朝鮮はアメリカを直接攻撃し得ることになるかもしれない。したがって、現在のブッシュ政権にとっての北朝鮮の核問題というのは、アメリカ本土を、アメリカ自身を直接脅かすかもしれない問題としてとらえられている。これは本土防衛の観点からとらえられていると見るべきではないかと私は思っております。
そうしますと、相当それは10年前とは異なるものだということであります。
ところが、一方の北朝鮮は、相変わらず93、94年の成功例といいますか、経験、記憶に基づいてまた現在の核問題というものに対処している、ゲームを行っているというふうに私は考えております。
考えてみますと、先ほども本田さんからご紹介がございましたけれども、こちらにおられる私以外の方はすべて93、94年の北朝鮮の核危機の際に当事者であり、アメリカ、韓国、日本の政府でご担当になっていらした方であります。今、政府を離れられて、こういう形でシンポジウムでご発言をされるわけでございます。
しかし、北朝鮮の人たちを見てみますと、93、94年の核危機の際に、いわば核問題をつくった人たち、そしてアメリカと交渉した同じ人たちが、また現在やっているわけです。しかも、北朝鮮の場合は、その10年間ずうっと同じ人間がこの問題を担当してきた。
彼らにとって10年前の記憶、体験というものは、ものすごく大きいというのは十分理解できるわけでありまして、だとしますと、北朝鮮側から見ますと、93、94年のいわゆる核危機をつくり、アメリカと交渉をし、アメリカとの間に取引を成立させたことは、やはり成功であったという記憶だと思います。
また同じことを繰り返してアメリカと交渉をし、交渉を通じた取引を何とか実現させたいと考えるのは、わかるわけであります。どうしてもその範囲から北朝鮮のほうが出ることが難しい、新しい発想に立って新しい状況に対応するというのは、私は非常に難しいであろうというふうに思います。
特に問題は、アメリカの認識が大きく変わったのは、まさに2001年の9月11日の同時多発テロ事件以降のことであります。アメリカ本土が直接狙われるということを前提に、アメリカが安全保障を考えるようになったというのは、この9月11日以降のことだと思いますが、それが結果、世の中、国際情勢を大きく変えたのも事実でありますが、アメリカ自身を大きく変えたと私は思います。
しかし、その点について、北朝鮮が果たしてどれだけ理解をしているのか、あるいは特に北朝鮮の場合ですと、金正日(キム・ジョンイル)総書記が、どれだけその点をきちっと把握しているのかということを考えますと、恐らくよくわかっていないのであろうと私は思います。その点を理解するのは、外から見ていると難しいかもしれない。だとしますと、北朝鮮側の観点からしますと、93、94年にやったことを繰り返せば、きっと最後はアメリカが交渉に応じ、取引に応じてくれるのではないか。すなわちアメリカを脅すということであります。アメリカを脅せば、最終的にはアメリカが交渉に応じてくれる、そして交渉を通じた取引も可能かもしれないということではないかと思います。
今後の展開ということを考えてみますと、北朝鮮は必ず今の危機のレベルを上げてくるであろうと思います。その際、今、よく言われることは、3つございます。1つは北朝鮮がプルトニウムの生産に入るということであります。
2番目は、弾道ミサイルの発射実験を再び行う。今度の場合には、テポドン2号になり、より射程の長いものをやる可能性がある。
そして3番目に、核保有宣言、あるいは核実験を行うということが、北朝鮮が使用し得る3つのカードということで、よく言われます。
私はこの3番目の核保有宣言なり核実験というのは、当面のところ、ほとんど可能性がないと考えております。それは、基本的に北朝鮮が今まで自分たちは核兵器を持たない、朝鮮半島の非核化を支持する、実現させると言ってやってきたわけでありますので、いったんこの態度を翻して核保有ということになりますと、これは完璧に国際的に孤立する。中国、ロシアすら、もはや北朝鮮との密接な関係を持ち得ないという状況をつくるということでありますので、私は北朝鮮が簡単にそういう方向に踏み出すとは考えておりません。
ただし問題は、プルトニウムの生産、そしてミサイルの発射でありますが、この2つは十分にあり得る、それをカードとして切ってアメリカをより脅かして、アメリカを交渉のテーブルに何とか引っ張り出し、そして取引をしようという状況に、近いうちに北朝鮮は歩むであろうというふうに思っております。
問題は、そのプルトニウムが先かミサイルが先かという話でありますが、私はより確実なものから北朝鮮はカードを切るのではないかと思っておりますので、順番で言うならば、プルトニウム生産のほうが先になる可能性のほうが高いと思います。というのは、ミサイル発射というのは、発射に失敗をする可能性があるわけです。いったん失敗をいたしますと、ミサイルカードというのは、ほとんど効力を失うということがあります。しかし、プルトニウム生産というのは、きちっと準備を踏まえて抽出に入れば、確実にプルトニウムは手にすることができるわけです。確実性からしますと、プルトニウムのほうがはるかに高い。従って私は、カードを切る順番からすれば、より確実性の高いもので、アメリカを脅しにかかるということが当面、この数カ月、比較的近い時期、イラク戦争が一段落した後にはそういう方向にいくのではないか。
そうしますと、それは大変緊張を高める。そして、アメリカを相当刺激する、アメリカは相当深刻な懸念を持つはずであります。すなわち直接アメリカの安全が脅かされるかもしれないとブッシュ政権は考えるはずでありますので、これは大変危険なゲームであろうと。93、94年に行ったことよりもはるかに危険なゲームを北朝鮮はやろうとしている。ですから、事前に北朝鮮に思いとどまってもらう、あるいは思いとどまらせる、北朝鮮にそういう挑発的な脅しのゲームをやらないようにもっていくことが望ましいと思っておりますが、それはなかなか簡単なことではないと考えております。ありがとうございました。
本田 ありがとうございます。トップバッターの方、大変だと思いますが、時間が多少長めになっています。この後の方、できるだけ10分の制限時間を守っていただけたらと思います。
次はガルーチさん。ガルーチさんは93年、94年の危機のときには、国務次官補から北朝鮮との実際の交渉の担当大使をされまして、また枠組み合意という重要な節目の協定をつくられた方です。それでは、ガルーチさん、お願いいたします。